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54かりそめの妃➀
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女官といっしょに廊下を突き抜けていく。乱闘騒ぎはルイの部屋の対角にある中庭でやっているという。
勢いに身を任せたのはよいものの、ルイは彼らの間に入りこむ勇気はない。そもそも、どうして兄弟でいさかいが生じているのかわからないのだから。
「どうして王子が取っ組み合いしているのですか?」
「どうして……と言われますと、ほとんど我々の及びつくことはなくて」
「どちらが先に仕掛けたのですか」
「それは、見た限りではレオポルド様でした。なぜご長兄に掴みかかったのか、おいたわしや。王宮の従者の配慮がいたらなかったせいで」
「ロイド王子は?お付きの人間はどうしたのです?」
「諫める力にもならないのです。我々では何の微力にもならず」
ほぼ泣き言を重ねる女官に、ルイは聞きたかった部分だけ抑えておく。
レオポルドが怒り任せに兄を襲うだろうか。いやありえない。現実感のないことが頭をよぎったが、ルイは女官の言を真に受けなかった。
「とにかく行ってみればわかりますね」
「はい……そう、そうです」
己の災難のように嘆く女性に、やさしく労わってやる時間はない。廊下の先を曲がると、侍従たちが放心状態で立ち尽くしている。茫然自失、生ける屍みたいな顔をしながら、彼らの目線は庭に向けられていた。
庭先に進んでいくにつれて、後ろの人間たちの呼気が激しくなっていく。彼らに覇気は感じられない。どれだけの恐怖体験を味わったのか、怖じ気づいているようだった。
「行きますよ、ほら」
手近の人間を励ましながら進む。連れていく人数は多いに越したことはない。
ルイは、自分の衣装が身軽でよかったと思った。こうして従者を引っ張って、王宮の臣下を率いることができるのだから。有事にお荷物のように扱われるのは御免だと、常々感じていた。ここで陣頭に立てることが、なんだか誇らしくもあった。
「ルイ様。レオポルド殿下をどうかお鎮めになってください!!」
別の従者がそう言って泣きついてくる。まるで怪物を追っ払うみたいな言い方をされても困ると、ルイは苦笑いした。
彼らの様子を見れば、この状況を予期していなかったのだとわかる。確かに以前までなら、王宮で兄弟喧嘩などありえないことだった。ルイの居住期間では間違いなく、王子が暴れ出す珍事はなく、三兄弟は仲がよいものと思われていた。
外につながる大きな扉から庭に出ていく。ルイは躊躇を覚えずに、いよいよ王子たちと会うために急ぎ足になっていた。
見慣れたはずの景色には、大きな音と砂ぼこりが蔓延していた。白い霞が飛び、細かい粒子が舞う。それらをいったん見過ごし、宮の外壁の柱が、ぽろぽろと音をたてて崩れているのを確かめる。
「なんてことを……」
柱が折れかけている。それだけではない。
どれだけの衝撃を加えれば、地面がへこむのだろうか。庭と宮殿を隔てる壁に、拳ほどの大きな穴が空けられている。これを刻んだのが誰であろうと、恐ろしい膂力である。そうとうに本気な、憎悪や怒りがこめられているように見受けられた。
「レオ様、マルクス殿下」
かすかに見える。激しくもつれ合っている二人の名前を呼んだ。彼らの押し合いに入りこむことは、常人なら自殺行為である。しかしルイは命知らずにも、声の届く距離まで踏み込んでいった。
すさまじい殺気と、血走った眼孔が並んでいた。二人の王子は我を失ったように殴り合い、互いの体力を削るように攻め続けている。文字通りの乱闘。決闘か。かつて見たことのない光景に、ルイは手も足も声も出せなくなる。
(どちらも気がおかしくなってしまったのか)
成人した王子たちによる剣幕。言葉も介さない闘いに、その経験をしたことがないルイは、焦りしか感じられなかった。
勢いに身を任せたのはよいものの、ルイは彼らの間に入りこむ勇気はない。そもそも、どうして兄弟でいさかいが生じているのかわからないのだから。
「どうして王子が取っ組み合いしているのですか?」
「どうして……と言われますと、ほとんど我々の及びつくことはなくて」
「どちらが先に仕掛けたのですか」
「それは、見た限りではレオポルド様でした。なぜご長兄に掴みかかったのか、おいたわしや。王宮の従者の配慮がいたらなかったせいで」
「ロイド王子は?お付きの人間はどうしたのです?」
「諫める力にもならないのです。我々では何の微力にもならず」
ほぼ泣き言を重ねる女官に、ルイは聞きたかった部分だけ抑えておく。
レオポルドが怒り任せに兄を襲うだろうか。いやありえない。現実感のないことが頭をよぎったが、ルイは女官の言を真に受けなかった。
「とにかく行ってみればわかりますね」
「はい……そう、そうです」
己の災難のように嘆く女性に、やさしく労わってやる時間はない。廊下の先を曲がると、侍従たちが放心状態で立ち尽くしている。茫然自失、生ける屍みたいな顔をしながら、彼らの目線は庭に向けられていた。
庭先に進んでいくにつれて、後ろの人間たちの呼気が激しくなっていく。彼らに覇気は感じられない。どれだけの恐怖体験を味わったのか、怖じ気づいているようだった。
「行きますよ、ほら」
手近の人間を励ましながら進む。連れていく人数は多いに越したことはない。
ルイは、自分の衣装が身軽でよかったと思った。こうして従者を引っ張って、王宮の臣下を率いることができるのだから。有事にお荷物のように扱われるのは御免だと、常々感じていた。ここで陣頭に立てることが、なんだか誇らしくもあった。
「ルイ様。レオポルド殿下をどうかお鎮めになってください!!」
別の従者がそう言って泣きついてくる。まるで怪物を追っ払うみたいな言い方をされても困ると、ルイは苦笑いした。
彼らの様子を見れば、この状況を予期していなかったのだとわかる。確かに以前までなら、王宮で兄弟喧嘩などありえないことだった。ルイの居住期間では間違いなく、王子が暴れ出す珍事はなく、三兄弟は仲がよいものと思われていた。
外につながる大きな扉から庭に出ていく。ルイは躊躇を覚えずに、いよいよ王子たちと会うために急ぎ足になっていた。
見慣れたはずの景色には、大きな音と砂ぼこりが蔓延していた。白い霞が飛び、細かい粒子が舞う。それらをいったん見過ごし、宮の外壁の柱が、ぽろぽろと音をたてて崩れているのを確かめる。
「なんてことを……」
柱が折れかけている。それだけではない。
どれだけの衝撃を加えれば、地面がへこむのだろうか。庭と宮殿を隔てる壁に、拳ほどの大きな穴が空けられている。これを刻んだのが誰であろうと、恐ろしい膂力である。そうとうに本気な、憎悪や怒りがこめられているように見受けられた。
「レオ様、マルクス殿下」
かすかに見える。激しくもつれ合っている二人の名前を呼んだ。彼らの押し合いに入りこむことは、常人なら自殺行為である。しかしルイは命知らずにも、声の届く距離まで踏み込んでいった。
すさまじい殺気と、血走った眼孔が並んでいた。二人の王子は我を失ったように殴り合い、互いの体力を削るように攻め続けている。文字通りの乱闘。決闘か。かつて見たことのない光景に、ルイは手も足も声も出せなくなる。
(どちらも気がおかしくなってしまったのか)
成人した王子たちによる剣幕。言葉も介さない闘いに、その経験をしたことがないルイは、焦りしか感じられなかった。
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