薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
257 / 269
最終章

第五話 アイリンの決断

しおりを挟む
~アイリン視点~





 魔王杯のメンバーが決まり、わたしは参加しないで済んで一安心しました。だって、わたしなんかが出たところで、足手纏いになるのは明白ですからね。

 でも、何ででしょうか? 何故か後悔しているわたしが居るのです。

 わたしなんか出ても、皆さんのお力になれないことは分かっているのに、心の奥底ではモヤモヤしています。

「どうして、こんな気持ちになるのでしょうか」

 1人で学園のベンチに座りながら小さく息を吐き、ボーッと外の風景を眺めます。

「何を1人で黄昏ていますの? そんな顔、あなたには相応しくありませんことよ。もっとアホ面を晒して頂かないと」

 隣から声が聞こえ、そちらに顔を向けると、一目で美少女と分かるほどの美しい顔立ちのエルフが隣に座っていることに気付きます。

「アイネスビジンさん! いつの間に!」

「つい先ほどですわよ。それにしても、珍しいですわね。あなたが黄昏れるなんて。何かありましたの?」

「私だって悩む時だってありますよ」

 アイネスビジンさんの問いに答える訳でもなく、わたしだって悩む時くらいあると言うことを告げます。

「そう、別に話したくないのであれば話さなくともいいですわよ。ここで会ったのも何かの縁ですし、ちょっとワタクシの話に付き合ってくれません?」

「まぁ、別にいいですけど」

 アイネスビジンさんがわたしと話がしたいなんて珍しいですね。いったい何の話しなのでしょうか?

「あなたは知らないでしょうが、ワタクシの親戚の子がとあるレースのメンバーに選ばれたのです。ですが、その子は自分に自信がなく、参加を拒否してしまったのです」

 アイネスビジンさんの言葉が耳に入った瞬間、彼女の言葉が胸に突き刺さります。

 その親戚の子、今のわたしと近い。

「ですが、その子は心の中では後悔していました。本当は出たかった。でも、出場して、もし負けてみんなの期待に応えられなかったことを考えると、とても怖かったのです」

 彼女の話に耳を傾け、言葉が耳に入ってくる度に心臓の鼓動が大きくなっていきます。

 わたしと同じだ。その親戚の子、今の私と同じ気持ちになっている。

「その親戚の子は、それからどうしたの!」

 思わず声を上げて、アイネスビジンさんに問い掛けてしまいました。

「その子はレースには出場しないで応援する側に回ったのです。ですがレースが始まった直後、その子は後悔しました。一生懸命に走り、優勝を目指す走者たちの輝かしい姿を見て、自分も走りたい気持ちで一杯になりました。そして死ぬ程後悔したのです。やっぱりレースに出ておけば良かったと」

 レースに出れば良かったと後悔した。もし、それがわたしだったら、どうなるのだろう? このまま応援の方に回って安心するのかな? それともその人のように後悔――。

 そんなことを思っていると、アイネスビジンさんがわたしの肩に両手を置きます。

「そのレースを通してその子が思ったことを今から伝えますね『走者なら走れ! 何も怖がるな! 期待される程重責は大きいが、それから逃げていては、これからも逃げ続ける人生を送ることになる! あなたは強い! 走れ! 走れ! 走れ!』」

 アイネスビジンさんの走れと言う言葉が連呼される度に、わたしの体は自然と立ち上がり、彼女に背を向けます。そして最後の走れの言葉がわたしの背中を押したかのように感じられ、自然とわたしは走り出します。

 やっぱり嫌だよ。シャカールトレーナーなら何とかしてくれると思っているけれど、でも、それは彼に全てを投げ出して、自分だけが楽な道を選んでいるだけ。

 わたしだってシェアハウスのメンバーなんだ。みんなと一緒に、これからも未来に向かって走っていきたい! わたしだけ置いてけぼりにされるのは嫌!

 全力で走り、シャカールトレーナーを探します。

 もしかしたら、わたしの枠なんて残っていないかもしれない。でも、このままわたしの意思を伝えないで終わるより、伝えて終わった方が何倍もマシ。

 息が荒くなる中、懸命に走っていると、シャカールトレーナーを発見しました。彼の近くには、ルビーさんとシュヴァルツさんがいます。

「シャ……シャカールトレーナー!」

「アイリンじゃないか? どうした? そんなに息を荒くして」

 彼の前に来ると、その場で立ち止まって膝に両手を付いて呼吸を整えます。

 あーあ、もっと格好良く、わたしの今の気持ちを告げるつもりだったのに、格好悪い。やっぱり、転生者が伝えた漫画のキャラクターたちのようにはいかないみたい。

「あ、兄さんのほっぺたに蚊が」

「ぶへええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 ルビーさんの棒読みのような言葉に続き、シュバルツさんの悲鳴のような言葉が耳に入り、驚いてそちらに顔を向けます。

「あ、今度は左頬に。あ、今度は右頬、あ、右腕に逃げた。今度は左腕、右足に左足にも移動していく~」

 棒読みのセリフを吐き、次々とシュヴァルツさんをルビーさんが叩いたり殴ったりしていきます。

「大変、蚊のせいで兄さんがこんなにボロボロに。これでは魔王杯に出ることはできませんね。空いてしまった枠はどうしましょう。とりあえず、兄さんは保健室へと連れていきます」

 シュバルツさんを引き釣り、ルビーさんはこの場から離れていきます。

 もしかして、わたしの気持ちに気付いて気を使ってくれた?

 もしそうなら、体を張ってくれた2人に応えるためにも、ちゃんと伝えないと。

「シャカールトレーナー! わたし、魔王杯に出ます! もう逃げません!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...