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第5章 おじさんと農業
第80話
「さて……まずは土地か」
帰宅して荷物を片づけ、いつもの椅子に腰を下ろし、コーヒーをすすりながら、ぼんやり考えていた。
畑を始めるには、当然だが耕す場所が必要になる。が――このマーレ村では、それが意外と厄介だ。
この村の土地は、基本的に世襲制。家ごとに割り当てられた耕作地を代々引き継ぐ形になっていて、空いている土地でも、勝手に使うわけにはいかない。
借りようにも、地元の農民たちは顔見知り優先、外から来たよそ者には土地を貸すどころか、話もなかなか進まない。
「交渉ごとは、面倒なんだよな」
そう呟いて、再びコーヒーをひと口。苦味が喉を抜けるのを感じながら、ため息を吐いた。
ただでさえ、面倒は避けたい性格だ。ご近所づきあいだの地元の習慣だのをくぐり抜けて、土地を借りるなんて真似、正直やってられない。
だが、そんなときのための、俺のスキル――
【万能生成スキル】
望んだものを、世界最高品質で具現化する。
ただし、"本当に作りたい"と思わなければ発動しない。
今回のテーマは、"自分で食う分だけ"育てるための畑。
そこに強い執着があるわけでもないが、少なくとも今の俺は、「あったらいいな」と思っている。
十分だ。
俺は椅子から立ち上がり、店の裏手、森との境目にある、ちょっとした空き地へと向かった。
草が生い茂ってはいるが、誰の土地でもない。境界石もなければ、作物の痕跡もない。
つまり――ちょっと見えないように囲っておけば、誰の目にも触れずに使える。
「……いいな、ここにしよう」
軽くうなずき、俺はその場にしゃがみこみ、右手を地面へ。
「畑……俺が食う分だけ、最小限で、耕作に最適な土地にしてくれ」
そう、心から念じる。
次の瞬間、空気がふるえ、わずかな光が地表を走る。
草が音もなく溶けるように消えていき、代わりに現れたのは――
ふかふかで、適度に湿った黒土。
日当たりはよく、根張りも良さそうな土壌。
まるで長年耕され、腐葉土や堆肥が丁寧に混ぜ込まれてきたような、理想的な畑だ。
「……やっぱ、便利だな、このスキル」
正直な感想だった。
誰にも頼らず、道具も使わず、わずかな意思だけでこれだけの土壌が手に入る。
ブラック企業で社畜をやってた頃には、想像もつかなかった自由と力だ。
とはいえ、土ができただけじゃ農業にはならない。
鍬、スコップ、ジョウロ――最低限の道具も必要になる。
「道具か。……見た目は普通でいい。使いやすくて、丈夫で、壊れにくいもの」
再びスキルを使うと、ポン、と地面に音を立てて現れる数本の農具。
無骨だが手になじむ木製の柄、金属部分は黒く光り、厚みと重みを感じさせる。
持ち上げて、鍬を軽く振ってみる。
……うん。バランスも悪くない。柄の太さも手にちょうどいい。
「次は……やり方だな」
俺は農家じゃない。
トマトとナスの見分けはつくが、どう育てるかなんて、まるで知らない。
土の作り方も、水の与え方も、季節の回し方も――すべて未知数だ。
だが、万能生成スキルには副次的な能力がある。
俺が『理解したい』『使いこなしたい』と強く思ったものは、その構造や使い方を、自然と“知識として”俺の頭に流し込んでくれる。
今回も例外じゃない。
道具を握り直し、「耕し方を知りたい」と願った瞬間、俺の脳裏に、ある種の“感覚”が流れ込んできた。
手の力の入れ具合、角度、タイミング。
硬い土と柔らかい土の違い。
水はけの見極め方、畝の形状の作り方――
「ああ……なるほどな」
俺は立ち上がり、鍬を構えた。
すでにふかふかの土ではあるが、試しに軽く耕してみる。
ザク。ザク。
土が適度に割れていき、鍬の動きに逆らわない。
これが“耕す”という作業なのか――。
初めてのはずなのに、まるで長年の経験があるかのように、身体が自然に動く。
「……チートってやつだな」
認めるしかない。
この万能生成スキルは、想像以上に便利すぎる。
けれど、不思議と後ろめたさはなかった。
誰かと競うわけでもないし、誰かに見せるわけでもない。
“自分のために、自分のペースで、必要な分だけ”
それが、この畑の――そして、この異世界での、俺の暮らし方だ。
「さて、種はどうするか……」
まだまだやることはある。
でも、それすらも悪くない。
