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4章:祈りの果て
光 -前編-
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揺れる馬車の中、クラリスは景色をただ眺めていた。
ごとごとと規則的に鳴る車輪の音が、彼女の心にも響く。
──エルバの葬儀が終わって数日経った今も、クラリスの心はもやがかかったようで、すっきりとしなかった。セラヴィアの言うようにエルバの命は残りわずかだったのかもしれない、それでも──
セラヴィアは、そんなクラリスに、何か特別に声をかけたりすることはせず、これまでと変わらず、村はずれで一人、空を眺めたりしていた。
この日、クラリスとセラヴィアは、星の小山に行くと言っていたバルバラに、ついていくことになっていた。
星の小山は、この地域にしか自生しないと言われるノクテスペラの群生地のうちの一つであり、その中でも最も大きな規模を誇る場所だとバルバラは言う。
「前にも言ったろ? 自警団。見回りさ」
王都や、国外では高値で取引がされるノクテスペラである。そのため、その宝の山を狙うものが後を絶たず、村ではバルバラたちが定期的に巡回しているという。
「まあ、自警団なんて言っても、騎士や兵士でも何でもない、ただの腕っぷしに自信のある村の連中なんだけどね」
バルバラは、にかっと笑うと、腕にぐっと力を入れて、その太くたくましい腕をクラリスに見せつけた。
クラリスは、初めはどこかへ出かけるような気分ではなかったが、「見たことないんでしょ……? 行きましょ……?」というセラヴィアの誘いに、「セラヴィアさんが行くのなら……」と、クラリスもついていくことにしたのだった。
確かに、村はずれの丘に咲いていたノクテスペラは見てはいるが、群生しているところというのはまだクラリスは見ていなかったし、何より、口にこそ出さないが、「気分転換に、たまには外に出かけてみれば」というセラヴィアの心遣いが聞こえてくるようで、それがクラリスには嬉しかった──
三台の馬車が、連なって行く。
村を出てしばらく行った先の山すその道を上り、ちょうど村を見下ろす崖沿いの道を、クラリスたちはゆっくりと進んでいた。
「ここらで、少し休憩しようか」
バルバラはそう言い、馬車を止める。
馬車から降りると、皆思い思いに、うーんと伸びをしたり、村の方を眺めたりしていた。
バルバラは道の先を指さしながら、クラリスに言った。
「この崖を抜けた先が、星の小山だよ。夜になるとその名の通り、小山は一面、ノクテスペラの星空さ。」
ノクテスペラは夜に咲く珍しい花である。
夜にはまだまだ時間があったが、その説明にクラリスは、今はまだ開いていないであろう花のさわやかな香りが、かすかに漂ってきたような気がした。
そのときだった。
ガラ……と、一行の頭上でかすかな音が鳴った。
何かがずれたような、乾いた音。つづいて、カラカラと小石が斜面を転げ落ちてくる。バルバラが何かに気付いたように大きく叫んだ。
「みんな! 下がりな!」
その瞬間、雷鳴のような低い唸り声が鳴る。
誰かが、続けて声を上げた。
「落石だ!」
黒く大きな影が斜面を踊るように這い、瞬く間に人一人を覆い隠してしまいそうなほどはあろうかという大きな岩が、ちょうどクラリスが立っているあたりを目掛けて転げ落ちてくる。怒号と悲鳴が飛び交う中、呆然と立ち尽くすクラリスに猛然とバルバラが駆け寄った。
「クラリースっ!!!」
ごとごとと規則的に鳴る車輪の音が、彼女の心にも響く。
──エルバの葬儀が終わって数日経った今も、クラリスの心はもやがかかったようで、すっきりとしなかった。セラヴィアの言うようにエルバの命は残りわずかだったのかもしれない、それでも──
セラヴィアは、そんなクラリスに、何か特別に声をかけたりすることはせず、これまでと変わらず、村はずれで一人、空を眺めたりしていた。
この日、クラリスとセラヴィアは、星の小山に行くと言っていたバルバラに、ついていくことになっていた。
星の小山は、この地域にしか自生しないと言われるノクテスペラの群生地のうちの一つであり、その中でも最も大きな規模を誇る場所だとバルバラは言う。
「前にも言ったろ? 自警団。見回りさ」
王都や、国外では高値で取引がされるノクテスペラである。そのため、その宝の山を狙うものが後を絶たず、村ではバルバラたちが定期的に巡回しているという。
「まあ、自警団なんて言っても、騎士や兵士でも何でもない、ただの腕っぷしに自信のある村の連中なんだけどね」
バルバラは、にかっと笑うと、腕にぐっと力を入れて、その太くたくましい腕をクラリスに見せつけた。
クラリスは、初めはどこかへ出かけるような気分ではなかったが、「見たことないんでしょ……? 行きましょ……?」というセラヴィアの誘いに、「セラヴィアさんが行くのなら……」と、クラリスもついていくことにしたのだった。
確かに、村はずれの丘に咲いていたノクテスペラは見てはいるが、群生しているところというのはまだクラリスは見ていなかったし、何より、口にこそ出さないが、「気分転換に、たまには外に出かけてみれば」というセラヴィアの心遣いが聞こえてくるようで、それがクラリスには嬉しかった──
三台の馬車が、連なって行く。
村を出てしばらく行った先の山すその道を上り、ちょうど村を見下ろす崖沿いの道を、クラリスたちはゆっくりと進んでいた。
「ここらで、少し休憩しようか」
バルバラはそう言い、馬車を止める。
馬車から降りると、皆思い思いに、うーんと伸びをしたり、村の方を眺めたりしていた。
バルバラは道の先を指さしながら、クラリスに言った。
「この崖を抜けた先が、星の小山だよ。夜になるとその名の通り、小山は一面、ノクテスペラの星空さ。」
ノクテスペラは夜に咲く珍しい花である。
夜にはまだまだ時間があったが、その説明にクラリスは、今はまだ開いていないであろう花のさわやかな香りが、かすかに漂ってきたような気がした。
そのときだった。
ガラ……と、一行の頭上でかすかな音が鳴った。
何かがずれたような、乾いた音。つづいて、カラカラと小石が斜面を転げ落ちてくる。バルバラが何かに気付いたように大きく叫んだ。
「みんな! 下がりな!」
その瞬間、雷鳴のような低い唸り声が鳴る。
誰かが、続けて声を上げた。
「落石だ!」
黒く大きな影が斜面を踊るように這い、瞬く間に人一人を覆い隠してしまいそうなほどはあろうかという大きな岩が、ちょうどクラリスが立っているあたりを目掛けて転げ落ちてくる。怒号と悲鳴が飛び交う中、呆然と立ち尽くすクラリスに猛然とバルバラが駆け寄った。
「クラリースっ!!!」
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