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53あくまで平和な②
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その日、ルイは故郷への贈り物を念入りに定めて、検品していた。
山々に阻まれたエスペランサ地域では、外来の品に触れる機会がほとんどない。こうして定期的に王子妃が便りを送らないと、世界の情勢すらままならない田舎である。
過酷な環境でも育ちやすい野菜の種と、毛皮製の織物をどっさり積みこむ。生きるのに欠かせない消費財をあれこれ間に詰めてから、馬車を見送った。親や知人のためというより、ひもじい民へのせめてもの同情をこめてのことだ。
「私は恵まれているよ」
「ルイ様……」
「なのにそんな私ができることは、あの箱いっぱいに補給品をしき詰めるだけだ」
あの荷物を受け取ることができる民衆は、果たして何人であろうかと考える。寄付でも、清貧の心でもなんでもいいから、できるだけ多くの人を救えたら御の字である。
身の上にかかる圧力も、他の人に比べたらそよ風に等しいと感じる。自分が難題と向かい合う時、やはり苦境に立たされている人々のことを思い浮かべてみる。
やはり自分は恵まれている。こんなことを考えて行動する時点で、十分に豊かな証であろうから。
「めいいっぱい生きたいよな」
ララの手を借りながら、ルイは書類の管理を進めていく。
遠く離れてからのほうが、故郷を気にする回数が増えている。エスペランサの民、侍従や役人の家族たち。下人の顔ぶれまで。古き懐かしい祖国にせめてもの恩返しをしたい。そんな風に思うようになったのは最近のことである。
「ルイ様はお変わりになられましたね」
「え……?どこが?」
「昔なら、レオポルド様以外の人のために率先して行動するなんてあり得ませんでしたよね」
確かにララの指摘は間違いではない。
人とのやり取りも、お菓子配りも、野外授業もルイは自分のためにしていることだ。この王宮で上手く立ち回るために。レオポルドのために時間を割くことはあれど、他の人など到底考えたことがない。
「そうなのかな」
「きっとルイ様は、レオポルド殿下と触れて変わられたのですね」
鋭い言及に、受け取った側はうっと顔を背ける。
のんびり嘆願書や書簡に目を通しているだけで、ララにすべて見透かされそうな気がした。彼女の洞察眼は驚異だった。
ルイはレオポルドとの交流から、腫れ物がとれたように活発的になっていた。ところどころのすれ違いは残るが、夫妻としての面目が立ってきた段階といえよう。
「ルイ様!!一大事です、レオポルド殿下が!!」
ばたばたと扉を叩く音がする。
時の流れが急速に早まっていく。静かな昼時にふさわしくない女官の声。意気消沈して、絶望に塗れた表情が現れる。焦り具合は、彼女の入室の勢いからもわかる。ルイはあくまで平静を保ちながら、相手を制していった。
「レオポルド様がどうかしましたか」
「マルクス殿下と衝突を……!!対立を起こしているのです!!どうかお願いいたします、ご同行くださいっ!!」
王太子と、レオポルドの衝突。この口ぶりだと、女官ではまったく手に負えないことになっているらしい。まさかありえないという衝撃に、ルイもララも顔を見合せていた。
「殿下が……?」
「言い合いでもしているのですか?議会で論争がありましたか」
違います、と金切り声をあげて、女官は質問を遮ってくる。いつもの彼女の余裕綽々な頬が、恐怖心で真っ青でいる。彼女が王宮内でそんな顔をするなんて、初めてだった。
「殴り合いの乱闘です!!王子たちの仲裁をっ、どうか!!」
大人たちには信じがたい言葉が連なってくる。あのレオポルドが立場を弁えずに、兄とひと悶着しているというのか。
事態の深刻さがようやくわかり、ルイは荷も持たずに部屋を飛び出していった。
山々に阻まれたエスペランサ地域では、外来の品に触れる機会がほとんどない。こうして定期的に王子妃が便りを送らないと、世界の情勢すらままならない田舎である。
過酷な環境でも育ちやすい野菜の種と、毛皮製の織物をどっさり積みこむ。生きるのに欠かせない消費財をあれこれ間に詰めてから、馬車を見送った。親や知人のためというより、ひもじい民へのせめてもの同情をこめてのことだ。
「私は恵まれているよ」
「ルイ様……」
「なのにそんな私ができることは、あの箱いっぱいに補給品をしき詰めるだけだ」
あの荷物を受け取ることができる民衆は、果たして何人であろうかと考える。寄付でも、清貧の心でもなんでもいいから、できるだけ多くの人を救えたら御の字である。
身の上にかかる圧力も、他の人に比べたらそよ風に等しいと感じる。自分が難題と向かい合う時、やはり苦境に立たされている人々のことを思い浮かべてみる。
やはり自分は恵まれている。こんなことを考えて行動する時点で、十分に豊かな証であろうから。
「めいいっぱい生きたいよな」
ララの手を借りながら、ルイは書類の管理を進めていく。
遠く離れてからのほうが、故郷を気にする回数が増えている。エスペランサの民、侍従や役人の家族たち。下人の顔ぶれまで。古き懐かしい祖国にせめてもの恩返しをしたい。そんな風に思うようになったのは最近のことである。
「ルイ様はお変わりになられましたね」
「え……?どこが?」
「昔なら、レオポルド様以外の人のために率先して行動するなんてあり得ませんでしたよね」
確かにララの指摘は間違いではない。
人とのやり取りも、お菓子配りも、野外授業もルイは自分のためにしていることだ。この王宮で上手く立ち回るために。レオポルドのために時間を割くことはあれど、他の人など到底考えたことがない。
「そうなのかな」
「きっとルイ様は、レオポルド殿下と触れて変わられたのですね」
鋭い言及に、受け取った側はうっと顔を背ける。
のんびり嘆願書や書簡に目を通しているだけで、ララにすべて見透かされそうな気がした。彼女の洞察眼は驚異だった。
ルイはレオポルドとの交流から、腫れ物がとれたように活発的になっていた。ところどころのすれ違いは残るが、夫妻としての面目が立ってきた段階といえよう。
「ルイ様!!一大事です、レオポルド殿下が!!」
ばたばたと扉を叩く音がする。
時の流れが急速に早まっていく。静かな昼時にふさわしくない女官の声。意気消沈して、絶望に塗れた表情が現れる。焦り具合は、彼女の入室の勢いからもわかる。ルイはあくまで平静を保ちながら、相手を制していった。
「レオポルド様がどうかしましたか」
「マルクス殿下と衝突を……!!対立を起こしているのです!!どうかお願いいたします、ご同行くださいっ!!」
王太子と、レオポルドの衝突。この口ぶりだと、女官ではまったく手に負えないことになっているらしい。まさかありえないという衝撃に、ルイもララも顔を見合せていた。
「殿下が……?」
「言い合いでもしているのですか?議会で論争がありましたか」
違います、と金切り声をあげて、女官は質問を遮ってくる。いつもの彼女の余裕綽々な頬が、恐怖心で真っ青でいる。彼女が王宮内でそんな顔をするなんて、初めてだった。
「殴り合いの乱闘です!!王子たちの仲裁をっ、どうか!!」
大人たちには信じがたい言葉が連なってくる。あのレオポルドが立場を弁えずに、兄とひと悶着しているというのか。
事態の深刻さがようやくわかり、ルイは荷も持たずに部屋を飛び出していった。
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