【奨励賞】元・地味な令嬢ですが、婚約破棄されたので聖獣と建国します~追放した王太子と聖女は、今さら私を求めないでください~

旅する書斎(☆ほしい)

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「女王陛下、マーサです。お召し物が、完成いたしました」

控えめなノックの後、執務室に入ってきたマーサがいた。彼女はその手に抱えた箱を誇らしげに、そして少し緊張した面持ちで私の前に差し出す。

箱が開かれると、中にあったのはドレスではなかった。機能美と優雅さを両立させた、一揃いの冒気険服だった。

「これは……」

スターライトシルクをベースに作られている。要所は動きやすいように鞣された革や、ヴァイスランド鋼の薄いプレートで補強されていた。

上着は体にぴったりとフィットするチュニック型で、下は動きやすいキュロットスカートになっている。そして膝下までを覆う頑丈なブーツもセットだ。

その全てが、夜空を思わせる深い藍色で統一されていた。まるで星々のように銀色の粒子が、きらめいている。

「マーサ、素晴らしいわ。これなら、どんな危険な場所でも動けそうね」

「はい。エリアーナ様の新たな旅の始まりに、最高の衣服をご用意したいと思いました」

マーサは丁寧に説明を始める。
「この服には、ボルガン様にも協力していただきました。軽量化と防御力を高めるルーンが刻んであります」

「さらに、温度を一定に保つ機能も付与しました。灼熱の地でも極寒の地でも、快適に過ごせるはずです」

私は早速その服に袖を通してみた。驚くほど軽く、そして自分の体の一部であるかのようにしっくりと馴染む。

スターライトシルクを通して、私の魔力が穏やかに増幅されるのが分かった。これは頼もしい。

「ありがとう、マーサ。あなたの技術と心が、私の力になります」

「もったいないお言葉ですわ」

マーサは心から嬉しそうに微笑んだ。彼女の背後では、ヴァイスランドの織物産業が力強く育っている。

その事実に、私は女王として大きな誇りを感じていた。国の成長は、民の成長そのものなのだから。

新しい冒険服に身を包んだ私は、そのままシラスを伴った。ボリンとボルガンが待つ工房へと向かう。

工房はヴァイスランドの郊外、広大な敷地に新設されていた。そこでは私たちの冒険の鍵となる、あるものの建造が最終段階を迎えていた。

「おお、エリアーナ様!ちょうど良いところに来られた!」

工房の巨大な扉を開けると、ボリンが私を迎えてくれた。彼は油と汗にまみれた顔で、しかし満面の笑みを浮かべている。

彼の後ろには、同じく満足げな表情で腕を組むボルガンの姿があった。そして、二人の背後には巨大な建造ドックが鎮座している。

その中で静かに出番を待つ、一隻の船がその威容を誇っていた。

「これが……」

それは、船だった。しかし、海を走るための船ではない。

空を飛ぶための船、『飛空艇』だ。全長は百メートルを超えるだろうか。

流線型の美しい船体は、ヴァイスランド鋼とヒヒイロカネを組み合わせた特殊合金で作られている。月光を浴びたかのように白銀に輝いていた。

動力源はもちろんアークから直接エネルギーを供給される新型の魔導エンジンだ。そして船体の左右と下部には、巨大な浮遊機関が取り付けられている。

そこにはボルガンが精魂込めてルーンを刻んでいた。

「どうですかい、エリアーナ様!こいつが、俺たちとあんたの夢を乗せて空を飛ぶ『アルゴス号』だ!」

ボリンが、自分の息子を紹介するかのように胸を張った。

「素晴らしいわ、二人とも。私の想像を、遥かに超える出来栄えよ」

「ふん、当たり前よ。この俺とボリンが組んだんだ。半端なもんは作れねえ」

ボルガンが豪快に笑う。
「こいつの装甲は竜のブレスでも傷一つ付かねえし、速さは音速を超えることも可能だぜ」

私はアルゴス号のタラップを上がり、その甲板に足を踏み入れた。床も壁も、寸分の狂いもなく組み上げられている。

ラルスとヒューゴの仕事の見事さが窺えた。彼らの技術もまた、この国の宝だ。

ブリッジに足を踏み入れると、そこにはアークの技術を応用した、未来的な操縦席が設置されていた。眼下には巨大な水晶のスクリーンが広がる。

周囲三百六十度の映像をリアルタイムで映し出すことができるようになっていた。

「これなら、どんな場所へも行けるわね」

『うむ。我らが翼、まさしくこれにふさわしい』

私の隣に立ったシラスも、満足げに喉を鳴らした。

飛空艇の完成を受け、私はすぐにアーティファクト探索チームの正式なメンバーを招集した。場所は、ヴァイスランドの中央作戦司令室だ。

アークと直結したこの部屋には、巨大な立体地図が表示される。リアルタイムで世界の情報を得ることができるのだ。

集まったのは、私が最も信頼する仲間たちだった。

軍事部門の最高責任者として、グレゴール隊長。
技術部門の責任者として、ボリンとボルガン。
後方支援及び物資調達の責任者として、ガンツ。
建築及びインフラ整備の専門家として、ヒューゴとラルス。
そして、医療及び生活支援の責任者として、マーサ。

もちろん、私の隣にはシラスがいる。

「皆さん、集まってくれてありがとう。ご存知の通り、私たちの星は今、未知の脅威に晒されています」

私は皆を見渡し、力強く言った。
「この脅威を打ち破るには、世界に散らばる三つのアーティファクトを手に入れる必要がある」

「これは、ヴァイスランド連合王国の、最初の国家事業です。そして、この国の未来を賭けた、最も重要な冒険となります」

私は、立体地図に最初の目的地である『東の灼熱山脈』の位置を映し出した。

「最初の目的地は、ここ。活火山が連なる灼熱の地です」

「そこに眠るという、大地の力を司るアーティファクト『ガイアの心臓』を、私たちは手に入れなければなりません」

「灼熱の山脈、ですか。偵察部隊からの報告では、通常の生物が生存できる環境ではないとのことですが」

グレゴール隊長が、冷静に分析する。彼の的確な指摘は、いつも作戦の精度を高めてくれる。

「そのための準備はできています」

私は、ボリンとボルガンに目配せした。二人は頷くと、作戦室の隅に置かれていた箱を開ける。

中には、銀色に輝く特殊な防護服が収められていた。ヒヒイロカネを繊維状に加工し、スターライトシルクと織り合わせたものだ。

「これが、我らが開発した『サラマンダースーツ』だ。摂氏千度の熱にも耐える」

ボルガンが、自信満々に説明する。
「有毒な火山ガスも完全にシャットアウトする。これさえあれば、溶岩の中を散歩することだって可能だぜ」

その圧倒的な性能に、グレゴール隊長も感嘆の声を漏らした。

「素晴らしい……。これならば、問題ありませんな」

「ガンツ、食料や薬品などの物資の準備は?」

「はい、女王陛下。すでにアルゴス号への積み込みは完了しております」

ガンツは手元の資料を確認しながら、淀みなく報告する。
「ヴァイス麦の栄養食、最新の治療薬、そしてドワーフの皆さんが用意してくれた滋養強壮のエールまで、数ヶ月は補給なしで活動できるだけの量を確保いたしました」

