5 / 35
5.学期末とヘレン・アンダーソン
しおりを挟む
王女二人に迎え入れられた私は注目されていた。
「綺麗なアッシュブロンド。瞳は氷河の氷みたい。まるで冬の精霊だわ」
セリーナ第二王女が褒める。
「本当ね。次は青いドレス姿が見たいわ。きっと氷の花のように見えるわ」
リゼット第一王女殿下が言う。
私は驚いた。
「可愛げのない冷たい見かけ。誰も妻に望まないでしょうよ」
と母に言われた髪色と瞳なのに。
母と妹は明るい栗色の髪に青い瞳だ。
私の髪と瞳は「灰色」と言われていた。
この色味はプライブ伯爵家の色らしい。オルセー伯父が同じなのだ。
祖母とクレール伯母が調えてくれたドレスは青が多かったが、冷たい印象を与えるのを恐れてこの色にしたのだ。
新年祭の王女のパーティーは楽しく過ぎていった。
冬季休暇が終わり、初夏の学期末がきた。
私は今期もいくつもの最優秀と優秀を取り、報奨金を稼ぎ出した。今回は前より多いのは、ほとんどの生徒が夏季休暇の予定で浮かれていたせいでもある。
夏季休暇は私はプライブ伯爵家へ身を寄せ、正式に養子縁組をすることになる。
学期の最終日、ヘレン・アンダーソン伯爵令嬢がツカツカと私に近づいて来た。
その時は自分に向かっていると思わず、まとめた教材をバッグに入れ終わったので帰ろうと出入り口に向かおうとした。
すると、いきなりガッと左の横髪を掴まれて後ろに倒れこみそうになった。
髪を引っ張られたまま振り返ると、怒り顔のヘレン・アンダーソンがいた。その後ろにはミネルヴァ・ギャローズ子爵令嬢とシリル・エンドレル男爵令嬢。この二人はさも面白そうににやついていた。
「なにをなさるのですか?アンダーソン嬢、髪から手を放してください」
穏便にことをすませたい。
ヘレン・アンダーソンはさらにぐいっと髪を引っ張り言った。
「あなた、生意気よ。いい気になっているんじゃない?」
成績のことだろうか?努力の結果を恥じる謂れはない。
「なんのことでしょう?」
ぐいっとまた引っ張る。
「バシュロ様のことよ!新年祭で近づいて、生徒会へ入ろうとしているって話はちゃんと知っているのよ!!」
これはバシュロ第一王子殿下の根回しのせいだ。
今学期に入ってからちらほらと噂が流れている。
王宮の新年祭に招かれたこと。
リゼット第一王女殿下とセリーナ第二王女殿下と親しいこと。
来学期から生徒会入りが決定していること。
現在の生徒会の皆様から、もちろんバシュロ第一王子殿下からも名前呼びが許されていること。
などなど。
生徒会入りを円滑にし、かつ側妃への外堀をうめようとの目的だろうが、ヘレン・アンダーソンにとっては大変おもしろくない話だ。しかし、こんなことをしてくるとは思わなかった。普段は頬を染めて、いかにも恋する乙女ですと言った可愛い風情で、バシュロ第一王子殿下のことを夢見るように話しているのに。
「新年祭に招かれたのは本当ですが、その場に第一王子殿下はいらっしゃいませんでした」
馬車には同乗したけれど。
ぐいっとまた力をこめられて痛い。
「じゃあ、なんであなたが生徒会入りするのよ!?たかが弱小子爵家のくせに!」
「家柄とは関係ないと思います。わたくしは成績から…」
ぐいっとまた引っ張られる。
「そこが生意気なのよ!大方、生徒会の皆様に取り入るために勉強を頑張ったんでしょうね!お生憎様!!」
ぎゅうっと髪がねじられる。
「生徒会入りするのはわたくしよ!お父様にお願いしているんだから!」
学園自治を親のコネでどうにかできると思っているのだ。そういえば度々「お父様にバシュロ様との婚約をお願いしているの」と言っていたのを聞いた。
「身の程を知りなさいよ!」
そう言ってヘレン・アンダーソンにシリル・エンドレルが鋏を差し出した。
「さあ、ヘレン様。思い知らせてさしあげるといいですわ」
ミネルヴァ・ギャローズが言う。
ヘレン・アンダーソンはにやっと笑って鋏を受け取った。
鋏がヘレン・アンダーソンが握っている私の横髪の束に当てられ、シャキンと音がした瞬間だ。私は髪を切られたという自覚よりも早く、誰かの腕の中に抱き込まれていた。
目の前で私の髪がパラパラと床に落ち、ヘレン・アンダーソンの右手から鋏が床に落ちて堅い音がした。
「バシュロ様…」
ヘレン・アンダーソンが真っ青な顔でこちらを見ている。
「違うんです!誤解です!」
喚き立てるヘレン・アンダーソン。
「衛兵!この三人を拘束しろ!」
頭の後ろからバシュロ第一王子殿下の声がして、初めて彼に抱き込まれたことを理解する。
「私の未来の側妃にした狼藉、罪は軽くはないぞ」
バシュロ第一王子殿下の言葉にその場にいた全員が凍り付く。もちろん私もだ。
なんてことをおっしゃるの!?
言ってしまったら後戻りできないじゃない!?
