ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

文字の大きさ
55 / 81

55かりそめの妃②

しおりを挟む
 きっかけは何であったか。従者一人の視点を借りるなら、マルクス王子とレオポルドの押し問答が原因にあった。

「レオ様……!!」

 ただ、ルイにとってそんなことを冷静に聞き取っている暇はなかった。
 体格で勝るレオポルドが、兄にいなされ、倒され拳を受ける。鉄拳制裁というには、あまりにも理不尽な光景を見てしまう。王太子の力で押さえ付けられて、動きを鈍くするレオポルドの顔は、怒りに染まっている。

 どうしてそんな顔をしているの。ルイはすぐに夫に訊きたかった。どうしてそんなに怖いことをしているの、何があなたを変えてしまったのか。

「来るなっ!!ルイ!!」

 気づいた瞬間に声を張り上げて、レオポルドは退くように命じてくる。マルクスは弟に意識がかたよっていて、周りが見えていない。ゆえにルイや従者たちの存在を認知できていない雰囲気があった。
 退くわけにはいかない。殺伐とした庭にあって、この状況を止められるのは自分だけだ。

「ぐっ、待てって!!」

 床の芝生をざくざくと鳴らしていく。ルイは歩を譲らなかった。
 レオポルドは柔軟に体を折り曲げて、兄の拘束から抜けていった。それどころか仕返しと言わんばかりに、兄の腹部に強烈な正拳突きをお見舞いしてしまう。他の王族が見ていたら失神していただろう。ここでは、従者とルイだけが目撃しているので大した問題はなかった。
 ルイは夫の反射神経に泡を食らいながらも、袖が触れ合うところまで近づいていた。

「危険だから離れろって!!」

「嫌です。まずレオ様、この状況を教えて!!」

「ちょっとした喧嘩だから。すぐにおさまる、頼むから宮に戻ってくれ」

 彼を守りたい。ルイは一心不乱で、そのことしか頭になかった。

「ルイ……エスペランサ妃か?」

 ぞくりと背を震わす、悪魔のうめき声がする。苦痛を強いられて悶絶している王太子。矢面に立っているルイは、真っ先に彼と目が合ってしまう。
 わずか数歩で手が届きそうな所だ。長身の男であれば助走もいらない間合いに荒れ狂う狂人がいる。危険かもしれない、とルイすらも己の直感を働かせていた。

「邪魔するなら覚悟を決めろよ?」

「やめろ兄上!!ルイは……関係ない」

「いいや、大いにあるだろ。なにせ彼の存在が争いの発端だろうが」

 人差し指がぴたりと、ルイを指し示した。

「だから何度も言ったのだ、レオポルド。早く離縁しろと。ルイ・エスペランサは王宮に住まわせずさっさと庶民に落とすべきだったんだ!!」

 言いたい放題のマルクス王子だが、当のルイは話についていくことができなかった。「離縁」、「庶民」といった言葉に従者たちは辟易としている。どうしたって、王族からは出てこない死語であろう。

「お前は婚礼の時に人が変わってしまったようだ。あの日に女児の一人や二人でも宮殿に送ってやれていたら」

「言うな、やめろ!!兄上!!」

「俺は、お前に普通の生活をしてほしいと思っているだけだぞ?どうしてそれを拒む?」

 埒が明かない、と長男は鼻で笑った。ごしごしと顔を拭い、落ち着いて鼻血の流れをせき止めている。
 隣で立つレオポルドは、体裁も構わずに、荒ぶる獅子のような形相のまま立ち止まっていた。

「男どうしでいかにして愛を育む?後世に何を残すつもりだ?なぁレオポルド、かりそめの婚姻にこだわっていては人生が勿体ないぞ?」

 ぐらりとルイの視界が歪んだ。マルクス王子の口ぶりが、それがまるで恐ろしい秘密事のように聞こえたのである。婚礼から宮入り。年下の夫と日常を送るまでの、ルイの一本筋の物語にほころびが生じていく。
 「かりそめ?」、ルイは声も絶え絶えにしながら、王子たちの話に口を挟んでいくのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍
BL
大学生の三毛乃レンは、雨に濡れたり感情が高ぶったりすると、ふわふわの猫耳としっぽが勝手に出てしまう“半猫体質”。 誰にも知られないように隠してきたのに、気になっていた隣人・橘カナトに見られてしまう。 「お前は、そのままで可愛い」 そう言って優しく受け入れてくれるカナトに対し、レンは「別に嬉しくない」と強がる。 でも本当は――寂しがりで不安になりやすく、嫉妬も拗ねるのも止められない“無自覚メンヘラ”気質。 実はその原因は、“幼い頃に背負った傷”にあった。 半猫姿を狙われて怯えたり、危ない目に遭えば、カナトは迷わず抱き寄せて守ってくれる。 そんな溺愛に触れていくうちに、気づけば、“心も体も”カナトなしでは生きていけなくて――。 「カナトさんがいないと、やだ。置いてかないでね」 「置いていかない。絶対に」 「……約束?」 「約束するよ」 レンを守り甘やかす一方で、嫉妬や拗ねるレンにデレデレになりがちなカナト。 耳もしっぽも、心も体も――お互いを独り占めしたくて、手放せない。 こじらせ半猫男子と、一途に溺愛するダーリンの、甘々ラブストーリー。

わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中

月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。 ……なぜジルベルトは僕なんかを相手に? 疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。 しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。 気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!

処理中です...