【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】

旅する書斎(☆ほしい)

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第17話 虹色の奇跡と、世界で一番甘いプロポーズ

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王国の創立記念祭、当日。

王都は、まるでおとぎ話の国みたいに、色とりどりの旗や花で飾られ、道行く人々はみんな、笑顔で、お祭りムード一色だった。

でも、その華やかな喧騒の裏で、今、この国の運命を賭けた、静かな戦いが始まろうとしている。

私とレオン様は、決戦の地、王宮の中央広場に設けられた、巨大な儀式場へと向かっていた。

レオン様は、ヴァイスハイト家に代々伝わる、純白の儀式用の礼装に身を包んでいる。

金糸で縁取られたその服は、彼の銀色の髪と、サファイアの瞳を、いっそう神々しく引き立てていた。

そして、私も。

彼が、昨夜、魔法で用意してくれた、聖なる光を織り上げたような、清らかな白銀のドレスをまとっていた。

「……綺麗だ、いちご」

儀式場へ向かう廊下で、彼が、ぽつりと言った。

その声が、あまりにも優しくて、私の心臓がきゅんとなる。

「レオン様こそ……すごく、素敵です」

「お前にとって、一番格好いい俺でいたいからな」

さらり、とそんなことを言う彼に、私はもう、顔を上げることもできない。

私たちは、手を取り合って、儀式場の中心へと進んだ。

広場には、すでに、大勢の観衆が集まっている。

国王陛下を始めとする王族の方々、国の重鎮である貴族たち。そして、その後ろには、このお祭りを見に来た、たくさんの王都の人々。

その、全ての視線が、私たち二人に注がれていた。

壇上には、玉座に座る国王陛下の隣に、あの、アルビオン公爵が、にこやかな笑みを浮かべて控えている。

その目が、一瞬だけ、蛇のように、私たちを捉えた。

(あの人が、黒幕……)

ゴクリ、と喉が鳴る。

でも、怖くない。

隣には、レオン様がいる。

私の手には、みんなの想いが詰まった、『虹色の光のドロップ』がある。

レオン様は、儀式のための中央の魔法陣の上に立つと、私に向かって、優しく微笑んだ。

「見ていてくれ」

その瞳に、私は、力強く頷き返した。

ゴォン、と、始まりを告げる、厳かな鐘の音が鳴り響く。

レオン様は、すっと目を閉じ、古の呪文を、朗々と唱え始めた。

彼の体から、あの夜会で見た、黄金色の聖なる魔力が、穏やかな光の渦となって、天へと昇っていく。

なんて、綺麗なんだろう。

会場中が、その神々しい光景に、息をのむ。

全てが、順調に、進んでいるように、見えた。

その、瞬間だった。

「―――時は、満ちた!!」

アルビオン公爵が、杖を、高々と突き上げた。

その声は、もはや、いつもの穏やかなものではなく、狂気と、野心に満ちた、醜い絶叫だった。

彼の叫びに呼応するように、儀式場全体が、禍々しい紫色の光を放った!

「なっ……!?」

足元の、大理石の床。

その下に、あらかじめ、巨大な、邪悪な魔法陣が、刻まれていたんだ!

紫色の魔法陣は、レオン様の聖なる魔力を、無理やり増幅させ、そして、汚染していく。

穏やかだった黄金の光は、見る見るうちに、どす黒い、紫電をまとった、破壊のエネルギーへと変わっていく。

「ぐ……っ、ぁあああ!」

レオン様の、苦しそうな声が響き渡る。

彼の意に反して、暴走を始めた魔力は、巨大な竜巻となって、天を突き、王都の空を、一瞬にして、分厚い暗雲で覆い尽くした。

ゴゴゴゴゴ……!

大地が揺れ、建物が軋む。

会場は、一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

「見よ! 皆の者!」

アルビオン公爵が、その光景を指さし、高らかに叫ぶ。

「これが、ヴァイスハイト家に眠る、呪われた力の正体だ! この国を、いや、世界さえも滅ぼしかねない、危険な力なのだ! 今こそ、この男を断罪し、その力を、我が王家が管理せねばならん!」

なんて、卑劣な……!

全て、このための、芝居だったんだ!

