【奨励賞】元・地味な令嬢ですが、婚約破棄されたので聖獣と建国します~追放した王太子と聖女は、今さら私を求めないでください~

旅する書斎(☆ほしい)

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第18話

地質調査隊がもたらした二つの吉報はヴァイスランド全体を新たな熱狂の渦に巻き込んだ。幻の金属ヒヒイロカネの発見と、龍脈の真上に位置する理想的な建設地の特定。私たちの「地下大動脈計画」はもはや夢物語ではない。実現可能な目標として皆の目の前に明確な姿を現したのだ。

数日後、縦坑の建設予定地である東の盆地で起工式が執り行われた。ささやかだが厳かな式だ。そこには私や村の幹部たち、そしてギムリ長老を始めとするドワーフの使節団が集結していた。

盆地の中央にはヒューゴとラルスの指揮のもと、すでに頑丈な作業用の足場や資材置き場が建設されている。その中心、これから巨大な穴が穿たれる地面には清められた杭が打ち込まれていた。

「今日、私たちはこのヴァイスランドの歴史、いやこの世界の歴史に新たな一ページを刻むための第一歩を踏み出します」

私は集まった皆を前にして静かに語り始めた。

「この事業は困難を極めるでしょう。私たちの前には未知の困難がいくつも待ち受けているに違いありません。しかし私たちは一人ではない。ここには人間の知恵とドワーフの技がある。何よりも共に未来を創りたいと願う熱い心が集まっている。力を合わせれば越えられない壁などないと私は信じています」

私の言葉にヴァイスランドの民もドワーフたちも皆が力強く頷いた。

「この計画が成し遂げられた時、地上と地下は一つに結ばれます。私たちの世界は今よりもっと豊かで素晴らしいものになるでしょう。さあ、皆さん、共に創りましょう。私たちの手で新しい時代を!」

私の宣言を合図に「わあっ」という歓声が盆地全体に響き渡った。ギムリ長老が私の隣で満足げにその豊かな白髭を揺らしている。

起工式が終わると早速本格的な作業が開始された。その主役はボリンとボルガンが寝る間も惜しんで開発した全く新しい掘削機械だった。

それはシルヴァヌス号の蒸気機関を遥かに凌ぐ巨大な魔導エンジンを搭載し、先端には精錬されたヒヒイロカネで作られた巨大なドリルが取り付けられている。ドリルの表面にはボルガンによって岩盤を砕き土を軟化させるためのルーンが無数に刻み込まれていた。人間とドワーフの最高技術が融合したまさに怪物のような機械だ。

「よし、野郎ども! エネルギー充填、始めるぞ!」

ボルガンの野太い号令が飛ぶ。
ドワーフの技術者たちが掘削機と龍脈からエネルギーを取り出すための装置を太いケーブルで接続していく。装置の中央には私が創成魔法で創り出した、魔力を効率よく集束させるための巨大な水晶がはめ込まれていた。

「エリアーナ様、お願いしやす!」

ボリンが私に合図を送る。
私は装置にそっと手を触れ創成魔法を発動させた。私の魔力が龍脈の巨大なエネルギーの流れに干渉し、その一部を安全な形で装置へと引き込んでいく。

「ブゥゥゥン」という低い唸り音と共に装置の水晶が眩い光を放ち始めた。その光はケーブルを伝って掘削機の魔導エンジンへと流れ込んでいく。

「エンジン、起動! ドリル、回転開始!」

ボリンが操縦席でレバーを引いた。
「ゴゴゴゴゴ……」という地響きと共にヒヒイロカネのドリルが凄まじい勢いで回転を始める。その回転は目に見えないほどの高速に達し、やがて「キィィン」という甲高い金属音だけが周囲に響き渡った。

「掘削、開始だあああ!」

ボルガンの叫びと共にボリンがもう一つのレバーを押し込んだ。
回転するドリルがゆっくりと地面に下ろされていく。そして大地に触れた瞬間。

ズズズズズズズ……!

頑丈な岩盤がまるで柔らかい豆腐のようにいともたやすく削り取られていった。けたたましい騒音はなく、むしろ吸い込まれるように静かに、しかし圧倒的な力で掘削機は大地を穿っていく。ルーンの力が岩盤の抵抗を無力化しているのだ。
その信じられない光景に見ていた誰もが固唾を飲んで立ち尽くしていた。

その頃、王都では全く異なる光景が繰り広げられていた。
ガンツの計画通りヴァイスランドからの食料を積んだ輸送隊は、彼の用意した秘密のルートを通り無事に王都の地下水路へとたどり着いていた。そこで待っていたのはガンツが信頼する商会の者たちと、王家の圧政に反旗を翻した市民たちの自警団だった。

「おお、本当に来てくれたか! これが北からの恵み……!」

自警団のリーダーらしき男がヴァイス麦の栄養クッキーが詰められた麻袋を手に取り、感極まったように声を震わせた。

「ああ。北の賢女エリアーナ様から飢えに苦しむ人々への贈り物だ。ただしタダではない。これに見合うだけの対価は支払ってもらう」

輸送隊の責任者であるハンスが冷静に告げる。

「分かっている! 金目のものならいくらでもある! 貴族どもから取り返した宝飾品、美術品……。これで足りるか!」

自警団の男たちは略奪したものであろうきらびやかな宝石や金の杯を無造作に差し出した。
こうしてヴァイスランドの食料は王宮の知らぬ間に王都で最も飢えに苦しむ貧民街の民衆の元へと届けられていった。

「うめえ……! なんて栄養のあるクッキーだ……!」
「これを食べると力が湧いてくるようだぜ!」
「北のエリアーナ様は俺たちを見捨てなかった! 本当の聖女様はあの方だったんだ!」

民衆はヴァイスランドからもたらされた命の糧に涙を流して感謝し、エリアーナを新たな救世主として崇め始めた。その一方で王宮に閉じこもり何もしないジュリアスとユナに対する憎悪は日に日に増していく。

その噂は当然、王宮の耳にも入っていた。
玉座の間でジュリアスは貴族からの報告を受け激しい怒りに顔を歪めていた。

「なんだと!? エリアーナが民衆に食料を流しているだと!? あの女、我々を差し置いて民衆の支持を奪い取るつもりか! 許さん、絶対に許さんぞ!」

彼は近くにあった高価な壺を壁に投げつけて粉々に砕いた。しかしその怒りは彼の無力さの裏返しでしかないことをその場にいた誰もが理解していた。

「……どうして……。エリアーナさんがそんなことを……」

彼の隣に立つユナは血の気の失せた顔で力なく呟くだけだった。彼女の聖なる力はあの黒い雨を降らせた日を境に完全に失われていた。癒やしの力どころか今では彼女の周りだけ花がすぐに枯れてしまうという有様だ。かつて彼女を女神と崇めていた貴族たちは今や彼女を疫病神のように扱い冷たい視線を向けている。

「黙れ、役立たずが!」

ジュリアスはユナの肩を突き飛ばした。

「貴様のせいで全てがめちゃくちゃだ! もし貴様など現れなければ今頃エリアーナは私の隣でこの国は安泰だったものを!」
「そ、そんな……。ジュリアス様……」

ユナの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。しかしその涙に同情する者はもはやどこにもいなかった。
彼らが演じた甘美な物語はすでに破綻していた。残されたのは醜い責任のなすりつけ合いと迫り来る破滅の足音だけだった。

一方ヴァイスランドでは掘削作業と並行して新たな国造りのための議論が着々と進められていた。
その日の議題はガンツが以前から提唱していた通貨の問題だった。

「ヴァイスランド、ゴードン領、そしてドワーフの国グズ=ドゥーム。この三つの勢力で強固な経済同盟を結び、新たな共通通貨を発行することを改めて提案いたします」

集会所に集まった私、ギムリ長老、そしてゴードン男爵の名代として派遣されたダグラス騎士団長を前にガンツは熱弁を振るっていた。

「共通の通貨を持つことは単に交易を円滑にするだけではありません。それは我々が運命共同体であることの証となり、外部の勢力に対する強力な抑止力ともなり得ます。王国の権威が失墜しつつある今こそ我々が新しい経済圏の中心となるべきです」

ガンツの壮大な構想にギムリ長老もダグラス殿も深く頷いた。

「うむ。理に適った考えだ。我らドワーフも異存はない」
「ゴードン領としても異議はございません。エリアーナ様のお考えに全て従います」
「決まりね。では早速新しい共通通貨の設計に取り掛かりましょう」

私の言葉にその場は再び創造的な熱気に包まれた。
どんな素材を使いどんなデザインにするか。それぞれの国の誇りと未来への希望をその小さな円盤にどう込めるか。

「素材にはやはり新しく発見されたヒヒイロカネを僅かに混ぜ込んだオリハルコン・アダマント合金を使うべきでしょう。その輝きと価値はどの国の金貨をも凌駕するはずです」

私がそう提案するとギムリ長老が続けた。

「うむ。そしてその表面に我らドワーフのルーンを刻む。偽造防止はもちろんのこと持つ者に幸運をもたらす守りのルーンだ」
「素晴らしい! デザインですが表面には手を取り合う人間とドワーフの姿を。そして背景には豊穣の象徴であるヴァイス麦の穂を描いてはいかがでしょう。裏面には我らの同盟の象徴となる新しい紋章を刻むのです」

ダグラス殿が目を輝かせながら提案する。
三つの国の代表がそれぞれの知恵を出し合い未来の通貨の姿を形作っていく。それは国家の誕生という歴史的な瞬間に立ち会っているかのような感動的な光景だった。

話し合いが最も熱を帯びてきたその時だった。
バタン!と集会所の扉が勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは全身を泥と汗で汚したボルガンだった。その表情はいつもの豪快さとは違う、真剣な驚きと興奮に満ちている。

「エリアーナ様、長老! 掘削の途中でとんでもねえもんが見つかったぞ!」

彼は会議の席へと駆け寄ると手にしていたものをテーブルの中央に置いた。
それはこれまで見たこともない金属で作られたプレートだった。奇妙な模様がびっしりと刻まれている。ドワーフのルーンとも古代遺跡で見た文字とも違う。幾何学的でどこか未来的な印象を与えるものだった。プレートそのものが微かに魔力を帯びて淡い光を放っている。

「これは……? 一体どこで……」

私が尋ねるとボルガンはゴクリと唾を飲み込み興奮した声で答えた。

「地下三百メートルの地点だ。頑丈な岩盤を掘り進めていたら突然このプレートで覆われた巨大な空洞に行き当たったんだ。その空洞の中には……信じられねえようなもんが眠ってやがった」
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