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俺とリリアーナが結婚してから、数年の歳月が流れた。
世界はアルス連合の下で、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌している。
大地の歪みは、俺とクロが生み出した「浄化の白蓮」と、ライオスたちが命がけで届けた仲間たちの活躍によって、そのほとんどが癒された。
だが、ゼフィルス様が懸念していた通り、星の生命力の循環そのものが、まだ完全には安定していない。
その根本原因を解決する鍵が、失われた超古代文明の遺産にあると俺たちは結論づけた。
そして今日、俺たちはその最初の目的地である「空に浮かぶ島」へと旅立とうとしていた。
「アルス様、リリアーナ様、クロ様! どうか、お気をつけて!」
「世界の未来を、お頼み申しますぞ!」
首都の巨大な発着場には、ゼフィルス様やバルトロさん、そして各国の代表者たちが、俺たちの旅立ちを見送るために集まってくれていた。
彼らの顔に不安の色はない。あるのは、俺たちへの絶対的な信頼と未来への希望だけだ。
「みんな、留守を頼んだぞ。すぐに、最高のお土産話を持って帰ってくるからな」
俺は、仲間たちに笑顔で手を振った。
俺たちの隣には、この旅のために特別に作り出した、新たな相棒が佇んでいる。
それは、拠点にある巨大な生命樹の、最も生命力に満ちた枝から育てた「飛空艇のなる木」から収穫した、生きた船だった。
白く輝く美しい流線型の船体は、巨大な木の葉そのものでありながら、鋼のような強度としなやかさを併せ持っている。
動力源は、船体そのものが持つ生命力。太陽の光と俺の魔力を吸収して、半永久的に飛び続けることができる、まさに夢のような船だ。
「さあ、行こうか、リリアーナ、クロ」
「はい、アルス様!」
「きゅいーん!」
俺とリリアーナ、そしてすっかり頼もしい若竜へと成長したクロが乗り込むと、飛空艇はふわりと何の音もなく宙に浮き上がった。
そして、仲間たちの万歳の声援を背に受けながら、どこまでも広がる青い空の、さらにその上、雲海が広がる天空の世界へと一直線に上昇していった。
眼下に広がる世界は、まさに絶景だった。
俺が作り上げた首都が宝石箱のように輝き、そこから伸びる生命樹の根は、緑の脈流となって世界中に広がっている。
この美しい星を、俺は心の底から愛している。
どれほどの時間、飛んだだろうか。
分厚い雲海を突き抜けた先、俺たちの目の前に、信じられないような光景が広がった。
そこには、巨大な大陸がいくつも静かに空に浮かんでいたのだ。
豊かな緑に覆われ、巨大な滝が雲の下へと流れ落ち、七色の虹がかかっている。
失われた超古代文明の遺産、「空に浮かぶ島」。
そのあまりの美しさに、俺とリリアーナは言葉を失った。
俺たちは、その島々の中でもひときわ大きく、そして強い生命力の波動を感じる中央の島へと、飛空艇を着陸させた。
島に降り立つと、地上とは比べ物にならないほど清浄で、そして濃厚な空気が俺たちの肺を満たした。
見たこともない美しい花々が咲き乱れ、小動物たちが俺たちを恐れる様子もなく、興味深そうに近づいてくる。
ここは、まさに天空の楽園だった。
俺たちは、島の中心部へとゆっくりと歩を進めていった。
やがて、森が開け、目の前に白く輝く巨大な神殿が姿を現した。
その建築様式は、俺たちが知るどんなものとも違う、優雅で自然と完全に調和したものだった。
神殿の内部に入ると、そこには水晶でできた一体の美しい自動人形が、静かに眠りについていた。
俺たちが近づくと、その人形はゆっくりと目を開き、何千年もの眠りから覚醒した。
『……お待ちしておりました。星に愛されし、新たなる調停者よ』
声ではない、清らかで優しい思念が、俺たちの脳内に直接響いてくる。
「君が、この島の守護者か?」
俺が尋ねると、人形は静かに頷いた。
『はい。我は、超古代文明が遺した最後の遺産。この星の生命力の循環を司る、大いなる制御装置、「星の揺り籠」を守る者。名は、ソフィアと申します』
ソフィアと名乗った守護者は、俺たちを神殿の最深部へと案内した。
そこには、巨大で無数の水晶が複雑に絡み合ってできた美しい球体が、静かに浮遊していた。
その球体からは、この星の生命力そのものと言える、温かく力強い波動が放たれている。
あれが、「星の揺り籠」。
