【奨励賞】元・地味な令嬢ですが、婚約破棄されたので聖獣と建国します~追放した王太子と聖女は、今さら私を求めないでください~

旅する書斎(☆ほしい)

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上水道と下水道の完備。シルヴァヌス号を基にした市内交通網の整備。緑豊かな公園の造成。そして、誰もが無料で利用できる巨大な図書館と、芸術のための劇場の建設。
彼らの計画は、私の創成魔法とアークから得られるエネルギーによって、現実のものとなっていく。

王都の民は、日に日に美しく、そして機能的に生まれ変わっていく自分たちの街の姿を見て、新女王への感謝と支持をさらに強固なものにしていった。

そんなある日、執務室で書類仕事に追われていた私の元に、ヴァイスランドから緊急の通信が入った。通信の主は、シラスだった。アークの力を使えば、遠く離れた場所にいる彼とこうして意識を繋ぐことができる。

『主よ、少し厄介なことが起きた』

彼の声は、いつになく真剣だった。

「どうしたの、シラス。何か問題でも?」

『うむ。地下大動脈の掘削作業が、地下二千メートルの地点で未知のエネルギー障壁によって停止した』

「エネルギー障壁?」

『ああ。ボルガンたちが言うには、アークの遺跡で見たものと同質の、しかしさらに強力なものらしい。掘削機のドリルが、全く歯が立たないそうだ』

その報告に、私は眉をひそめた。アークの遺跡以外にも、この星にはまだ私たちの知らない超古代の遺産が眠っているというのか。

『それだけではない。その障壁の向こう側から、我々とは異なる強大な意思のようなものを感じるのだ。それは、友好的なものではない。むしろ、強い敵意と飢えのようなものを……』

シラスの言葉に、私の背筋に冷たいものが走った。
この星には、まだ私たちの知らない脅威が眠っている。
私の国造りは、この地上だけの問題では終わらないのかもしれない。

私は、すぐにアルバート宰相に事情を話し、数日間だけヴァイスランドへ戻る許可をもらった。
新しく完成した超高速通信網で、ヴァイスランドにいるボリンたちにも指示を出す。

「ボリン、ボルガン殿。掘削は一旦停止してください。私が戻るまで、決してその障壁に手を出さないように。何か、良くない予感がします」

私は、女王としての責務を宰相に託し、再びシルヴァヌス・インペリアルに乗り込んだ。
目指すは、ヴァイスランド。そして、その地下深くに現れた新たな謎。
私の胸には、これから始まるであろう新たな戦いへの予感が渦巻いていた。

列車が、王都の駅を滑るように出発する。その窓から、活気を取り戻した王都の街並みと私に手を振る民衆の姿が見えた。
私は、この笑顔を、この国を絶対に守り抜かなければならない。たとえその敵が、地の底深くに眠る未知の存在であろうとも。
私の決意を乗せて、銀色の列車は北の大地へと向かってひた走る。

その時、私の脳内に直接、警告のような声が響いた。それはアークからのメッセージだった。
『警告。レベル7以上の地殻エネルギー反応を検知。地点、ヴァイスランド東部、地下二千メートル。高次元存在の覚醒プロトコルが開始されました』

高次元存在。その言葉の意味を、私はまだ知らなかった。
しかし、それが私たちの想像を絶するような、強大な何かであることだけは確かだった。

私の本当の戦いは、これから始まるのかもしれない。
私は、窓の外を流れる景色を見つめながら、静かに、しかし強く拳を握りしめた。
私の創成魔法と、アークの力。そして、信頼できる仲間たちの絆。その全てを結集すれば、どんな脅威にだって打ち勝てるはずだ。

列車がヴァイスランドの領内に入ると、車窓の風景は一変した。どこまでも広がる豊かな大地と、そこに点在する近代的な工場や施設。その全てが、調和の取れた一つの美しい風景を創り出している。

