転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい

文字の大きさ
17 / 26

第17話 恋と友情と、巨大な陰謀の影

しおりを挟む
私が、麒麟宮《きりんきゅう》へと向かうと、通された部屋には、思いがけない人物たちが揃っていた。

玉座に座るのは、氷のように冷たい表情を浮かべた、皇帝・暁《あかつき》さま。
その隣には、腕に痛々しい包帯を巻きながらも、毅然と前を見据える、香蘭《こうらん》さま。
そして、なぜか、ソファに優雅に腰掛け、心底心配そうな顔で香蘭さまを見つめている、隣国のアルフォンス王子まで。

(な、何、この、カオスなメンバー…!)

私が、部屋の入り口で固まっていると、暁さまが、低い声で言った。
「来たか。…香蘭、昨夜の出来事を、もう一度、詳しく話せ」

香蘭さまは、まだ顔色が真っ白だったけれど、その瞳には、いつもの勝ち気な光が戻っていた。
彼女は、ゆっくりと、語り始めた。
宴の後、一人で庭園を散策していたこと。
不意に、背後から、覆面をつけた男に襲われたこと。
男は、「皇帝に近づく女は、身の程を知れ。次は、命はないと思え」と、低い声で言っていたこと。
そして、危機一髪のところを、偶然、月夜の散歩をしていたという、アルフォンス王子に助けられたこと。

「…そうか。下がって、ゆっくり休むがいい」

暁さまの言葉に、香蘭さまは、一度だけ、ちらりと私を見た。
その瞳には、昨日までの敵意とは違う、何か、複雑な感情が揺らめいていた。

犯人は、一体誰なのか?
男が言っていた「皇帝に近づく女」というのは、私のこと? それとも、香蘭さまのこと?
もし、私を狙っていたのなら、香蘭さまは、私の身代わりになってしまったということ…?
謎は、深まるばかりだった。

暁さまは、しばらく考え込んだ後、とんでもないことを、言い放った。
「――犯人が捕まるまで、しばらくの間、香蘭も、麗霞《れいか》の監督下で、この麒練宮に滞在させよ」

「はあぁぁぁぁっ!?」

私と香蘭さまの声が、綺麗にハモった。
表向きは、「陛下のお気に入りである麗霞が、怪我をした香蘭の面倒を見る」という、美しい友情物語(?)。
でも、その実態は、私たち二人を、最も安全な場所である、自分の目の届く範囲に置いておく、という彼の策なのだろう。

こうして、私と、最大のライバルである香蘭さまの、ぎこちないにも程がある、奇妙な共同生活が、突然、始まってしまったのだった。

***

最初は、もう、最悪だった。
同じ部屋で、顔を合わせても、お互いに、ぷい、とそっぽを向く。
私が、お茶を淹れてあげても、「結構ですわ」と、飲んでくれない。
でも、そんな険悪なムードも、数日経つと、少しずつ変わっていった。

きっかけは、アルフォンス王子だった。
彼は、ほとんど毎日、香蘭さまのお見舞いと称して、麒麟宮にやってきた。
「麗しの君。君の瞳は、傷ついてなお、夜空の星のように輝いている」
なんて、キザなセリフと共に、美しい花束を、毎日、彼女に贈るのだ。

香蘭さまは、最初は「軽薄な方!」と相手にしていなかった。
でも、彼の、あまりにも真っ直ぐで、情熱的なアプローチに、だんだん、その頬を赤く染めるようになっていった。

そして、ある夜。
二人きりになった部屋で、彼女は、ぽつり、と私に呟いたんだ。

「…わたくし、今まで、ずっと、『香蘭』という家の看板を背負って生きてきましたわ」
「香蘭さま…」
「誰よりも、完璧でなければならない。陛下に選ばれる、最高の妃でなければならない、と。でも、あの方…アルフォンス様は、そんなこと、関係ない、と仰るの。ただ、わたくし自身を見て、美しい、と…」

彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。
いつも、分厚い鎧で自分を固めていた彼女の、初めて見る、弱い姿。
私は、彼女の隣に座ると、黙って、その背中をさすってあげた。

「…あなたのタルト、悔しいけれど、本当に、美味しかったわ。わたくしの知らない、自由な味がした」

彼女の、初めて聞く、素直な言葉。
その一言に、私の胸も、じん、と熱くなった。

私たちは、ずっとライバルだったけど、本当は、同じだったのかもしれない。
この、華やかで、息苦しい後宮で、たった一人、孤独と戦っていた。

その夜、私たちは、初めて、本当の意味で、心を通わせることができたのだ。

次の日、私は、麒麟宮の厨房で、彼女のために、特別なお菓子を作った。
それは、前世の知識を活かした、『モンブラン』。
彼女の好きな、栗を、たっぷりと使った、優しい甘さのケーキだ。

「…美味しい」

一口食べた香蘭さまは、そう言って、花が咲くように、ふわりと笑った。
彼女の、心からの笑顔を、私は、初めて見た。

その時だった。
「何やら、いい雰囲気だな」
暁さまと、アルフォンス王子が、部屋に入ってきた。
アルフォンス王子は、香蘭さまの笑顔を見ると、嬉しそうに、彼女の手を取り、ダンスに誘う。
くるくると、楽しそうに踊る二人。

暁さまは、そんな二人を、一瞥すると、私の腕を引いて、自分のそばへと引き寄せた。

「…あいつら、いい雰囲気だな」

その声は、どこか、不満そうだ。
そして、彼は、私にだけ聞こえるような、低い声で、囁いた。

「俺は、お前以外の女と、ダンスを踊る気はない」

(――っ!)

その、不器用すぎる口説き文句に、私の心臓が、大きく、ドキッと跳ねた。

甘くて、幸せな空気が、部屋を満たす。
でも、その空気は、次の瞬間、扉を蹴破るようにして飛び込んできた、一人の宦官によって、粉々に打ち砕かれた。

「陛下! 陛下! 大変でございます!」
宦官は、血相を変えて叫んだ。

「襲撃犯の、手がかりが掴めました!」
「犯人が現場に落としていった懐刀《ふところがたな》…それは、大将軍・魏嵐《ぎらん》さまの、家紋が入った物に、間違いございません!」

「――なんだと!?」

暁さまの、鋭い声が、部屋に響き渡る。
大将軍・魏嵐。
暁さまの、最大の政敵。

この事件は、単なる妃同士の嫉妬なんかじゃなかった。
もっと、大きくて、黒くて、ドロドロした、国家を揺るがす、巨大な陰謀の、ほんの序章に過ぎなかったのだ。

私たちの恋と運命は、これから、一体、どうなってしまうんだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞 読者賞受賞作品】 「君は25歳の誕生日に異世界へ飛ばされる――準備、しておけよ」 そんなリアルすぎる夢を見たのは、中学3年・15歳の誕生日。 しかも、転移先は「魔法もあるけど生活水準は中世並み」、しかも「チート能力一切なし」!? 死ぬ気で学べ。鍛えろ。生き抜け。 目指すのは、剣道×農業×経営×工学を修めた“自己完結型万能人間”! 剣道部に転部、進学先は国立農業高校。大学では、園芸、畜産・農業経営・バイオエネルギーまで学び、最終的には油が採れるジャガイモを発見して学内ベンチャーの社長に―― そう、全部は「異世界で生きるため」! そしてついに25歳の誕生日。目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 武器は竹刀、知識はリアル、金は……時計を売った。 ここから始まるのは、“計画された異世界成り上がり”! 「魔法がなくても、俺には農業と剣がある――」 未来を知る少年が、10年かけて“最強の一般人”になり、異世界を生き抜く! ※「準備型転移」×「ノンチートリアル系」×「農業×剣術×起業」異色の成長譚!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ

☆ほしい
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】 魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。 ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。 「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」 不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。 甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

処理中です...