必死に何かを言い募る三人を、衛兵が連れ去った。
「綺麗なアッシュブロンド。瞳は氷河の氷みたい。まるで冬の精霊だわ」
セリーナ第二王女が褒める。
「本当ね。次は青いドレス姿が見たいわ。きっと氷の花のように見えるわ」
リゼット第一王女殿下が言う。
私は驚いた。
「可愛げのない冷たい見かけ。誰も妻に望まないでしょうよ」
と母に言われた髪色と瞳なのに。
母と妹は明るい栗色の髪に青い瞳だ。
私の髪と瞳は「灰色」と言われていた。
この色味はプライブ伯爵家の色らしい。オルセー伯父が同じなのだ。
祖母とクレール伯母が調えてくれたドレスは青が多かったが、冷たい印象を与えるのを恐れてこの色にしたのだ。
新年祭の王女のパーティーは楽しく過ぎていった。
冬季休暇が終わり、初夏の学期末がきた。
私は今期もいくつもの最優秀と優秀を取り、報奨金を稼ぎ出した。今回は前より多いのは、ほとんどの生徒が夏季休暇の予定で浮かれていたせいでもある。
夏季休暇は私はプライブ伯爵家へ身を寄せ、正式に養子縁組をすることになる。
学期の最終日、ヘレン・アンダーソン伯爵令嬢がツカツカと私に近づいて来た。
その時は自分に向かっていると思わず、まとめた教材をバッグに入れ終わったので帰ろうと出入り口に向かおうとした。
すると、いきなりガッと左の横髪を掴まれて後ろに倒れこみそうになった。
髪を引っ張られたまま振り返ると、怒り顔のヘレン・アンダーソンがいた。その後ろにはミネルヴァ・ギャローズ子爵令嬢とシリル・エンドレル男爵令嬢。この二人はさも面白そうににやついていた。
「なにをなさるのですか?アンダーソン嬢、髪から手を放してください」
穏便にことをすませたい。
ヘレン・アンダーソンはさらにぐいっと髪を引っ張り言った。
「あなた、生意気よ。いい気になっているんじゃない?」
成績のことだろうか?努力の結果を恥じる謂れはない。
「なんのことでしょう?」
ぐいっとまた引っ張る。
「バシュロ様のことよ!新年祭で近づいて、生徒会へ入ろうとしているって話はちゃんと知っているのよ!!」
これはバシュロ第一王子殿下の根回しのせいだ。
今学期に入ってからちらほらと噂が流れている。
王宮の新年祭に招かれたこと。
リゼット第一王女殿下とセリーナ第二王女殿下と親しいこと。
来学期から生徒会入りが決定していること。
現在の生徒会の皆様から、もちろんバシュロ第一王子殿下からも名前呼びが許されていること。
などなど。
生徒会入りを円滑にし、かつ側妃への外堀をうめようとの目的だろうが、ヘレン・アンダーソンにとっては大変おもしろくない話だ。しかし、こんなことをしてくるとは思わなかった。普段は頬を染めて、いかにも恋する乙女ですと言った可愛い風情で、バシュロ第一王子殿下のことを夢見るように話しているのに。
「新年祭に招かれたのは本当ですが、その場に第一王子殿下はいらっしゃいませんでした」
馬車には同乗したけれど。
ぐいっとまた力をこめられて痛い。
「じゃあ、なんであなたが生徒会入りするのよ!?たかが弱小子爵家のくせに!」
「家柄とは関係ないと思います。わたくしは成績から…」
ぐいっとまた引っ張られる。
「そこが生意気なのよ!大方、生徒会の皆様に取り入るために勉強を頑張ったんでしょうね!お生憎様!!」
ぎゅうっと髪がねじられる。
「生徒会入りするのはわたくしよ!お父様にお願いしているんだから!」
学園自治を親のコネでどうにかできると思っているのだ。そういえば度々「お父様にバシュロ様との婚約をお願いしているの」と言っていたのを聞いた。
「身の程を知りなさいよ!」
そう言ってヘレン・アンダーソンにシリル・エンドレルが鋏を差し出した。
「さあ、ヘレン様。思い知らせてさしあげるといいですわ」
ミネルヴァ・ギャローズが言う。
ヘレン・アンダーソンはにやっと笑って鋏を受け取った。
鋏がヘレン・アンダーソンが握っている私の横髪の束に当てられ、シャキンと音がした瞬間だ。私は髪を切られたという自覚よりも早く、誰かの腕の中に抱き込まれていた。
目の前で私の髪がパラパラと床に落ち、ヘレン・アンダーソンの右手から鋏が床に落ちて堅い音がした。
「バシュロ様…」
ヘレン・アンダーソンが真っ青な顔でこちらを見ている。
「違うんです!誤解です!」
喚き立てるヘレン・アンダーソン。
「衛兵!この三人を拘束しろ!」
頭の後ろからバシュロ第一王子殿下の声がして、初めて彼に抱き込まれたことを理解する。
「私の未来の側妃にした狼藉、罪は軽くはないぞ」
バシュロ第一王子殿下の言葉にその場にいた全員が凍り付く。もちろん私もだ。
なんてことをおっしゃるの!?
言ってしまったら後戻りできないじゃない!?
必死に何かを言い募る三人を、衛兵が連れ去った。
1,992
あなたにおすすめの小説
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?
ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。
イケメン達を翻弄するも無自覚。
ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。
そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ…
剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。
御脱字、申し訳ございません。
1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる