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第18話 星降る夜の、新しい約束
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儀式場に、静寂が満ちていた。
暴走した魔力の痕跡も、アルビオン公爵の醜い野心も、全てが、レオン様の放つ、温かくて神々しい光の中に消え去った後。
会場中の人々が、固唾をのんで、私たち二人を見守っていた。
ひざまずき、私の手を取る、レオン様。
その、虹色に輝く美しい瞳が、熱を帯びて、まっすぐに、私だけを見つめている。
心臓の音が、耳元で、ドクン、ドクン、と大きく響いて、彼の次の言葉を、今か今かと待ちわびている。
やがて、彼は、世界で一番、甘くて、真剣な声で、言った。
「いちご」
その声が、私の名前を、宝物みたいに、優しく紡ぐ。
「改めて、言わせてほしい」
彼は、一度、ゆっくりと息を吸った。
そして、彼の全ての想いを、その言葉に乗せた。
「俺の未来、その全てを、お前にやる。俺の光も、闇も、喜びも、悲しみも、全部まとめて、お前だけのものだ。だから――」
「俺の妃になってくれ、いちご」
その、あまりにもストレートで、あまりにも熱烈なプロポーズの言葉。
私の心の中に、どーん!と、幸福の爆弾が落ちてきたみたいだった。
思考が、完全に停止する。
嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいで、どうにかなってしまいそう。
私の瞳から、ぽろり、ぽろりと、大粒の涙が、後から後から、溢れ出してくる。
でも、それは、悲しい涙なんかじゃない。
人生で、一番、温かくて、キラキラした、幸せの涙だった。
私が、しゃくりあげながらも、何度も、何度も、力強く頷くと、彼は、本当に嬉しそうに、安心したように、目を細めた。
「……はいっ……!」
私は、ようやく、声を絞り出す。
「喜んで……! あなたの、お妃に、なります……!」
私の答えを聞いて、彼は、そっと、立ち上がった。
そして、空いている方の手を、すっと、天にかざす。
すると、彼の指先に、あの神々しい『聖創の魔力』が、キラキラと輝く光の粒子となって、集まってきた。
その光は、やがて、一つの、美しい形を成していく。
それは、繊細な、銀色のリングだった。
中央には、小さな、虹色の宝石が、彼の瞳みたいに、キラキラと輝いている。
彼は、その光の指輪を、私の左手の、薬指に、そっと、通してくれた。
指輪は、私の指のサイズに、ぴったりとフィットする。
まるで、ずっと昔から、そこにあるのが、当たり前だったみたいに。
その瞬間。
ワアアアアアアアッッ!!
会場中から、割れんばかりの、万雷の拍手と、大歓声が、巻き起こった。
祝福の嵐が、私たち二人を、優しく、優しく、包み込んでいた。
玉座から、国王陛下が、にこやかに頷いてくださるのが見えた。
二人の婚約を、この国の王が、公式に認めてくれた瞬間だった。
*
事件の後始末は、迅速に進められた。
アルビオン公爵は、国家反逆の罪で、すぐに捕らえられ、彼の企みに加担した貴族たちも、次々と裁かれていった。
そして、あの事件から数日後。
私は、学園の中庭で、旅立ちの準備を整えた、ロゼリア様と、向き合っていた。
彼女は、もう、あのプライドの高いドレスではなく、動きやすい、上品な旅装に身を包んでいた。
その表情は、驚くほど、晴れやかだった。
「……本当に、行ってしまうのですね」
「ええ。わたくし、決めましたの。国外の魔法先進国へ留学して、もう一度、魔法を一から学び直そうと」
彼女は、そう言って、にこりと微笑んだ。
「これからは、家の名誉のためではなく、わたくし自身の、誇りのために。そして、いつか、この国や、人々を、本当に守れるような、そんな魔法使いになってみせますわ」
その瞳は、強く、美しく、輝いていた。
「……あの、ロゼリ様。本当に、ありがとうございました。あなたがいなければ、私……」
「お礼を言うのは、わたくしの方ですわ、天野さん」
彼女は、私の言葉を、静かに遮った。
「あなたに会わなければ、わたくしは、一生、狭いプライドと、家のしがらみに囚われたまま、本当の“強さ”も、“優しさ”も、知らないままでした。あなたと、レオン様が、教えてくださったのです」
そして、彼女は、少しだけ、悪戯っぽく笑った。
