転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

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第18話 ダンスレッスンと、柱の影の絶対零度

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「――犯人が現場に落としていった懐刀《ふところがたな》…それは、大将軍・魏嵐《ぎらん》さまの、家紋が入った物に、間違いございません!」

宦官《かんがん》の報告が、麒麟宮《きりんきゅう》の静寂を切り裂いた。
さっきまで、私と暁《あかつき》さまの間に漂っていた、甘くて、とろけそうだった空気は、一瞬にして、氷のように凍りついた。

大将軍・魏嵐。
暁さまの、最大の政敵。

香蘭《こうらん》さまを襲った事件は、妃同士の単なる嫉妬や、嫌がらせなんかじゃなかったのだ。
もっと、大きくて、黒くて、ドロドロした、この国の根幹を揺るがす、巨大な陰謀の、ほんの一端だった。

(そうか…私は、ただ、恋に浮かれていただけじゃなかったんだ)

この後宮に来てから、ずっと感じていた、息苦しさ。
華やかな世界の裏に隠された、冷たい闇。
その正体が、今、目の前に、はっきりと姿を現そうとしている。

急に、背筋がぞくりと震えた。怖い。
でも、それと同時に、私の心の中に、今まで感じたことのないような、熱い想いが込み上げてくる。

(私が、暁さまを、守らなくちゃ…!)

私が、彼の隣にいる、と決めたのだから。
ただ、守られるだけのお姫様でいるつもりは、もう、なかった。

暁さまの顔から、私だけに見せてくれていた、不器用で優しい青年の表情が消え、絶対的な支配者である、皇帝の厳しい顔つきへと戻っていた。
彼は、その場にいた、私、腕に包帯を巻いた香蘭さま、そして、隣国のアルフォンス王子を見据えると、低い声で言った。

「――緊急の作戦会議を開く」

アルフォンス王子は、優雅に肩をすくめると、にこやかに言った。
「これは、我が国と、貴国との友好関係にも関わる、重大な事件だ。このアルフォンス、喜んで協力させていただこう。…特に、麗しい姫君たちのためとあらば、ね」

彼は、私と香蘭さまに向かって、優雅にウィンクしてみせる。
恋のライバルだと思っていたけど、いざという時には、すごく頼りになる、味方なのかもしれない。
こうして、皇帝、妃、ライバル、そして隣国の王子という、前代未聞のメンバーによる、極秘の作戦会議が始まったのだった。

***

作戦は、大胆不敵なものだった。
「――三日後に開かれる、大将軍の屋敷での夜会に潜入し、陰謀の決定的な証拠を掴む」

「あまりにも、危険すぎる!」

暁さまは、即座に反対した。
「お前たちを、虎の穴に送り込むような真似は、できん」

彼の瞳には、私と香蘭さまを、本気で心配する色が浮かんでいた。
その、庇護するような眼差しが、嬉しくて、少しだけもどかしい。

だから、私は、首を横に振った。
「いいえ、陛下。これしか方法はありません。私たちが、必ず、証拠を掴んでまいります」
「麗霞《れいか》の言う通りですわ。わたくしたちを、お飾り人形だと思わないでいただきたいですわね」

香蘭さまも、力強く、私の言葉に続いた。
私たちの、固い決意に、暁さまは、しばらく黙り込んでいた。
そして、やがて、重々しく頷くと、こう言った。

「…分かった。だが、約束しろ。決して、無理はするな。もし、少しでも危険を感じたら、すぐに逃げろ。…必ず、俺が、お前たちを守る」

その言葉は、私たちの胸を、熱くさせた。

こうして、夜会までの三日間、私たちは、潜入捜査のための、秘密の特訓をすることになった。
作戦では、私が、アルフォンス王子のパートナーとして、そして、香蘭さまが、有力貴族の令嬢として、それぞれ夜会に潜入することになっていた。

「いいかい、麗霞。夜会のダンスは、ただの娯楽じゃない。情報を交換し、腹を探り合う、戦場なのさ」

アルフォンス王子は、そう言うと、私の手を取り、ダンスのステップを教えてくれる。
ワルツの調べに合わせて、くるり、とターンする。彼の腕に、ふわりと抱き寄せられる。

「君は、本当に、筋がいい。まるで、生まれながらのプリンセスのようだ」
「そ、そんな…」
「私は、本気で言っているんだがね。…暁皇帝のもとを離れて、私の国へ来る気はないかい?」

彼の、青い瞳が、真剣な光を帯びて、私を見つめてくる。
その、あまりにも甘い囁きに、私の心臓が、ドキッと跳ねた。
その時だった。

レッスンをしていた、庭園のテラスの、柱の影から、ものすごい、嫉妬のオーラが、ビリビリと放たれているのを感じた。

(…あ)

ちらり、と視線を向ける。
すると、そこには、腕を組んで、眉間に、グランドキャニオンよりも深いシワを寄せた、暁さまが立っていた。

私とアルフォンス王子が、手を取り合って微笑み合っているのを、ものすごく、ものすごーく、不満そうな顔で、睨みつけている。

(絶対零度の視線が、背中に突き刺さる…! 痛い、痛い、痛い!)

その、あまりにも分かりやすい嫉妬に、危険な潜入捜査の前の、緊張した気持ちが、少しだけ、和らいだ。
そして、どうしようもなく、きゅん、としてしまっている自分がいた。
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