『かつて、我々の文明は、この「星の揺り籠」の恩恵を受け、自然と完全に調和し、繁栄を謳歌していました。しかし、宇宙の彼方より飛来した、生命を喰らう邪悪な存在……あなた様が滅ぼされた、アポピスの前身となる存在によって、この揺り籠は汚染され、その機能を停止させられてしまったのです』
ソフィアは、悲しげに語った。
『我々は、最後の力を振り絞り、邪神の本体を封印し、そしてこの島を天空へと浮上させることで、揺り籠を守り抜きました。そして、いつかこの星の生命力と深く結びついた、新たな調停者が現れ、この揺り籠を再起動させてくれる日を、永い間、待ち続けていたのです』
その言葉に、全ての謎が解けた。
大地の歪みも、瘴気の発生も、全てはこの「星の揺り籠」が機能を停止していたことが、根本的な原因だったのだ。
「ソフィア。再起動の方法を、教えてくれるか」
俺の問いに、ソフィアは俺の目をまっすぐに見つめ返した。
『調停者よ。揺り籠を再起動させるには、あなたの持つ、その規格外の生命力そのものを、揺り籠の核へと直接注ぎ込む必要があります。しかし、それはあなた自身の命を削る危険な行為でもあります。下手をすれば、あなたの存在そのものが、揺り籠に吸収されてしまう可能性すら……』
ソフィアの警告に、リリアーナがはっとしたように俺の腕を掴んだ。
「アルス様! それでは、あまりにも危険ですわ……!」
「大丈夫だよ、リリアーナ」
俺は、彼女を安心させるように優しく微笑んだ。
「俺のスキルは、【畑耕し】だ。大地から、無限に力を貰うことだってできる。それに、俺には最高の相棒がついているからな」
俺がそう言ってクロの方を見ると、クロは全てを理解したように、力強く「きゅい!」と鳴いた。
俺は、ゆっくりと「星の揺り籠」の前へと進み出た。
そして、その水晶の表面にそっと両手を触れる。
「スキル【畑耕し】、最大奥義……『大地の息吹』!」
俺はスキルを発動させ、この星の核、その中心から、生命力そのものを龍脈を通じて俺の体へと集束させていく。
俺の全身が、まばゆいほどの緑色の光に包まれた。
その力は、邪神アポピスを滅ぼした時を遥かに凌駕する、まさに星そのものの力だ。
「うおおおおおおおっ!」
俺は、その集束させた莫大な生命力を、一気に「星の揺り籠」の核へと注ぎ込んでいく。
揺り籠が、歓喜の声を上げるように激しく脈動を始めた。
だが、それと同時に、揺り籠の奥深くに眠っていた邪神の最後の残滓が、俺の力を拒絶し、抵抗を始める。
黒い瘴気が、俺の体を蝕もうと逆流してきた。
「くっ……!」
その時だった。
「グルルルルァァァッ!」
クロが俺の隣に立ち、その黒い瘴気に向かって、渾身の黄金色の浄化の炎を放ったのだ。
クロの炎は、邪神の最後の呪いを完全に焼き尽くし、俺が進むべき光の道を切り開いてくれた。
「ありがとう、クロ! 俺たちの、勝ちだ!」
創造の力と、浄化の力。
二つの力が完全に一つとなり、「星の揺り籠」へと注ぎ込まれていく。
やがて、揺り籠全体がこれまでで最も強く、そして美しい虹色の光を放った。
その光は神殿を突き抜け、天空から地上世界全体へと降り注いでいく。
この星の生命力の循環が、完全に正常化された瞬間だった。
世界中の大地の歪みが、完全に消え去っていくのが俺には分かった。
もう、この星で原因不明の災害や、病気が発生することはないだろう。
この星は、本当の意味で永遠の平和と安定を手に入れたのだ。
『……ありがとう、ございます。新たなる、調停者……アルス様』
ソフィアが、深々と俺に頭を下げた。
『これで、我々の役目も終わりました。この超古代文明の、全ての知識と技術をあなた様に託します。どうか、この星の未来を、お導きください』
そう言うと、ソフィアの水晶の体は光の粒子となって、静かに消えていった。
彼女は、安らかな笑みを浮かべていたように見えた。
こうして、俺たちの最後の戦いは終わった。
俺は、託された古代の知識をアルス連合に持ち帰った。
それは、世界のさらなる発展に大きく貢献することになるだろう。
海の底の都市の謎も、いずれこの知識で解き明かせるはずだ。
だが、俺はその役目を次世代の若者たちに託すことにした。
俺の大きな役目は、もう終わったのだ。
俺は、リリアーナと共に、俺たちの物語が始まったあの辺境の地へと、帰ることにした。
本当に俺が望んでいた、穏やかで静かなスローライフを、始めるために。
