無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる

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国王陛下が、暗殺された。
その言葉が持つ意味を、すぐには誰も理解できなかった。

「今、何と申したか。」

アシュトン様が、地を這うような低い声で問い返す。
伝令兵は顔を青くして、必死に言葉を絞り出した。

「はっ、王都からの緊急の知らせが先ほど。」
「昨夜のこと、国王陛下が寝室にて何者かの手にかかったそうです。」
犯人は、まだ捕まっていないとのことだった。

その報告は、私達の計画を根元から揺さぶった。
王都へ向かい、国王に会って真実を話すつもりだった。
兄であるアルフォンスの口から、全てを明らかにさせるはずだったのだ。
国をむしばむ教団の存在を、公にするための計画が崩れた。

城門の前にいた辺境の民も、その悪い知らせに息を呑んだ。
遠い存在であった王の死が、自分たちの未来を不安にさせる。
漠然とした恐れが、その場にいる者たちの心を支配した。
騎士たちの間にも、動揺がさざ波のように広がっていく。

「国王陛下が、亡くなっただと。」
「一体、誰がそんな大それたことを。」

だが誰よりも大きな衝撃を受けたのは、私の隣にいたアルフォンスだった。
彼の顔から、すうっと血の気が引いていく。
その瞳は大きく開かれ、虚空を見つめていた。

「父上が、死んだというのか。」

彼の唇から、とてもか細い声が漏れた。
彼は馬の上で、ぐらりと体を揺らす。
今にも、地面に落ちてしまいそうだった。

「お兄様、しっかりしてください。」

私は、慌てて彼の馬に駆け寄った。
彼の手を取ると、氷のように冷たい。
その手は、小さく震えていた。

「嘘だ、そんなことがあるはずない。」
「あの父上が、殺されることなど絶対にありえない。」

彼はまるで子供のように、首を横に振って現実を拒む。
あれほど憎んで、乗り越えようとしていた父親だった。
あまりにも突然で、理不尽な死は彼の心の弱い部分を砕いた。
彼が罪を償い、新たな道を進もうとした時の出来事だった。

「落ち着いてください、お兄様。」

私は、馬上の彼の手を強く握った。
私の手の温もりで、彼の意識を現実に引き戻そうと試みる。
しかし、彼の混乱はなかなか収まらなかった。

「俺のせいだ、俺があんな連中と手を組んだからだ。」
「俺が、父上を殺したも同然だ。」

彼は、自分を責め始めた。
罪の意識が、大きな波のように彼の心を飲み込もうとする。
このままでは、彼の精神が壊れてしまうだろう。
私は彼の目を見て、はっきりとした声で言った。

「違います、お兄様。」
「あなただけの責任ではありません。」
「これは、私達全員が向き合うべき問題です。」

「あなたを責めている時間はないのです。」
「今すべきことは、悲しむことではなく前へ進むことです。」
「亡くなられた国王陛下のためにも、この国を守るためにも。」

私の言葉は、危機的な状況にある人への基本的な対応だった。
パニック状態の相手には、まず安心感を与える。
そして次に、具体的な行動を示すのだ。
そうすることで、混乱した心を整理させる手助けになる。

アルフォンスの瞳に、わずかに理性の光が戻った。
彼は、私の顔をじっと見つめている。
その時アシュトン様が、馬を私達の隣に進めた。

「リリアーナの言う通りだ、アルフォンス殿。」
「今は、涙を流している場合ではない。」
「あなたは、もはやただの王子ではないのだからな。」

アシュトン様の言葉は、厳しく響いた。
だがその奥には、アルフォンスを励まそうとする意志があった。

「国王陛下が亡くなった今、この国の跡継ぎはあなたしかいない。」
「あなたが、次の王になるのだ。」
「その覚悟は、あなたにあるか。」

アシュトン様の問いに、アルフォンスは息を呑んだ。
王という、その言葉の重みが彼の両肩にのしかかる。
彼は震える手で、自分の胸を押さえた。
その顔には恐怖と戸惑いと、そしてかすかな決意の色が浮かんだ。

軍議は、急いで城門の前で続けられた。
私達は馬を下りて、辺境の民が見守る中で話し合う。

「どうしますか、アシュトン様。」
ギデオンさんが、厳しい顔で尋ねた。
「このまま、王都へ向かうのですか。」

「王都は今、大混乱に陥っているはずです。」
「国王陛下を暗殺した犯人は、おそらく教団の者たちでしょう。」
「奴らはこの混乱に乗じて、一気に権力を手に入れるつもりです。」

