【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第38話

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わたくしは再び香草園へ戻り、子どもたちに事情を話しました。

「素敵なことですわ! 皆さまが先ほど見つけてくれた“喜びの香り”たちが、今度は本物の祝言を彩るお手伝いをすることになるかもしれませんのよ」

「ええーっ! ほんと!?」

「じゃあ、さっきのレモンバームとか、ピンクのお花とかも使えるの!?」

「ええ、もちろんですわ。皆さまにも、少しだけお手伝いをお願いしてもよろしいかしら。わたくしがこれから作る“祝福の香り”に、皆さまの純粋な“おめでとう”の気持ちを、そっと込めていただきたいのです」

子どもたちは、目をキラキラと輝かせて頷いてくれました。
わたくしは、まず祝言の場を清め、そして新しい門出を祝福するのにふさわしい素材を選び始めました。
ベースとなるのは、やはり清浄な力を持つホワイトセージ。これを少量だけ、空間に香らせるためのもの。
そして、お二人が身に纏うための、あるいは会場にそっと置くための「香りの花束」のようなものを調合いたします。

選んだのは、まず純粋な愛を象徴する白い薔薇の花びら。それも、朝露に濡れた、最も香りが清らかなもの。
そして、先ほど子どもたちが見つけてくれた、太陽のようなレモンバームと、華やかなローズゼラニウム。
永遠の愛を誓うという意味を込めて、常緑のローズマリーの小枝をほんの少し。
新しい始まりの清々しさを表すために、ベルガモットミントの若葉。
さらに、わたくしの特別な素材である“水鏡草”から抽出した露を数滴加えることで、その香りに透明感と、どこか神聖な深みを与えることを試みましたの。

これらの素材を、わたくしは子どもたちと一緒に、一つ一つ丁寧に選び、そして彼らの小さな手にも触れさせてあげました。

「さあ、この花びらの香りをかいでごらんなさい。どんな気持ちがいたしますか?」

「なんだか、ふわふわしてて、嬉しい気持ち!」

「この葉っぱは、きりっとしてて、新しいことを始めるぞー!って感じがする!」

子どもたちの素直な言葉は、わたくしの調合にさらなるインスピレーションを与えてくれます。
彼らの純粋な「おめでとう」という気持ちが、まるで目に見えない光の粒子のように、ハーブたちに降り注いでいくのが感じられるようでございました。

「極上調合」の力は、このような時、わたくし個人の感覚を超えて、その場にいる人々の想いまでも取り込み、調和させていくのかもしれません。
そうして完成いたしました“祝福の香り”は、言葉では言い表せないほどに、優しく、清らかで、そして希望に満ちた芳香を放っておりました。
甘すぎず、けれど心に深く残り、そっと背中を押してくれるような……まさに、新しい門出にふさわしい香りでございます。
わたくしは、それを美しい白い絹の小袋に詰め、さらに乾燥させたオレンジピールやシナモンスティックで飾り付けを施しました。

数日後、祝言を間近に控えた若いお二人が、再びわたくしの小屋を訪れました。
わたくしが、子どもたちの想いも込められた“祝福の香り”の小袋を差し出しますと、お二人は感極まったようにそれを受け取り、そっと香りを確かめられました。

「……まあ……なんて……なんて素晴らしい香りなのでしょう……」

女性の目には、みるみるうちに涙が溢れてまいります。

「……言葉にできませんわ……でも、これが、わたくしたちが心から望んでいた香りです……。優しくて、温かくて、そして、未来への希望が湧いてくるような……」

「アナスタシアさま……本当に、ありがとうございます。この香りと共に、わたくしたちは新しい人生を始めることができます。生涯、忘れません」

木こりの青年もまた、深く頭を下げ、その声は感謝の念で震えておりました。

お二人の祝言は、数日後、村の小さな広場で、親しい方々に見守られながら執り行われました。
わたくしも子どもたちと一緒に、少し離れた場所からそっとその様子を拝見しておりましたけれど、会場全体が、あの“祝福の香り”に優しく包まれ、参列された皆さまもまた、穏やかで幸せそうな表情を浮かべておられたのが印象的でございましたわ。
風が吹くたびに、清らかな香りが広がり、まるで見えざる天使たちが、お二人の門出を祝福しているかのようでございました。

その出来事以来、わたくしの「静寂の香り亭」には、時折、このような祝祭のための香りのご依頼も舞い込むようになりましたの。
それは、病を癒すためのお茶とはまた異なる、人の生の輝かしい瞬間を彩るための調合。
わたくしの力は、悲しみを和らげるだけでなく、喜びを増幅し、分かち合うためにも使えるのだと、改めて教えられた気がいたします。

子どもたちもまた、この経験を通じて、香りが持つ多様な力と、それが人々の心に与える影響の大きさを、肌で感じ取ってくれたようですわ。
彼らの「香りの授業」は、これからも、この「静寂の香り亭」の日常の中で、ゆっくりと続いていくことでしょう。
わたくしの小屋が、ただお茶を飲む場所というだけでなく、様々な想いが交差し、新たな喜びが生まれ、そして未来への希望が育まれていく……そんな場所になっていくのなら、それほど嬉しいことはございませんもの。
窓辺に飾られた、子どもたちが作った「香りの絵」が、夕陽を浴びて優しく輝いておりましたわ。
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