「まあ、レオン様を、あなたに取られてしまったのは、正直、今でも、ちっとも悔しくないと言えば、嘘になりますけど」
「あ、あはは……」
「でも、あの人の隣には、やはり、あなたのような、太陽みたいな方が、相応しい。……レオン様のこと、よろしく、お願いいたしますね」
そう言って、彼女は、私に、すっと、手を差し出した。
それは、初めて見る、彼女からの、友情の証。
私は、その手を、力強く、握り返した。
「はい!」
私たちは、顔を見合わせて、笑い合った。
もう、彼女は、私のライバルじゃない。
遠い場所で、同じ空の下で、それぞれの夢に向かって頑張る、大切な、仲間だった。
*
「――失礼いたします」
その日の午後。
私は、レオン様に連れられて、生まれて初めて、ヴァイスハイト家の、壮麗な屋敷を訪れていた。
通された、豪華な応接室。
そこに座っていたのは、レオン様と、瓜二つの、銀色の髪と、サファイアの瞳を持つ、厳格な顔つきの男性。
レオン様のお父様、ヴァイスハイト公爵、その人だった。
ゴクリ、と喉が鳴る。
あまりの威圧感に、私の体は、カチコチに固まってしまっていた。
公爵様は、値踏みするように、私を、じっと見ている。
「……君が、天野いちご、か」
「は、はい! 天野いちご、と申します!」
「息子の運命を、そして、我がヴァイスハイト家の運命をも、大きく変えてしまった、製菓科の娘……」
その声は、低くて、感情が読めない。
歓迎されていないことだけは、ひしひしと伝わってくる。
隣で、レオン様が、何か言おうとするのを、私は、そっと、手で制した。
これは、私が、向き合わなければいけないことだから。
私は、すっと、背筋を伸ばし、公爵様の目を、まっすぐに見つめ返した。
「はい。私は、ただの製菓科の生徒です。家柄も、特別な力も、ありません」
「ですが」と、私は続けた。
「私には、レオン様の心を、誰よりも、優しく、温かく、支える自信があります。彼のパティシエールとして、彼の妃として、一生涯、彼のそばで、彼を笑顔にし続けると、お約束します」
私の、覚悟。
公爵様は、黙って、私の言葉を聞いていた。
私は、持参したティーセットを取り出すと、その場で、心を落ち着かせる効果のある、特製のハーブティーを淹れ始めた。
もちろん、ただのハーブティーじゃない。
私の、ありったけの、優しい魔法を込めた、特別な一杯だ。
湯気の向こうで、公爵様の眉が、ぴくりと動いたのが見えた。
「……どうぞ」
差し出したカップを、彼は、訝しげに受け取ると、一口、静かに、口に含んだ。
その瞬間、彼の、険しい表情が、ほんの、ほんの少しだけ、和らいだ気がした。
長い、長い、沈黙。
やがて、彼は、ふう、と、大きなため息を、一つ、吐いた。
「……レオンが、あのような、穏やかな顔をするようになったのは、君と出会ってからだ」
ぽつり、と彼が呟いた。
「長年、あの子の苦しみに、気づいてやれなかったのは、この私だ。父親、失格だな……」
その声には、深い後悔と、そして、息子への愛情が、滲んでいた。
彼は、カップを置くと、もう一度、私の顔を見た。
その瞳は、もう、冷たくはなかった。
「……息子のことを、よろしく頼む」
その一言に、私は、全てを許された気がして、涙が、また、こぼれそうになった。
*
全ての障壁が、なくなった。
その夜。
私とレオン様は、ヴァイスハイト家の、星が降ってきそうなほど美しい庭園で、二人きり、静かな時間を過ごしていた。
「……疲れただろう」
「いいえ。すごく、ドキドキしましたけど……」
「父が、すまなかったな」
「ううん。お父様、本当は、レオン様のことが、大好きなんですね」
「……どうだかな」
彼は、そう言って、そっぽを向く。
その照れた横顔が、愛おしくて、たまらない。
私たちは、ベンチに座り、黙って、夜空を見上げていた。
たくさんのことが、あった。
彼と出会って、私の世界は、本当に、一変した。
辛いことも、悲しいことも、たくさんあったけど。
でも、その後には、必ず、何倍もの、幸せが待っていた。
「なあ、いちご」
不意に、彼が、私の名前を呼んだ。
「ん?」
「俺たちの、未来について、一つ、提案があるんだが」
「提案、ですか?」
私が、首をかしげると、彼は、最高の、とびっきりの笑顔を、私に向けた。
それは、私が、今まで見た中で、一番、幸せそうな笑顔だった。
「―――」
彼が、語り始めた、その計画。
それを聞いて、私は、最初は、目を丸くして、驚いて。