世界はアルス連合の下で、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌している。
大地の歪みは、俺とクロが生み出した「浄化の白蓮」と、ライオスたちが命がけで届けた仲間たちの活躍によって、そのほとんどが癒された。
だが、ゼフィルス様が懸念していた通り、星の生命力の循環そのものが、まだ完全には安定していない。
その根本原因を解決する鍵が、失われた超古代文明の遺産にあると俺たちは結論づけた。
そして今日、俺たちはその最初の目的地である「空に浮かぶ島」へと旅立とうとしていた。
「アルス様、リリアーナ様、クロ様! どうか、お気をつけて!」
「世界の未来を、お頼み申しますぞ!」
首都の巨大な発着場には、ゼフィルス様やバルトロさん、そして各国の代表者たちが、俺たちの旅立ちを見送るために集まってくれていた。
彼らの顔に不安の色はない。あるのは、俺たちへの絶対的な信頼と未来への希望だけだ。
「みんな、留守を頼んだぞ。すぐに、最高のお土産話を持って帰ってくるからな」
俺は、仲間たちに笑顔で手を振った。
俺たちの隣には、この旅のために特別に作り出した、新たな相棒が佇んでいる。
それは、拠点にある巨大な生命樹の、最も生命力に満ちた枝から育てた「飛空艇のなる木」から収穫した、生きた船だった。
白く輝く美しい流線型の船体は、巨大な木の葉そのものでありながら、鋼のような強度としなやかさを併せ持っている。
動力源は、船体そのものが持つ生命力。太陽の光と俺の魔力を吸収して、半永久的に飛び続けることができる、まさに夢のような船だ。
「さあ、行こうか、リリアーナ、クロ」
「はい、アルス様!」
「きゅいーん!」
俺とリリアーナ、そしてすっかり頼もしい若竜へと成長したクロが乗り込むと、飛空艇はふわりと何の音もなく宙に浮き上がった。
そして、仲間たちの万歳の声援を背に受けながら、どこまでも広がる青い空の、さらにその上、雲海が広がる天空の世界へと一直線に上昇していった。
眼下に広がる世界は、まさに絶景だった。
俺が作り上げた首都が宝石箱のように輝き、そこから伸びる生命樹の根は、緑の脈流となって世界中に広がっている。
この美しい星を、俺は心の底から愛している。
どれほどの時間、飛んだだろうか。
分厚い雲海を突き抜けた先、俺たちの目の前に、信じられないような光景が広がった。
そこには、巨大な大陸がいくつも静かに空に浮かんでいたのだ。
豊かな緑に覆われ、巨大な滝が雲の下へと流れ落ち、七色の虹がかかっている。
失われた超古代文明の遺産、「空に浮かぶ島」。
そのあまりの美しさに、俺とリリアーナは言葉を失った。
俺たちは、その島々の中でもひときわ大きく、そして強い生命力の波動を感じる中央の島へと、飛空艇を着陸させた。
島に降り立つと、地上とは比べ物にならないほど清浄で、そして濃厚な空気が俺たちの肺を満たした。
見たこともない美しい花々が咲き乱れ、小動物たちが俺たちを恐れる様子もなく、興味深そうに近づいてくる。
ここは、まさに天空の楽園だった。
俺たちは、島の中心部へとゆっくりと歩を進めていった。
やがて、森が開け、目の前に白く輝く巨大な神殿が姿を現した。
その建築様式は、俺たちが知るどんなものとも違う、優雅で自然と完全に調和したものだった。
神殿の内部に入ると、そこには水晶でできた一体の美しい自動人形が、静かに眠りについていた。
俺たちが近づくと、その人形はゆっくりと目を開き、何千年もの眠りから覚醒した。
『……お待ちしておりました。星に愛されし、新たなる調停者よ』
声ではない、清らかで優しい思念が、俺たちの脳内に直接響いてくる。
「君が、この島の守護者か?」
俺が尋ねると、人形は静かに頷いた。
『はい。我は、超古代文明が遺した最後の遺産。この星の生命力の循環を司る、大いなる制御装置、「星の揺り籠」を守る者。名は、ソフィアと申します』
ソフィアと名乗った守護者は、俺たちを神殿の最深部へと案内した。
そこには、巨大で無数の水晶が複雑に絡み合ってできた美しい球体が、静かに浮遊していた。
その球体からは、この星の生命力そのものと言える、温かく力強い波動が放たれている。
あれが、「星の揺り籠」。
『かつて、我々の文明は、この「星の揺り籠」の恩恵を受け、自然と完全に調和し、繁栄を謳歌していました。しかし、宇宙の彼方より飛来した、生命を喰らう邪悪な存在……あなた様が滅ぼされた、アポピスの前身となる存在によって、この揺り籠は汚染され、その機能を停止させられてしまったのです』