「……これが、女王陛下の国……」

私に同行していた改革派の若い貴族の一人が、感嘆の声を漏らした。彼は、王都で生まれ育ち、ヴァイスランドを訪れるのはこれが初めてだった。

「我々が、王都で旧態依然とした権力争いに明け暮れていた間に、北の果てではこれほどまでに進んだ文明が築かれていたとはな。我々は、井の中の蛙だったようだ」

彼の言葉に、他の同行者たちも深く頷いていた。彼らは、この旅を通してヴァイスランドという国の本当の凄さを肌で感じ取っていた。

やがて、列車がヴァイスランドの中央駅に到着する。プラットホームには、シラスを先頭に、ボリンやマーサ、そしてドワーフの仲間たちが私を出迎えるために集まっていた。

「女王陛下! お帰りなさいませ!」

彼らの元気な声に、私の心も和む。やはり、ここが私の故郷だ。

私は、列車から降りると、すぐにシラスの元へと駆け寄った。
「シラス、詳しい状況を聞かせて」

『うむ。こちらへ』

私たちは、そのままシルヴァヌス号に乗り換え、問題の掘削現場へと急行した。

現場に到着すると、そこは異様な緊張感に包まれていた。巨大な縦坑の入り口には、厳重な警備体制が敷かれ、ドワーフの戦士たちがルーンが刻まれた大盾を構えて周囲を警戒している。

「エリアーナ様!」

私に気づいたボルガンが、駆け寄ってきた。その顔には、いつもの豪快さはなく深い困惑の色が浮かんでいる。

「来てくれたか。例の障壁、ますますおかしなことになってやがるんだ」

私たちは、昇降機で縦坑の底、地下二千メートルの地点へと降りていった。
そこは、強烈な圧迫感と、肌をピリピリと刺すような未知のエネルギーで満たされていた。目の前には、半透明の黒い水晶のような壁が、行く手を完全に塞いでいる。その表面には、常に形を変える幾何学的な紋様が、不気味な光を放ちながら明滅していた。

「これが……」

「ああ。アークの遺跡の扉とは、比べ物にならねえほどのエネルギーだ。そして、この向こう側から聞こえてくるんだ。奇妙な……歌のようなものが……」

ボルガンの言う通り耳を澄ますと、障壁の向こうから、人間の声とは思えない高く、そして不協和音のような音が微かに聞こえてくる。それは、聞いているだけで精神を不安定にさせるような、不快な響きを持っていた。

私は、意を決してその障壁に手を触れようとした。
その瞬間、私の脳内に再びアークからの警告が響いた。
『警告。対象は高次元エネルギー生命体『サイレン』の封印です。物理的接触は、精神汚染を引き起こす危険性があります』

「サイレン……? それが、高次元存在の、名前……?」

『肯定。サイレンは、かつて星の民がこの星の地殻深くに封印した、別次元からの侵略者です。彼らは、物質的な肉体を持たず、知的生命体の精神に寄生し、その文明を内側から崩壊させる特性を持ちます』

別次元からの、精神寄生体。私の想像を、遥かに超える存在だった。
マルバスや、彼が崇拝していた「あの方」の正体も、あるいはこのサイレンと関係があるのかもしれない。

『彼らの封印が、何らかの原因で弱まり始めているようです。このままでは、いずれ封印は破られ、サイレンが地上に解き放たれるでしょう。そうなれば、この星の全ての知的生命体が彼らの餌食となります』

アークの淡々とした説明は、この星が今、未曾有の危機に瀕していることを示していた。

私は、目の前の黒い障壁を改めて見つめた。この壁一枚の向こうに、この星の運命を左右するほどの恐ろしい脅威が眠っている。

「……どうすればいいの、アーク。この封印を再強化する方法は?」

『現在の私の機能だけでは、不可能です。封印を再構築するには、この星の龍脈そのものを制御する三つの古代のアーティファクトが必要です』

「三つのアーティファクト?」

『はい。一つは、大地の力を司る『ガイアの心臓』。一つは、大気の流れを司る『ウラノスの息吹』。そして最後の一つは、生命の源である海を司る『ポセイドンの涙』です』

アークは、私の脳内にその三つのアーティファクトの映像と、それらが眠る場所の座標を直接送り込んできた。
一つは、大陸の東の果て、活火山が連なる灼熱の山脈の奥深く。
一つは、大陸の西、空に浮かぶと伝えられる伝説の浮遊島の中心。
そして最後の一つは、南の海の最も深い海溝の底。
そのどれもが、並大抵の方法ではたどり着けない人跡未踏の秘境だった。