ガンツの完璧な仕事ぶりに、私は満足して頷いた。

「よし、では、探索チームのメンバーを最終決定します。私とシラス」

「戦闘部隊の指揮官としてグレゴール隊長、そしてボルガン殿。技術顧問としてボリン。医療班としてマーサ」

「そして、グレゴール隊長の補佐として、防衛隊の精鋭十名を同行させます」

私は続ける。
「ガンツとヒューゴ、ラルス、クラウスさんは、このヴァイスランドで留守を預かってください」

「あなたたちには、私たちが冒険をしている間も、この国をさらに発展させるという重要な任務があります」

「「「はっ!お任せください!」」」

指名された者も、残る者も、皆が力強く返事をした。私たちの心は、完全に一つになっていた。

国の政治は、アルバート宰相を中心とした新政府に一時的に委ねる。アークの超高速通信を使えば、どこにいても彼らと連絡を取ることは可能だ。

全ての準備が整った。
三日後の早朝、アルゴス号が停泊するヴァイスランド郊外の巨大な発着ポートには、再び全ての民が集まっていた。

私たちを見送るために集まってくれたのだ。

「女王陛下、どうかご武運を!」

「エリアーナ様、必ずやご無事で!」

人々の声援が、波のように押し寄せる。私は、アルゴス号の甲板から、彼らに向かって大きく手を振った。

「行ってきます!私たちの国を、そしてこの星の未来を、必ず守ってみせます!」

私の言葉を合図に、アルゴス号の魔導エンジンが静かに起動した。船体を覆う巨大なルーンが淡い光を放ち始める。

巨体がふわりと、何の抵抗もなく宙に浮き上がった。

「おお……!浮いたぞ!」

「空を……船が飛んでいる……!」

地上の人々は、その奇跡のような光景に、ただただ息を呑んで見上げていた。

アルゴス号は、ゆっくりと高度を上げていく。眼下には、私たちが創り上げた美しい国が、まるで宝石箱のように広がっていた。

「アルゴス号、進路を東へ!最大船速!」

私がブリッジで号令をかけると、船は凄まじい勢いで加速した。あっという間に雲を突き抜け、どこまでも広がる青空の中へと躍り出る。

眼下に広がる大陸の景色。緑の森、蛇行する雄大な川、そして遠くにはきらめく海。

その全てが、私たちが守るべきものだと、改めて心に刻んだ。

「すごい眺めだな、おい!」

ボリンが、子供のようにはしゃいでいる。

「ふん、これしきで驚くでないわ。これから我らは、もっとすごいものを見ることになるのだぞ」

ボルガンが、得意げに言った。グレゴール隊長やマーサも、初めて見る空からの景色に、目を輝かせている。

仲間たちとの、新しい冒険の始まり。私の心は、不安よりも大きな期待で満ちていた。

アルゴス号は、驚異的な速さで大陸を横断していく。
数日が過ぎた頃、私たちの眼下に広がる景色は、一変していた。

緑豊かな大地は完全に姿を消した。代わりに、黒く焼け焦げた大地と、そこから無数に突き出すようにそびえ立つ、険しい山脈が姿を現したのだ。

その山々の頂からは、常に黒い噴煙が立ち上る。空は不気味な赤色に染まっていた。

地面には、まるで血管のように溶岩の川が走っている。灼熱の空気が陽炎となって立ち上っていた。

「……あれが、東の灼熱山脈か」

グレゴール隊長が、息を呑んで呟いた。アークのセンサーが、この地域の気温や大気成分をスクリーンに表示する。

気温は常に摂氏二百度を超えていた。大気には有毒な硫黄化合物が高濃度で含まれている。

生命が存在できる環境ではない。

「アーク、アーティファクトの位置を特定して」

『了解。高エネルギー反応を走査します……。特定しました』

アークが報告する。
『目標は、あの最も大きな中央火山の、火口のさらに深部。地下約五千メートルの地点に存在します』

スクリーンに、中央火山の断面図が映し出された。その中心部でひときわ強く輝く光点が示されている。

「火山の、中心……。とんでもない場所にあるものね」

「だが、行かねばならんのだろう?」

ボルガンが、にやりと笑った。彼の目には、困難な挑戦を前にした戦士の喜びが浮かんでいる。

「ええ、もちろんよ。アルゴス号を、これより降下させます」

私は仲間たちを見渡す。
「全員、サラマンダースーツを着用。私たちは、地獄の釜の底へと、遠足に行くのですから」

私の言葉に、仲間たちは皆、不敵な笑みを浮かべて頷いた。
私たちの最初の試練が、今、始まろうとしていた。

アルゴス号は、ゆっくりと高度を下げていく。噴煙が渦巻く灼熱の世界へと、その美しい船体を沈めていった。
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