「レオン様!」

私は、彼の名前を叫んだ。

魔力の嵐の中心で、彼は、自分の力に飲み込まれまいと、必死に耐えている。

その姿が、あの温室で初めて見た、彼の孤独な姿と、重なった。

(でも、もう、あなたは一人じゃない!)

私は、ドレスの裾を翻し、走り出した。

暴走する魔力の嵐の中心へ。

「危ない、嬢ちゃん!」

「戻れ!」

騎士たちの制止を振り切り、私は、まっすぐに、彼だけを見つめて、走った。

「レオン様! 私の声を聞いて!」

風圧で、前に進めない。

紫色の電撃が、私のすぐ側を掠めていく。

でも、私は、止まらない。

ようやく、彼の目の前まで、たどり着く。

「……いちご……? なぜ、来た……! 危ない、逃げろ……!」

彼は、苦しみながら、私を遠ざけようとする。

でも、私は、首を横に振った。

そして、ポケットから、あの『虹色の光のドロップ』の入った、小瓶を取り出した。

「大丈夫」

私は、彼に、精一杯の笑顔を向けた。

「私たちが、二人で作った、最強のお守りです!」

私は、その一粒を、彼の口元へと、そっと運んだ。

彼は、一瞬だけ、躊躇した。

でも、私の瞳の中にある、絶対の信頼を読み取ると、こくりと頷き、そのドロップを、口に含んだ。

その、瞬間だった。

―――奇跡が、起こった。

パアァァァァァッッ!!!

レオン様の体の中から、虹色の、七色の光が、爆発するように、溢れ出したのだ!

それは、私がドロップに込めた、癒しの魔力。

ロゼリア様から託された、『妖精の涙』の、浄化の力。

そして、私たちの、絆の力。

虹色の優しい光は、暴走していた、どす黒い紫色の魔力を、まるで、春の雪を溶かす陽光のように、内側から、浄化していく。

「な、なんだと!? 我が魔力が、消えていく……! ば、馬鹿な!」

アルビオン公爵の、絶叫が響く。

そして、浄化されたレオン様の聖なる魔力は、私の癒しの魔力と、完全に、一つに溶け合った。

黄金色でも、若葉色でもない。

それは、世界の始まりを告げるような、温かくて、神々しくて、そして、どこまでも優しい、『聖創の魔力』へと、昇華されていた。

分厚い暗雲は、一瞬にして、吹き払われた。

天からは、祝福そのものみたいな、金色の光の粒子が、キラキラと降り注ぐ。

その光は、王都全体を、優しく、優しく包み込み、パニックに陥っていた人々の心を、穏やかに、癒していくのだった。

「……これが、俺たちの、力……」

真の力に覚醒したレオン様は、静かに、そう呟いた。

その瞳は、もう、サファイアの色じゃない。

虹色の光を宿した、慈愛に満ちた瞳だった。

彼は、アルビオン公爵を一瞥する。

ただ、それだけで。

アルビオン公爵の体は、聖なる光の鎖に、完全に縛り上げられていた。

「そ、そんな……。我が、長年の研究が……」

彼は、その場に、がっくりと膝をついた。

全てが、終わった。

静寂が戻った儀式場に、やがて、誰からともなく、拍手が起こった。

それは、一人、また一人と伝染し、すぐに、会場を揺るがすほどの、万雷の拍手と、大歓声に変わっていた。

国王陛下も、玉座から立ち上がり、にこやかに、私たちに、拍手を送ってくださっている。

レオン様は、そんな喧騒を背に、私の方へ向き直ると、優しく、優しく、抱きしめてくれた。

「……お前のおかげだ」

「いいえ……」

私は、彼の胸に顔をうずめながら、首を横に振った。

「私たち、二人で、未来を掴んだんです」

「……ああ、そうだな」

彼は、嬉しそうに笑うと、そっと、私から体を離した。

そして、会場中の、全ての人々が見守る前で、私の目の前に、ゆっくりと、ひざまずいた。

(え……? レオン様……?)

彼は、私の手を、両手で、大切そうに包み込むと、その虹色の瞳で、私を、まっすぐに見上げた。

そして、世界で一番、甘い声で、言ったのだ。

「いちご」

「改めて、言わせてほしい」

会場中の誰もが、息をのんで、彼の次の言葉を待っている。

私の心臓は、幸せの音で、はちきれそうだった。
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