【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

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「……ふわぁあ~……さむっ。えっ、待って、今日気温落ちすぎじゃない?」

カーテンをちょっとだけ開けて、外の空を確認。

もくもく雲の下、街のビル群が青みがかった朝光に染まってる。どうやら魔導気圧が下がってる日らしい。魔法天気予報、ちゃんとチェックしとけばよかったなあ。

(……っていうか、今日はおにぎりがある!)

目がぱちっと覚めた。

冷蔵保存しといた〈黄金米〉のおにぎり。卵巻きで丁寧に包まれてて、形も崩れてない。女将さん、プロの仕事すぎる……。

電子レンジ式温魔石をセットして、包みを丁寧に開く。

「ふふ、いい香り……」

ぴっと鳴って、卵がふわっと膨らんだタイミングで取り出すと、あったかい湯気と一緒に、だしの香りが鼻に届く。

「うん……これは絶対、朝から勝ち確の味……!」

ひと口。

「っ、ん~っ! たまご、甘すぎないのがまたいい……!」

米の甘みと、卵のやさしい塩気。

しかも中から、ほんのちょっとだけ、昨日の肉のほぐしが顔を出すなんて。

「……女将さん、それ反則……!」

あったかい麦茶を片手に、私はもうしばらく動けなかった。朝ごはんで泣きそうになるって、なんなんだろう。

(……うん。やっぱり、私……戦わなくても、こうして幸せに生きてるな)

その後は手早く身支度を済ませて、ギルドへ出勤。

魔導式スカートの裾をひるがえしながら、通い慣れた路地を抜ける。

ちょっとお腹が重いけど、幸せの重量ってやつだし、問題ない。

「おはようございます、佐倉レナです。本日もよろしくお願いいたします」

カウンターに立ってすぐ、見知った顔が目の前に現れる。

「あっ、佐倉さん!」

昨日の新人さん。……あ、ちょっと前髪のセット変えた?

「おはようございます。……表情、すごくいいですね」

「えへへ……なんだか、ちょっとだけ、自信ついてきたかもです!」

その笑顔を見て、私は小さくうなずいた。

「今日の依頼、何か気になるものありますか?」

「はいっ! あの、掲示板の“スプリガン調査”って、どうなんでしょう……?」

「調査系は安全優先ですが、スプリガンはときどき群れで現れるので、警戒は必要です。……でも、昨日の実績と合わせれば、適正評価はクリアですね」

「わ……よかったぁ。じゃあ、これにしますっ!」

受理書類を受け取ると、彼女はぺこっと頭を下げて、ちょっと背筋を伸ばしてから掲示板へ戻っていった。

(ふふ……なんだか、背が伸びたように見えるな)

冒険者が育っていく姿を見るのは、私のひそかな楽しみのひとつ。

それだけで、少しだけ心が軽くなる。

「佐倉さ~ん、今日の帳簿、ちょっとだけ先に出しといたんですけど……」

奥から、同僚のナナミちゃんが顔を出す。

ぱっちりした目に、ツインテール。元気でかわいい後輩ちゃん。

「あ、ありがとう。確認しますね」

「わ、さすが佐倉さん、もう読み終わってる……!」

「ちょっとだけ、朝の余裕があったので」

「余裕があるって、すごいなぁ。私なんて、まだ朝の魔導ポットも片づけてないのに~」

「あ、それならあとで手伝いますよ」

「わー、優しい! ほんと佐倉さんって、もう嫁にしたい受付嬢No.1ですよね!」

「えっ……えええっ?」

「えっ? ちがいます? 男の人、ぜったいそう思ってますって~。料理できて、仕事できて、でも恋愛苦手で、家に帰ったらぐでーってなってそうなとことか」

「……それ、なんで分かったんですか……?」

「やっぱり~! わかるんですよ、女の勘ってやつで!」

(……なんか、心をのぞかれた気分……)

慌てて顔を逸らしたけど、ナナミちゃんのニヤニヤが追ってくる。やだ、なんだこの追撃性能。

「じゃあじゃあ、今日のごはんは何にするんですか?」

「あ、それは……モンス飯亭の週替わり、今日のを見てから決めようかなって」

「いいなぁ~! 私も行ってみようかな。……って、あ、ダメだ。今日、同期と約束してたんだった」

「また今度、一緒に行きましょうか?」

「えっ!? ほんとに!? 佐倉さんとごはんなんて、それだけで胃袋幸せすぎです!」

「ふふ……私は、そんなたいそうな人じゃないですよ?」

「あ~っ、そこがまた推せる……!」

ナナミちゃんのテンションに押されつつ、私はカウンターの端っこで帳簿にチェックを入れる。

今日も、平和。

だけど……お腹の奥では、もうあの“まかない”への期待がむくむくと膨らんできてる。

(女将さん、今日はどんな料理かな……)

そのとき、ピロン、とスマホが鳴った。

画面を見ると――

『本日限定:新メニュー試作 「バジル香るバジリスクのスタミナ焼き」』

「……バジル香る……バジリスク……?」

想像できるようで、できないこの感じ。

でも確実に、ごはんに合うやつだ。

「これは、行くしかない……!」
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