そして、次の瞬間には、これ以上ないくらいの、幸せな笑顔で、何度も、何度も、頷いていた。
私たちの物語は、まだ、終わらない。
暴走した魔力の痕跡も、アルビオン公爵の醜い野心も、全てが、レオン様の放つ、温かくて神々しい光の中に消え去った後。
会場中の人々が、固唾をのんで、私たち二人を見守っていた。
ひざまずき、私の手を取る、レオン様。
その、虹色に輝く美しい瞳が、熱を帯びて、まっすぐに、私だけを見つめている。
心臓の音が、耳元で、ドクン、ドクン、と大きく響いて、彼の次の言葉を、今か今かと待ちわびている。
やがて、彼は、世界で一番、甘くて、真剣な声で、言った。
「いちご」
その声が、私の名前を、宝物みたいに、優しく紡ぐ。
「改めて、言わせてほしい」
彼は、一度、ゆっくりと息を吸った。
そして、彼の全ての想いを、その言葉に乗せた。
「俺の未来、その全てを、お前にやる。俺の光も、闇も、喜びも、悲しみも、全部まとめて、お前だけのものだ。だから――」
「俺の妃になってくれ、いちご」
その、あまりにもストレートで、あまりにも熱烈なプロポーズの言葉。
私の心の中に、どーん!と、幸福の爆弾が落ちてきたみたいだった。
思考が、完全に停止する。
嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいで、どうにかなってしまいそう。
私の瞳から、ぽろり、ぽろりと、大粒の涙が、後から後から、溢れ出してくる。
でも、それは、悲しい涙なんかじゃない。
人生で、一番、温かくて、キラキラした、幸せの涙だった。
私が、しゃくりあげながらも、何度も、何度も、力強く頷くと、彼は、本当に嬉しそうに、安心したように、目を細めた。
「……はいっ……!」
私は、ようやく、声を絞り出す。
「喜んで……! あなたの、お妃に、なります……!」
私の答えを聞いて、彼は、そっと、立ち上がった。
そして、空いている方の手を、すっと、天にかざす。
すると、彼の指先に、あの神々しい『聖創の魔力』が、キラキラと輝く光の粒子となって、集まってきた。
その光は、やがて、一つの、美しい形を成していく。
それは、繊細な、銀色のリングだった。
中央には、小さな、虹色の宝石が、彼の瞳みたいに、キラキラと輝いている。
彼は、その光の指輪を、私の左手の、薬指に、そっと、通してくれた。
指輪は、私の指のサイズに、ぴったりとフィットする。
まるで、ずっと昔から、そこにあるのが、当たり前だったみたいに。
その瞬間。
ワアアアアアアアッッ!!
会場中から、割れんばかりの、万雷の拍手と、大歓声が、巻き起こった。
祝福の嵐が、私たち二人を、優しく、優しく、包み込んでいた。
玉座から、国王陛下が、にこやかに頷いてくださるのが見えた。
二人の婚約を、この国の王が、公式に認めてくれた瞬間だった。
*
事件の後始末は、迅速に進められた。
アルビオン公爵は、国家反逆の罪で、すぐに捕らえられ、彼の企みに加担した貴族たちも、次々と裁かれていった。
そして、あの事件から数日後。
私は、学園の中庭で、旅立ちの準備を整えた、ロゼリア様と、向き合っていた。
彼女は、もう、あのプライドの高いドレスではなく、動きやすい、上品な旅装に身を包んでいた。
その表情は、驚くほど、晴れやかだった。
「……本当に、行ってしまうのですね」
「ええ。わたくし、決めましたの。国外の魔法先進国へ留学して、もう一度、魔法を一から学び直そうと」
彼女は、そう言って、にこりと微笑んだ。
「これからは、家の名誉のためではなく、わたくし自身の、誇りのために。そして、いつか、この国や、人々を、本当に守れるような、そんな魔法使いになってみせますわ」
その瞳は、強く、美しく、輝いていた。
「……あの、ロゼリ様。本当に、ありがとうございました。あなたがいなければ、私……」
「お礼を言うのは、わたくしの方ですわ、天野さん」
彼女は、私の言葉を、静かに遮った。
「あなたに会わなければ、わたくしは、一生、狭いプライドと、家のしがらみに囚われたまま、本当の“強さ”も、“優しさ”も、知らないままでした。あなたと、レオン様が、教えてくださったのです」
そして、彼女は、少しだけ、悪戯っぽく笑った。
「まあ、レオン様を、あなたに取られてしまったのは、正直、今でも、ちっとも悔しくないと言えば、嘘になりますけど」
「あ、あはは……」
「でも、あの人の隣には、やはり、あなたのような、太陽みたいな方が、相応しい。……レオン様のこと、よろしく、お願いいたしますね」