すべては、この一杯の珈琲を、もっと旨くするため。
帰宅して荷物を片づけ、いつもの椅子に腰を下ろし、コーヒーをすすりながら、ぼんやり考えていた。
畑を始めるには、当然だが耕す場所が必要になる。が――このマーレ村では、それが意外と厄介だ。
この村の土地は、基本的に世襲制。家ごとに割り当てられた耕作地を代々引き継ぐ形になっていて、空いている土地でも、勝手に使うわけにはいかない。
借りようにも、地元の農民たちは顔見知り優先、外から来たよそ者には土地を貸すどころか、話もなかなか進まない。
「交渉ごとは、面倒なんだよな」
そう呟いて、再びコーヒーをひと口。苦味が喉を抜けるのを感じながら、ため息を吐いた。
ただでさえ、面倒は避けたい性格だ。ご近所づきあいだの地元の習慣だのをくぐり抜けて、土地を借りるなんて真似、正直やってられない。
だが、そんなときのための、俺のスキル――
【万能生成スキル】
望んだものを、世界最高品質で具現化する。
ただし、"本当に作りたい"と思わなければ発動しない。
今回のテーマは、"自分で食う分だけ"育てるための畑。
そこに強い執着があるわけでもないが、少なくとも今の俺は、「あったらいいな」と思っている。
十分だ。
俺は椅子から立ち上がり、店の裏手、森との境目にある、ちょっとした空き地へと向かった。
草が生い茂ってはいるが、誰の土地でもない。境界石もなければ、作物の痕跡もない。
つまり――ちょっと見えないように囲っておけば、誰の目にも触れずに使える。
「……いいな、ここにしよう」
軽くうなずき、俺はその場にしゃがみこみ、右手を地面へ。
「畑……俺が食う分だけ、最小限で、耕作に最適な土地にしてくれ」
そう、心から念じる。
次の瞬間、空気がふるえ、わずかな光が地表を走る。
草が音もなく溶けるように消えていき、代わりに現れたのは――
ふかふかで、適度に湿った黒土。
日当たりはよく、根張りも良さそうな土壌。
まるで長年耕され、腐葉土や堆肥が丁寧に混ぜ込まれてきたような、理想的な畑だ。
「……やっぱ、便利だな、このスキル」
正直な感想だった。
誰にも頼らず、道具も使わず、わずかな意思だけでこれだけの土壌が手に入る。
ブラック企業で社畜をやってた頃には、想像もつかなかった自由と力だ。
とはいえ、土ができただけじゃ農業にはならない。
鍬、スコップ、ジョウロ――最低限の道具も必要になる。
「道具か。……見た目は普通でいい。使いやすくて、丈夫で、壊れにくいもの」
再びスキルを使うと、ポン、と地面に音を立てて現れる数本の農具。
無骨だが手になじむ木製の柄、金属部分は黒く光り、厚みと重みを感じさせる。
持ち上げて、鍬を軽く振ってみる。
……うん。バランスも悪くない。柄の太さも手にちょうどいい。
「次は……やり方だな」
俺は農家じゃない。
トマトとナスの見分けはつくが、どう育てるかなんて、まるで知らない。
土の作り方も、水の与え方も、季節の回し方も――すべて未知数だ。
だが、万能生成スキルには副次的な能力がある。
俺が『理解したい』『使いこなしたい』と強く思ったものは、その構造や使い方を、自然と“知識として”俺の頭に流し込んでくれる。
今回も例外じゃない。
道具を握り直し、「耕し方を知りたい」と願った瞬間、俺の脳裏に、ある種の“感覚”が流れ込んできた。
手の力の入れ具合、角度、タイミング。
硬い土と柔らかい土の違い。
水はけの見極め方、畝の形状の作り方――
「ああ……なるほどな」
俺は立ち上がり、鍬を構えた。
すでにふかふかの土ではあるが、試しに軽く耕してみる。
ザク。ザク。
土が適度に割れていき、鍬の動きに逆らわない。
これが“耕す”という作業なのか――。
初めてのはずなのに、まるで長年の経験があるかのように、身体が自然に動く。
「……チートってやつだな」
認めるしかない。
この万能生成スキルは、想像以上に便利すぎる。
けれど、不思議と後ろめたさはなかった。
誰かと競うわけでもないし、誰かに見せるわけでもない。
“自分のために、自分のペースで、必要な分だけ”
それが、この畑の――そして、この異世界での、俺の暮らし方だ。
「さて、種はどうするか……」
まだまだやることはある。
でも、それすらも悪くない。
すべては、この一杯の珈琲を、もっと旨くするため。
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