ソフィアは、悲しげに語った。
『我々は、最後の力を振り絞り、邪神の本体を封印し、そしてこの島を天空へと浮上させることで、揺り籠を守り抜きました。そして、いつかこの星の生命力と深く結びついた、新たな調停者が現れ、この揺り籠を再起動させてくれる日を、永い間、待ち続けていたのです』
その言葉に、全ての謎が解けた。
大地の歪みも、瘴気の発生も、全てはこの「星の揺り籠」が機能を停止していたことが、根本的な原因だったのだ。
「ソフィア。再起動の方法を、教えてくれるか」
俺の問いに、ソフィアは俺の目をまっすぐに見つめ返した。
『調停者よ。揺り籠を再起動させるには、あなたの持つ、その規格外の生命力そのものを、揺り籠の核へと直接注ぎ込む必要があります。しかし、それはあなた自身の命を削る危険な行為でもあります。下手をすれば、あなたの存在そのものが、揺り籠に吸収されてしまう可能性すら……』
ソフィアの警告に、リリアーナがはっとしたように俺の腕を掴んだ。
「アルス様! それでは、あまりにも危険ですわ……!」
「大丈夫だよ、リリアーナ」
俺は、彼女を安心させるように優しく微笑んだ。
「俺のスキルは、【畑耕し】だ。大地から、無限に力を貰うことだってできる。それに、俺には最高の相棒がついているからな」
俺がそう言ってクロの方を見ると、クロは全てを理解したように、力強く「きゅい!」と鳴いた。
俺は、ゆっくりと「星の揺り籠」の前へと進み出た。
そして、その水晶の表面にそっと両手を触れる。
「スキル【畑耕し】、最大奥義……『大地の息吹』!」
俺はスキルを発動させ、この星の核、その中心から、生命力そのものを龍脈を通じて俺の体へと集束させていく。
俺の全身が、まばゆいほどの緑色の光に包まれた。
その力は、邪神アポピスを滅ぼした時を遥かに凌駕する、まさに星そのものの力だ。
「うおおおおおおおっ!」
俺は、その集束させた莫大な生命力を、一気に「星の揺り籠」の核へと注ぎ込んでいく。
揺り籠が、歓喜の声を上げるように激しく脈動を始めた。
だが、それと同時に、揺り籠の奥深くに眠っていた邪神の最後の残滓が、俺の力を拒絶し、抵抗を始める。
黒い瘴気が、俺の体を蝕もうと逆流してきた。
「くっ……!」
その時だった。
「グルルルルァァァッ!」
クロが俺の隣に立ち、その黒い瘴気に向かって、渾身の黄金色の浄化の炎を放ったのだ。
クロの炎は、邪神の最後の呪いを完全に焼き尽くし、俺が進むべき光の道を切り開いてくれた。
「ありがとう、クロ! 俺たちの、勝ちだ!」
創造の力と、浄化の力。
二つの力が完全に一つとなり、「星の揺り籠」へと注ぎ込まれていく。
やがて、揺り籠全体がこれまでで最も強く、そして美しい虹色の光を放った。
その光は神殿を突き抜け、天空から地上世界全体へと降り注いでいく。
この星の生命力の循環が、完全に正常化された瞬間だった。
世界中の大地の歪みが、完全に消え去っていくのが俺には分かった。
もう、この星で原因不明の災害や、病気が発生することはないだろう。
この星は、本当の意味で永遠の平和と安定を手に入れたのだ。
『……ありがとう、ございます。新たなる、調停者……アルス様』
ソフィアが、深々と俺に頭を下げた。
『これで、我々の役目も終わりました。この超古代文明の、全ての知識と技術をあなた様に託します。どうか、この星の未来を、お導きください』
そう言うと、ソフィアの水晶の体は光の粒子となって、静かに消えていった。
彼女は、安らかな笑みを浮かべていたように見えた。
こうして、俺たちの最後の戦いは終わった。
俺は、託された古代の知識をアルス連合に持ち帰った。
それは、世界のさらなる発展に大きく貢献することになるだろう。
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だが、俺はその役目を次世代の若者たちに託すことにした。
俺の大きな役目は、もう終わったのだ。
俺は、リリアーナと共に、俺たちの物語が始まったあの辺境の地へと、帰ることにした。
本当に俺が望んでいた、穏やかで静かなスローライフを、始めるために。
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