そう言って、彼女は、私に、すっと、手を差し出した。
それは、初めて見る、彼女からの、友情の証。
私は、その手を、力強く、握り返した。
「はい!」
私たちは、顔を見合わせて、笑い合った。
もう、彼女は、私のライバルじゃない。
遠い場所で、同じ空の下で、それぞれの夢に向かって頑張る、大切な、仲間だった。
*
「――失礼いたします」
その日の午後。
私は、レオン様に連れられて、生まれて初めて、ヴァイスハイト家の、壮麗な屋敷を訪れていた。
通された、豪華な応接室。
そこに座っていたのは、レオン様と、瓜二つの、銀色の髪と、サファイアの瞳を持つ、厳格な顔つきの男性。
レオン様のお父様、ヴァイスハイト公爵、その人だった。
ゴクリ、と喉が鳴る。
あまりの威圧感に、私の体は、カチコチに固まってしまっていた。
公爵様は、値踏みするように、私を、じっと見ている。
「……君が、天野いちご、か」
「は、はい! 天野いちご、と申します!」
「息子の運命を、そして、我がヴァイスハイト家の運命をも、大きく変えてしまった、製菓科の娘……」
その声は、低くて、感情が読めない。
歓迎されていないことだけは、ひしひしと伝わってくる。
隣で、レオン様が、何か言おうとするのを、私は、そっと、手で制した。
これは、私が、向き合わなければいけないことだから。
私は、すっと、背筋を伸ばし、公爵様の目を、まっすぐに見つめ返した。
「はい。私は、ただの製菓科の生徒です。家柄も、特別な力も、ありません」
「ですが」と、私は続けた。
「私には、レオン様の心を、誰よりも、優しく、温かく、支える自信があります。彼のパティシエールとして、彼の妃として、一生涯、彼のそばで、彼を笑顔にし続けると、お約束します」
私の、覚悟。
公爵様は、黙って、私の言葉を聞いていた。
私は、持参したティーセットを取り出すと、その場で、心を落ち着かせる効果のある、特製のハーブティーを淹れ始めた。
もちろん、ただのハーブティーじゃない。
私の、ありったけの、優しい魔法を込めた、特別な一杯だ。
湯気の向こうで、公爵様の眉が、ぴくりと動いたのが見えた。
「……どうぞ」
差し出したカップを、彼は、訝しげに受け取ると、一口、静かに、口に含んだ。
その瞬間、彼の、険しい表情が、ほんの、ほんの少しだけ、和らいだ気がした。
長い、長い、沈黙。
やがて、彼は、ふう、と、大きなため息を、一つ、吐いた。
「……レオンが、あのような、穏やかな顔をするようになったのは、君と出会ってからだ」
ぽつり、と彼が呟いた。
「長年、あの子の苦しみに、気づいてやれなかったのは、この私だ。父親、失格だな……」
その声には、深い後悔と、そして、息子への愛情が、滲んでいた。
彼は、カップを置くと、もう一度、私の顔を見た。
その瞳は、もう、冷たくはなかった。
「……息子のことを、よろしく頼む」
その一言に、私は、全てを許された気がして、涙が、また、こぼれそうになった。
*
全ての障壁が、なくなった。
その夜。
私とレオン様は、ヴァイスハイト家の、星が降ってきそうなほど美しい庭園で、二人きり、静かな時間を過ごしていた。
「……疲れただろう」
「いいえ。すごく、ドキドキしましたけど……」
「父が、すまなかったな」
「ううん。お父様、本当は、レオン様のことが、大好きなんですね」
「……どうだかな」
彼は、そう言って、そっぽを向く。
その照れた横顔が、愛おしくて、たまらない。
私たちは、ベンチに座り、黙って、夜空を見上げていた。
たくさんのことが、あった。
彼と出会って、私の世界は、本当に、一変した。
辛いことも、悲しいことも、たくさんあったけど。
でも、その後には、必ず、何倍もの、幸せが待っていた。
「なあ、いちご」
不意に、彼が、私の名前を呼んだ。
「ん?」
「俺たちの、未来について、一つ、提案があるんだが」
「提案、ですか?」
私が、首をかしげると、彼は、最高の、とびっきりの笑顔を、私に向けた。
それは、私が、今まで見た中で、一番、幸せそうな笑顔だった。
「―――」
彼が、語り始めた、その計画。
それを聞いて、私は、最初は、目を丸くして、驚いて。
そして、次の瞬間には、これ以上ないくらいの、幸せな笑顔で、何度も、何度も、頷いていた。
私たちの物語は、まだ、終わらない。
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