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6.もはや戻れない
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バシュロ王子殿下は私を「未来の側妃」と言ってしまった。
これを覆すのは、王家に背くことになる。
私は頭が混乱し、気づくと生徒会室に居た。両隣にリゼット第一王女殿下とミレーヌ・ラレット侯爵令嬢がいて、私の髪や肩を撫でていた。
「すぐに王宮から迎えが来ますからね。王宮で髪を調えましょうね」
リゼット様が慰めているようだ。
私は髪よりも、「未来の側妃」と公言されてしまったことに呆然としていた。
もはや戻れないではないか。
ようやくバシュロ王子殿下の方を向くと
「ごめん」
と言った。
「君には監視をつけていたのだけど、まさかあんなことをする令嬢がいるなんて思わなかったんだ。思わず言ってしまった」
「何をおっしゃったのですか!?」
リゼット様が声を荒らげた。
「わたくしを未来の側妃と、皆様の前で…」
ふるふると震えてきた。恐怖や心配ではなく怒りだ。
「バシュロ王子殿下!もう決定したも同じではないですか!わたくしの気持ちを優先するようなことをおっしゃいましたよね!?」
思わず責め立てる。
「お兄様!!」
リゼット様も詰め寄る。
「ベルナデットはまだ十二歳ですよ!こんな重責を負わせるなんて!」
「すまない」
バシュロ王子殿下はさして悪びれた様子もなく謝罪した。
「新年祭で母上が君を見初めてね。それから君を調査して、どうしても君がいいとおっしゃるんだ。この夏、君がプライブ伯爵家の養女になったらすぐに、父上が宣旨を出すことが決定した」
決定ですって?
本当にもう戻れないのだ。
「側妃としての教育もあるし、来年からは王宮で暮らすことになる」
この王子の顔に、ローテーブルに置かれたお茶をぶっかけたら不敬として話は覆るかしら。
「君は私を罵っていいよ。それだけのことをしたと思っている。だが政治なんだ。諦めてくれ」
私はがっくり肩をおとした。泣くまいと必死だった。
そしてそのままリゼット様に肩を抱かれて馬車に乗り、王宮へ連れていかれた。
王宮で調髪を専門にしている侍女さんに髪を整えていただいた。
切られた横髪を揃えて、自然にみえるようにカットされる。
「これを差し上げるわ。短い部分の上の方に留めたら可愛いわよ」
リゼット様が花型の髪留めを両耳の上のところに留めてくださる。
「リボンもいいし、この部分だけ巻くのも可愛いわ」
リゼット様はいくつもの可愛いリボンを目の前に並べて、私の髪に当ててはためすがめすしている。
「今夜は王宮に泊まって行きなさい。明日は寮まで送っていくわ。そのままメイド達が荷造りを手伝うから、プライブ伯爵家まで送るわ。今はタウンハウスにいるのよ」
そっとハンカチが頬に当てられて、私は涙を零しているのに気づいた。
「その涙は髪を切られたせい?それともお兄様のせい?」
リゼット様が慰めるように肩を抱く。
「わかりません。色々ありすぎて」
「そう」
リゼット様は私をソファーへ連れて行った。隣に座って私を見ながら手を握る。
「今日、お兄様がやったことは、おそらくいい機会に飛びついた計算づくのことよ」
私はリゼット様を見た。
「髪を切られる前に助け出したかったのはきっと本当よ。でも髪を切られたことで、あの令嬢達を排除するかっこうの理由ができたことを喜んでいるのも事実だわ」
少し置いて続ける。
「わたくしもあなたを傷つける要因を排除できるのは嬉しく思っているの。これが政治なのよ」
リゼット様は私の頬に手を当てて続ける。
「新学期が始まったら、皆があなたを見る目が変わるわ。だってお兄様が未来の側妃と言ってしまったし、あなたを抱いて連れて来たのよ。あなたは未来の側妃として振舞わなくてはいけないわ。毅然としてね」
私は驚き、リゼット様は小さなため息を吐く。
「たった十二歳で側妃になる未来が決まってしまったことは可哀想だと思うわ。将来あなたは常に二番目としての立場なのですもの。でもしっかりするのよ。側妃になるまであと五年のうちに学んで、覚悟をつけられるように、わたくしも支えるわ」
そして下を向いて少し小さな声で言った。
「わたくしは三年後にダイアード公爵家のドリュー様に降嫁するけれど、あなたが呼んだらかけつけるわ」
私は混乱とありがたさで訳もわからなくなり泣いた。そんな私を抱きながら言った。
「お兄様には私から抗議しておくわ」
そのまま王宮に泊まったが、一晩中まんじりともせずに朝を迎えた。
食欲がなく朝食を断って寮へ向かおうとすると、バシュロ第一王子殿下が駆け寄ってきた。花束を渡して
「すまなかったと思っているが、どうか私の側妃になって欲しい。決して悲しい思いはさせないし、守るから」
私は淑女の礼をしてから、花束を受け取り
「これから時間をかけてどこかへ行く者に、花束なんて無粋ですわ」
と笑ってみせると、バシュロ王子殿下は少し安堵した顔になって微笑んだ。
私はバシュロ王子殿下のエスコートで馬車に乗った。
「母上と父上が直接会えなかったことを残念がっていたよ。私は叱られた」
当然です。
その夏、私はベルナデット・アシャール子爵令嬢から、ベルナデット・プライブ伯爵令嬢になった。
同時に、王子の未来の側妃という立場にも。
これを覆すのは、王家に背くことになる。
私は頭が混乱し、気づくと生徒会室に居た。両隣にリゼット第一王女殿下とミレーヌ・ラレット侯爵令嬢がいて、私の髪や肩を撫でていた。
「すぐに王宮から迎えが来ますからね。王宮で髪を調えましょうね」
リゼット様が慰めているようだ。
私は髪よりも、「未来の側妃」と公言されてしまったことに呆然としていた。
もはや戻れないではないか。
ようやくバシュロ王子殿下の方を向くと
「ごめん」
と言った。
「君には監視をつけていたのだけど、まさかあんなことをする令嬢がいるなんて思わなかったんだ。思わず言ってしまった」
「何をおっしゃったのですか!?」
リゼット様が声を荒らげた。
「わたくしを未来の側妃と、皆様の前で…」
ふるふると震えてきた。恐怖や心配ではなく怒りだ。
「バシュロ王子殿下!もう決定したも同じではないですか!わたくしの気持ちを優先するようなことをおっしゃいましたよね!?」
思わず責め立てる。
「お兄様!!」
リゼット様も詰め寄る。
「ベルナデットはまだ十二歳ですよ!こんな重責を負わせるなんて!」
「すまない」
バシュロ王子殿下はさして悪びれた様子もなく謝罪した。
「新年祭で母上が君を見初めてね。それから君を調査して、どうしても君がいいとおっしゃるんだ。この夏、君がプライブ伯爵家の養女になったらすぐに、父上が宣旨を出すことが決定した」
決定ですって?
