【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

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「調整って……まさか延期とかじゃないですよね……?」

私の声がちょっと上ずったのは、たぶんスライムサワーのせい。いや、たぶんじゃない。完全にあの泡の仕業。

「ふふふ、延期じゃないわ。むしろ、ちょっとグレードアップ」

「……グレードアップ?」

「詳細は明日の朝、店頭発表だけど……一言だけヒント、あげるわね」

女将さんが、私の耳元にそっと顔を寄せて、声を潜めた。

「“調理担当、変わります”」

「えっ!? 変わるって……女将さんじゃなくなるんですか!?」

「そう。と言っても私の知り合いの、あの人よ」

「あの人……?」

「“料理神官”の称号持ち」

「……はいぃぃ!?!?」

スライムレモンサワーが、思わず鼻に抜けかけた。

「ちょっと、ちょっと待ってください、それもう“飯テロ”どころか“神託”じゃないですか!」

「神官よ、神官。“神”とは言ってない」

「でも限りなく神! ほぼ神って書いて、たぶんウマすぎで読めるやつ!」

「ま、詳細は明日。今日は……唐揚げの余韻でお帰りなさいな」

そう言われて、私はジョッキの残りをぐいっと飲み干した。

炭酸の刺激が、舌の端にチクチク残ってる。

「……はぁ~……じゃあ、明日も定時ダッシュですね……これはもう、戦いですよ」

「受付嬢の本領発揮ね」

「全力で早歩きします!」

ふたりして笑い合って、私はカウンターを後にした。

帰り道、まだ口の中にほんのり山椒が残ってる。

唐揚げ三種、それぞれ違ったインパクトだったけど、ラストの“カリカリ山椒ブラック”は強かった。
口の中がピリリと痺れてるのに、どこかそれがクセになってて。

(あれ……もう一回食べたくなってきた……)

お腹は満たされてるのに、記憶がリクエストしてくる。

脳が食べたがってる。これぞ、魔力。

バッグの中で、スマホがブルッと震えた。

“モンス飯亭公式アカウント:明日の【超重要発表】ご期待ください”

「わ……リアルタイムで動いてる……!」

ちょっとだけ鳥肌が立つ。

だって、明日、“料理神官”がやってくる。

私、元冒険者。今はただの……いえ、“受付嬢”だけど、たぶんあの頃の私でも驚いてたと思う。

“世界を救った後のご褒美は、こんなにおいしい時間なんだよ”って。

それが、いまの私の本当のチート。

あ、そうだ――

「明日、何着て行こう……?」

一気に現実に引き戻される。

服! そうだ! “神官メシ”の日に、汗じみ目立つブラウスとか絶対NG!

「えーとえーと……白のリネンワンピ? でもそれは先週着たし……紺のスカート? いやでもあれ、ちょっとウエスト苦しいんだよなあ……!」

駅のホームで、スマホで天気予報をチェックしながらコーディネートを必死に脳内展開する。

「明日は天気晴れ、風は南寄り……んー、これは薄手シャツに……あっ、でも念のため羽織りも……!」

たぶん、電車の中で必死に服のことで悩んでる私を見たら、誰も“元Sランク冒険者”なんて思わない。

でも、それでいい。

戦わずに生きていくなら、私はこうやって、ご飯とお酒と、ちょっとのおしゃれを味方につけて――

って、あっぶな!

駅の階段で足を滑らせかけた。

「うわっ……セーフ!」

慌てて手すりを掴んでセーブ。

(……こういうとこ、昔から変わんないよなあ)

はぁ、と息をついて、やっと改札を抜けたとき。

背後から、ピコン、と音が鳴った。

スマホに新着通知。

『明日19時、フェンリルコラボ限定コース/“料理神官ヴァルミナ”来店決定』

「ヴァ……ヴァルミナ様ぁああああっ!?!?」

その名、知ってる。

むかし、魔王城最深部で一度だけ、偶然すれ違ったことがある。

旅の途中のあのとき、私のパーティーが空腹でへろへろだったとき、パンとスープを一杯だけ渡してくれたあの人。

“食べたら全ステータスが三倍になった”っていう、あの伝説の料理。

「ま、まさか……また食べられるなんて……」

心臓がバクバクしてきた。

手がふるえて、スマホ落としそうになる。

でも、これは――完全に祭りの予感。

「明日……絶対に行く……!」
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