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第5章 おじさんと農業
第81話
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「ふう……」
畝を整え終えた俺は、腰を下ろして一息ついた。背中に当たる土の温もりが、想像以上に心地いい。
ポケットから、手巻きタバコを取り出す。
ここ最近、自分好みに調合した“作業向けブレンド”――甘い樹脂香と土の匂いを思わせる葉を合わせた一本だ。
火をつけて、ゆっくり吸い込む。
鼻に抜ける、燻した木の香り。
深呼吸にも似た感覚が肺に染みわたり、全身の力が抜けていく。
忙しなく動いた手が、ようやく止まった。
「……この時間のために働いてるようなもんだな」
ふと漏れた声が、土と草のにおいのなかに溶けて消えた。
農作業は、派手なことはひとつもない。
穴を掘り、畝を立て、石を取り除き、土を均す。
種を蒔くのはそのずっと後だ。
だが、その“地味さ”が、今の俺にはちょうどいい。
昔の俺なら――会社員として、四六時中ノルマに追われていた頃なら、こんな作業は三分と持たなかっただろう。
意味の見えない繰り返し、出口のないループ。
そんなふうに感じていたに違いない。
けれど、今は違う。
「コーヒーに合うトマトが獲れたら、意外と悪くないな」
俺の畑は小さい。
収穫量なんて知れてる。
けど、それでいい。
俺が食って、満足して、それで終わり。
誰に売るでも、見せるでもない。
タバコをもうひと口吸いながら、今日の作業の続きを頭の中で反芻する。
草抜きは午前中にほぼ終わらせた。
石も取り除いて、鍬で表土を二度耕し、踏み固めを調整した。
地味だけど、確実に“整ってきている”感覚がある。
「……あとは、コンポストか。肥料がわりに」
俺は立ち上がると、生成スキルで小さめの木製コンポスト箱を作り出す。
キッチンの残飯や草の屑、落ち葉を入れて、ゆっくり発酵させていく。
自然の時間を待つのは、俺の性に合ってる。
誰かに急かされることもなく、目標の数字もない。
“俺のペースで進めていい”という、それだけの自由が、どれだけ贅沢か。
「しかし……本当に農家になったら、死ぬほどしんどいんだろうな」
タバコをくわえたまま、俺は再び畑に戻って、畝の間の通路を踏み固めた。
一歩ずつ、ゆっくり足裏で圧をかけていく。
こうすることで、水が流れず、歩くたびに泥が跳ねることもない。
一歩一歩が、無駄じゃない。
誰にも評価されないが、俺には“確かに意味のある作業”だ。
ポケットから小さなスコップを取り出し、試しに一箇所だけ掘って、土の状態を確認。
指で掴んでみると、適度な湿り気と、崩れる柔らかさ。
……これなら、根も伸びやすいだろう。
「悪くないな」
そう呟くと、タバコの火が残り少ないことに気づく。
吸い切ってから、端を地面に軽く押しつけて火を消した。
自然と共存して生きていくのなら、タバコの灰さえも土に返す。
「さて……そろそろ、種を蒔く準備を始めるか」
そう呟いた声に、応える者は誰もいない。
でも、いい。
この静けさのなかで、タバコの香りを嗅ぎながら、ただ一歩一歩、土と向き合う。
それが、今の俺にとって、何よりの贅沢だ。
畝を整え終えた俺は、腰を下ろして一息ついた。背中に当たる土の温もりが、想像以上に心地いい。
ポケットから、手巻きタバコを取り出す。
ここ最近、自分好みに調合した“作業向けブレンド”――甘い樹脂香と土の匂いを思わせる葉を合わせた一本だ。
火をつけて、ゆっくり吸い込む。
鼻に抜ける、燻した木の香り。
深呼吸にも似た感覚が肺に染みわたり、全身の力が抜けていく。
忙しなく動いた手が、ようやく止まった。
「……この時間のために働いてるようなもんだな」
ふと漏れた声が、土と草のにおいのなかに溶けて消えた。
農作業は、派手なことはひとつもない。
穴を掘り、畝を立て、石を取り除き、土を均す。
種を蒔くのはそのずっと後だ。
だが、その“地味さ”が、今の俺にはちょうどいい。
昔の俺なら――会社員として、四六時中ノルマに追われていた頃なら、こんな作業は三分と持たなかっただろう。
意味の見えない繰り返し、出口のないループ。
そんなふうに感じていたに違いない。
けれど、今は違う。
「コーヒーに合うトマトが獲れたら、意外と悪くないな」
俺の畑は小さい。
収穫量なんて知れてる。
けど、それでいい。
俺が食って、満足して、それで終わり。
誰に売るでも、見せるでもない。
タバコをもうひと口吸いながら、今日の作業の続きを頭の中で反芻する。
草抜きは午前中にほぼ終わらせた。
石も取り除いて、鍬で表土を二度耕し、踏み固めを調整した。
地味だけど、確実に“整ってきている”感覚がある。
「……あとは、コンポストか。肥料がわりに」
俺は立ち上がると、生成スキルで小さめの木製コンポスト箱を作り出す。
キッチンの残飯や草の屑、落ち葉を入れて、ゆっくり発酵させていく。
自然の時間を待つのは、俺の性に合ってる。
誰かに急かされることもなく、目標の数字もない。
“俺のペースで進めていい”という、それだけの自由が、どれだけ贅沢か。
「しかし……本当に農家になったら、死ぬほどしんどいんだろうな」
タバコをくわえたまま、俺は再び畑に戻って、畝の間の通路を踏み固めた。
一歩ずつ、ゆっくり足裏で圧をかけていく。
こうすることで、水が流れず、歩くたびに泥が跳ねることもない。
一歩一歩が、無駄じゃない。
誰にも評価されないが、俺には“確かに意味のある作業”だ。
ポケットから小さなスコップを取り出し、試しに一箇所だけ掘って、土の状態を確認。
指で掴んでみると、適度な湿り気と、崩れる柔らかさ。
……これなら、根も伸びやすいだろう。
「悪くないな」
そう呟くと、タバコの火が残り少ないことに気づく。
吸い切ってから、端を地面に軽く押しつけて火を消した。
自然と共存して生きていくのなら、タバコの灰さえも土に返す。
「さて……そろそろ、種を蒔く準備を始めるか」
そう呟いた声に、応える者は誰もいない。
でも、いい。
この静けさのなかで、タバコの香りを嗅ぎながら、ただ一歩一歩、土と向き合う。
それが、今の俺にとって、何よりの贅沢だ。
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