「危険すぎます。」
レオさんも、不安な顔で言った。
「王都の貴族たちが、どう動くか分かりません。」
「第二王子を支持する者たちが、アルフォンス様を犯人にしないとも限らない。」
「今王都へ向かうのは、自ら危険に飛び込むようなものです。」

騎士たちの意見は、正しい。
状況は、私達にとって最悪だった。
だが、アシュトン様の決意は揺らがなかった。

「いや、行くのだ。」
彼は、きっぱりと言い切った。
「今だからこそ、行かなければならない。」

「敵が、最も油断しているのは今この瞬間だ。」
「彼らは私達がこの知らせに驚き、辺境で動けずにいると思っているだろう。」
「その、心の隙を突くのだ。」

「私達の目的は、変わらない。」
「教団を倒し、この国の未来を取り戻すことだ。」
「いや、目的はさらに大きくなった。」
「アルフォンス殿を、無事に玉座へ座らせる。」
「それこそが、亡き国王陛下への一番の弔いになるはずだ。」

彼の言葉は、騎士たちの心に再び火をつけた。
そうだ、私達はただの騎士団ではない。
この国の運命を、その両肩に背負う義勇軍なのだ。
ダリウスさんが、戦斧を力強く地面に突き立てる。

「面白い、やってやろうじゃないか。」
「王都の連中に、俺たちの本当の力を見せてやる。」

その言葉をきっかけに、騎士たちから雄叫びが上がった。
彼らの目に、もう迷いの色はない。
辺境の民たちからも、私達を応援する声が飛んだ。

「辺境伯様、行ってください。」
「俺たちのことは、心配いりません。」
「あんた達の帰りを、いつまでも待っています。」

その温かい声援が、私達の背中を強く押してくれた。
アルフォンスは、その光景をただ呆然と見つめる。
民と領主が、これほど固い絆で結ばれているのだ。
彼が育った王都では、決して見られない光景だった。
彼の心に、何かが確かに刻まれた瞬間だった。

アシュトン様は再び馬に乗ると、集まった者たちに宣言した。

「聞け、グレイウォールの民よ。」
「我々は、この国の夜明けを拓く戦いへ向かう。」
「我々がいない間、この地を頼んだぞ。」
「我々の帰る場所を、必ず守り抜いてくれ。」

地鳴りのような歓声が、天にまで届くかのように響いた。
アシュトン様は剣を抜き、その切っ先を王都の方角へ向ける。

「出陣だ。」
「我々の正義を、この世に示す時が来た。」

その号令と共に、私達は再び進み始めた。
悲しみを乗り越え、決意を固めた私達の足取りは確かだ。
王都では、想像を超える困難が待っているだろう。
だが私達には、守るべきものがある。
この温かい故郷と、ここに生きる人々の笑顔があるのだ。
そして共に戦う、かけがえのない仲間たちがいる。
それさえあれば、私達はどんな闇にも立ち向かえるはずだ。

私は、アシュトン様の隣で馬を走らせた。
彼の横顔は、今までで一番気高く、そして美しく見えた。
私の胸の中にも、静かで熱い炎が宿っていた。

王都までの道は、決して楽ではなかった。
道中いくつかの村を通ったが、どこも妙な空気に包まれていた。
人の姿が、ほとんど見当たらない。
家々の窓は固く閉ざされ、まるで誰も住んでいないかのようだ。
時々物陰から、怯えた視線が私達を窺っていた。
彼らは私達を警戒しているのか、何か別のものを恐れているのか。

アルフォンスの情報では、これらの村は豊かな場所だった。
その変わり果てた姿に、私達は不安を覚えた。
教団の悪い影響は、すでに王国の隅々まで広がっているのかもしれない。

そんなある夜、私達が野営の準備をしていると一人の老婆が来た。
彼女は、おそるおそる私達の元へ近づいてくる。
その手には、小さな布の包みが握られていた。

「あの、もし、よろしければこれを。」
老婆は、震える手でその包みを私に差し出した。
中には、いくつかの黒いパンと干した果物が入っている。
この状況では、とても貴重な食料のはずだ。

「これは、どうしてくださるのですか。」
私が尋ねると、老婆はしわくちゃの顔で弱々しく笑った。

「あなた様方は、辺境伯様の軍隊でございましょう。」
「王都を、救いに来てくださったと噂で聞きました。」
「私達には何もできませんが、せめてもの気持ちでございます。」
「どうか、これをお納めください。」

その言葉に、私は胸を打たれた。
絶望的な状況でも、希望を捨てずに私達を信じる人々がいる。
その事実が、何よりも私達の力になった。

「ありがとうございます、おばあさん。」
「必ず、この国に平和を取り戻すと約束します。」
私がそう言うと、老婆は何度も頷いて涙を拭いた。
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