「……分かったわ。私が、それらを全て手に入れてみせる」

私は、迷いなく答えた。私には、この星を、そして私の愛する国を守る義務がある。

「ボルガン殿、ボリン。聞こえたでしょう。私たちの次の仕事が決まったわ」

私は、背後に控える仲間たちに向き直った。彼らもまた、アークの声を私を通して聞いていたようだ。その顔には、恐怖ではなく新たな挑戦への強い決意が浮かんでいた。

「とんでもねえ話になってきたな!だが、面白え!」

「ああ!地の底の化け物だろうが、別次元の侵略者だろうが、女王陛下と俺たちの技術があれば敵じゃねえ!」

二人の頼もしい言葉に、私は頷いた。
こうして私の国造りは、思いもよらぬ形で、世界そのものを救うための壮大な冒険へとその舵を切ることになった。
まずは、最初のアーティファクト、『ガイアの心臓』が眠る東の灼熱山脈。

「準備を始めましょう。これは、ヴァイスランド連合王国の最初の、そして最大の国家事業となります」

私の宣言に、その場にいた全員が力強く雄叫びを上げた。
彼らの声は、地の底深くに響き渡り、これから始まるであろう壮大な物語の序曲を奏でるかのようだった。

私たちは、すぐに地上へと戻り、アーティファクト探索のための特別チームの編成に取り掛かった。
メンバーは、私とシラスはもちろんのこと、ヴァイスランドとドワーフの最高の技術者と戦士たちで構成されることになるだろう。
グレゴール隊長と、ガンツにも至急ヴァイスランドへ戻るよう通信を送った。
国政は、アルバート宰相に一時的に任せることになるが、彼なら問題なくやり遂げてくれるはずだ。

私は、執務室でアークから送られてきた東の灼熱山脈のデータを分析していた。そこは、常に火山が噴火し、マグマが川のように流れるまさに地獄のような場所だ。通常の装備では、近づくことさえできないだろう。

「……耐熱装備と、特殊な乗り物が必要ね」

私は、ボリンとボルガンを呼び寄せ、新しい装備の開発を依頼した。ヒヒイロカネと、アークの技術を応用すれば、灼熱のマグマの中でも活動できる特殊な防護服が作れるはずだ。
乗り物も、シルヴァヌス号のような列車では山脈を越えることはできない。空を飛ぶための、新しい移動手段が必要になる。

「空を……飛ぶ……?」

私の言葉に、ボリンは目を丸くした。

「ああ、そうだ!ドワーフの古文書に、風のルーンを使って巨大な船を空に浮かべたという記述があった!ボルガン殿、その技術、再現できるか!?」

「ふん、古文書の技術など、今の俺たちとエリアーナ様の力があれば赤子の手をひねるようなものよ!」

二人の天才鍛冶師の目は、再び創造の炎に燃えていた。
こうして、ヴァイスランドでは空飛ぶ船、『飛空艇』の開発が急ピッチで開始された。

その船体には、ヴァイスランド鋼とヒヒイロカネの合金が使われ、動力源はもちろんアークからの直接エネルギー供給だ。そして、浮遊のための力はボルガンが刻む巨大な風のルーンによって生み出される。
それは、この世界の誰もが見たこともない夢の乗り物だった。

私たちの冒険は、もう始まっている。私は、窓の外に広がるヴァイスランドの青い空を見上げながら、これから始まる旅に胸を高鳴らせていた。
その時、執務室の扉が控えめにノックされた。

「女王陛下、マーサです。お召し物が、完成いたしました」
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