【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

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「腕を見せてもらおう、だなんて……。私は料理人じゃなくて、ただの受付嬢なんですけど……」
私のその言葉に、ボルガノンと名乗ったドワーフの鍛冶師長は、ふんと豪快に鼻を鳴らした。
「口だけなら何とでも言える。俺たちは言葉より腕で語る種族だ。お前さんのその料理とやらに、俺たちの魂を震わせるだけの力があるのか。それを見せろって言ってんだ」
その真っ直ぐで力強い言葉。どうやら小手先の言い訳は通用しないらしい。
私は覚悟を決めた。
「……分かりました。それならまず、皆さんの普段の料理を見せていただけますか? そして、コンテストで使う食材も」
私の提案に、ボルガノンさんはにやりと口の端を吊り上げた。
「ほう、威勢がいいじゃねえか。いいだろう。ついてきな」

ボルガノンさんに案内されて向かったのは、地下都市の中央にある巨大な調理場だった。そこはもはや調理場というより、巨大な鍛冶場そのものだ。巨大な溶鉱炉のようなかまど、岩を叩き割るためのハンマーのような調理器具。そして、そこでドワーフたちが作っていた料理は……。
「……すごい。本当に焼くだけ、なんですね……」
目の前の光景に、ナナミちゃんが呆然とつぶやいた。
ドワーフたちは巨大な岩塩のプレートの上に分厚い魔獣の肉を乗せ、ただひたすらに焼いている。味付けは塩と胡椒のみ。
「これが俺たちの料理だ。素材の味をそのまま味わう。これこそが最高のご馳走だろうが」
ボルガノンさんは得意げにそう言った。
確かに素材は一級品だ。『マグマゴーレムのサーロイン』、『地底湖の主、巨大ナマズ“ヌシ”のトロ』、『ミスリル鉱脈で育った“クリスタルポテト”』。どれもこれも、このドワーフの国でしか手に入らないであろう超高級食材ばかり。しかし、その調理法はあまりにも単調で大雑把すぎた。

「……ボルガノンさん。このクリスタルポテト、少しいただいてもいいですか?」
私がそう言うと、ボルガノンさんはおう、と頷き、焼きたてのポテトを一本差し出してくれた。見た目は水晶のように透き通っていて美しい。しかし、一口食べてみると……。
(……硬い……。そして、味がない……)
ただ焼いただけでは、このポテトが持つ本来の繊細な甘みとなめらかな食感が全く引き出されていない。
「どうだ、うめえだろ?」
得意げなボルガノンさんに、私は正直に感想を述べた。
「……素材は素晴らしいです。でも、これではこのポテトが泣いています」
「……なんだと?」
ボルガノンさんの顔つきが変わった。
「このポテトは高温で一気に火を通すのではなく、低温の油でじっくりと時間をかけて揚げるべきです。そうすれば、外はカリッと、中はまるで宝石のように透き通ったなめらかな食感に仕上がるはずです」
私の言葉に、周りのドワーフたちがざわめき立つ。
「油で揚げるだと?」「そんなハイカラな食い方、エルフのやることだ」
しかしボルガノンさんは黙って私の目を見つめていた。その瞳には怒りではなく、興味の光が宿っている。
「……やってみろ」
ボルガノンさんは静かにそう言った。

私は頷くと、ヴァルミナ様から贈られた携帯調理器具を取り出した。そして鍋に上質な植物油を注ぎ、魔導コンロで火を入れる。温度は摂氏百四十度。その完璧な温度を魔力制御で保ち続ける。そしてスライスしたクリスタルポテトを一枚一枚丁寧に油の中へと滑り込ませていく。
じゅわあ、という優しい音。ポテトがゆっくりと気泡をまとい、その透明な体を黄金色に染めていく。
数分後、私が油から引き上げたポテトは、まるで芸術品のように美しかった。外側はカリッときつね色、中は光が透けて見えるほど透明感を保っている。
「……どうぞ。味見してみてください」
私はその揚げたての『クリスタルポテト・フリット』をボルガノンさんの前に差し出した。
ボルガノンさんは半信半疑といった顔でそれを一つまみ口に運んだ。
その瞬間、彼のゴツイ顔が驚愕に歪んだ。
「なっ……!?」
カリッという軽快な音。そして次の瞬間、口の中でとろりと溶けていくなめらかな食感。追いかけてくる、ポテト本来の凝縮された上品な甘み。
「……う、うめえ……。なんだこりゃあ……。俺が今まで食ってたポテトはなんだったんだ……」
ボルガノンさんはその場に立ち尽くし、呆然とつぶやいた。周りのドワーフたちも恐る恐るそのポテトフリットを口にし、次々と驚愕の声を上げる。
「うおおお! これが俺たちのポテトの本当の力なのか!」「信じられん! まるで魔法だ!」
私はそんな彼らの反応を見て、ふふ、と微笑んだ。
「これは魔法じゃありません。料理ですよ」
私の言葉に、ボルガノンさんははっとした顔で私を見つめ返した。そして次の瞬間、彼はその場にどかと膝をつき、私に向かって深く、深く頭を下げた。
「……師匠! 俺たちに、料理を教えてくだせえ!」

そのあまりに劇的な展開。私はただあっけに取られて立ち尽くすことしかできなかった。
こうして、私のドワーフの国での料理アドバイザーとしての挑戦が始まった。
コンテストまで、あと三日。
果たして私はこの豪快すぎるドワーフたちを真の料理人に育て上げることができるのだろうか。そして宿敵エルフたちの鼻を明かすことはできるのか。
私の新しい戦い(料理コンテスト)の火蓋が、今、切って落とされた。
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