本当にもう戻れないのだ。
「側妃としての教育もあるし、来年からは王宮で暮らすことになる」
この王子の顔に、ローテーブルに置かれたお茶をぶっかけたら不敬として話は覆るかしら。
「君は私を罵っていいよ。それだけのことをしたと思っている。だが政治なんだ。諦めてくれ」
私はがっくり肩をおとした。泣くまいと必死だった。
そしてそのままリゼット様に肩を抱かれて馬車に乗り、王宮へ連れていかれた。
王宮で調髪を専門にしている侍女さんに髪を整えていただいた。
切られた横髪を揃えて、自然にみえるようにカットされる。
「これを差し上げるわ。短い部分の上の方に留めたら可愛いわよ」
リゼット様が花型の髪留めを両耳の上のところに留めてくださる。
「リボンもいいし、この部分だけ巻くのも可愛いわ」
リゼット様はいくつもの可愛いリボンを目の前に並べて、私の髪に当ててはためすがめすしている。
「今夜は王宮に泊まって行きなさい。明日は寮まで送っていくわ。そのままメイド達が荷造りを手伝うから、プライブ伯爵家まで送るわ。今はタウンハウスにいるのよ」
そっとハンカチが頬に当てられて、私は涙を零しているのに気づいた。
「その涙は髪を切られたせい?それともお兄様のせい?」
リゼット様が慰めるように肩を抱く。
「わかりません。色々ありすぎて」
「そう」
リゼット様は私をソファーへ連れて行った。隣に座って私を見ながら手を握る。
「今日、お兄様がやったことは、おそらくいい機会に飛びついた計算づくのことよ」
私はリゼット様を見た。
「髪を切られる前に助け出したかったのはきっと本当よ。でも髪を切られたことで、あの令嬢達を排除するかっこうの理由ができたことを喜んでいるのも事実だわ」
少し置いて続ける。
「わたくしもあなたを傷つける要因を排除できるのは嬉しく思っているの。これが政治なのよ」
リゼット様は私の頬に手を当てて続ける。
「新学期が始まったら、皆があなたを見る目が変わるわ。だってお兄様が未来の側妃と言ってしまったし、あなたを抱いて連れて来たのよ。あなたは未来の側妃として振舞わなくてはいけないわ。毅然としてね」
私は驚き、リゼット様は小さなため息を吐く。
「たった十二歳で側妃になる未来が決まってしまったことは可哀想だと思うわ。将来あなたは常に二番目としての立場なのですもの。でもしっかりするのよ。側妃になるまであと五年のうちに学んで、覚悟をつけられるように、わたくしも支えるわ」
そして下を向いて少し小さな声で言った。
「わたくしは三年後にダイアード公爵家のドリュー様に降嫁するけれど、あなたが呼んだらかけつけるわ」
私は混乱とありがたさで訳もわからなくなり泣いた。そんな私を抱きながら言った。
「お兄様には私から抗議しておくわ」
そのまま王宮に泊まったが、一晩中まんじりともせずに朝を迎えた。
食欲がなく朝食を断って寮へ向かおうとすると、バシュロ第一王子殿下が駆け寄ってきた。花束を渡して
「すまなかったと思っているが、どうか私の側妃になって欲しい。決して悲しい思いはさせないし、守るから」
私は淑女の礼をしてから、花束を受け取り
「これから時間をかけてどこかへ行く者に、花束なんて無粋ですわ」
と笑ってみせると、バシュロ王子殿下は少し安堵した顔になって微笑んだ。
私はバシュロ王子殿下のエスコートで馬車に乗った。
「母上と父上が直接会えなかったことを残念がっていたよ。私は叱られた」
当然です。
その夏、私はベルナデット・アシャール子爵令嬢から、ベルナデット・プライブ伯爵令嬢になった。
同時に、王子の未来の側妃という立場にも。
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