52 / 75
52恋と愛に苛まれる
しおりを挟む
弟を庇うようなハヤセの素振りが一瞬目についたが、それは杞憂であった。アルベールは相手の心底深くを理解した。
剣を持つ彼は、麗しい人を安堵させるために、その力をわずかに緩める。
「なぁハヤセ。俺はあの日から、心に決めていることがあるんだよ」
柔らかな頬に触れつつ、片腕でやさしくハヤセを抱き上げる。手負いの野獣が動き出すかもしれないからと華奢な身体は後ろに手繰り寄せていった。
弟の命が尽きようとしている。クリスのわずかな抵抗を、最期の渾身の姿を。
瀕死の中での獣の暴れぶりを、人々は眺めるだけだった。アルベールは大男の剣回しを軽くいなすだけ。
隙だらけの相手にとうとうアルベールは決意を固めることだった。
「ハヤセの障害になるものは俺がぜんぶ壊してやる」
言葉は凍えた空気をさらに凍結させていく。誰もが精神を砕いていく傍らで、ただし一人だけは違っていた。アルベールの内にだけは煌々と燃え上がるような魂が宿る。
「この愛はきっと無駄なんかじゃない。俺はそう思うんだよ。罪も罰も、二人で受け止めていけばいいんだよ」
過去との決別を迫られている。堪らずハヤセは崩れ落ちた。
それはいけない、許されないのに。何を考えているのだろう。どんな感情で自分は泣いているのか。
どうしようもなく衰弱した心が、まるで救われたかのように錯覚してしまう。どうしても澄みきっていく。晴れた日のように。アルベールが自分のことごとくを浄化していくようだ。
「えぐっ……ひっ…………う……うぅ……」
「もう過ちは犯さない。二度とお前を一人にはしなくないんだ」
凪のように穏やかな。ハヤセは混濁する世界にありながらアルベールの懐中に包まれている。そうして温かい鼓動を聞いた。
「だから…………そばにいてくれないか」
彼はとっくに選び進んでいた。恋に燃え上がりながらも、その想いをひたすら一途に貫いている。ハヤセのことだけを想って止まない、彼らしい決意だった。
あぁ彼だ。彼こそが自分の求めていた答えなのかもしれないと。ハヤセはそう思った。これまでの苦労が報われると予感がして、アルベールの言葉に魂が打ち震えている。
「じゃあなハヤセの弟……レイフィールドの跡取り」
衆人が固唾を飲んだ。クリス・レイフィールドが地に伏していく。部屋に残される事実は、たったそれだけだった。
吹き出す返り血を浴びてもハヤセもアルベールも何も感じなかった。特にハヤセは弟への別れの言葉など、持ち合わせていなかった。
剣を持つ彼は、麗しい人を安堵させるために、その力をわずかに緩める。
「なぁハヤセ。俺はあの日から、心に決めていることがあるんだよ」
柔らかな頬に触れつつ、片腕でやさしくハヤセを抱き上げる。手負いの野獣が動き出すかもしれないからと華奢な身体は後ろに手繰り寄せていった。
弟の命が尽きようとしている。クリスのわずかな抵抗を、最期の渾身の姿を。
瀕死の中での獣の暴れぶりを、人々は眺めるだけだった。アルベールは大男の剣回しを軽くいなすだけ。
隙だらけの相手にとうとうアルベールは決意を固めることだった。
「ハヤセの障害になるものは俺がぜんぶ壊してやる」
言葉は凍えた空気をさらに凍結させていく。誰もが精神を砕いていく傍らで、ただし一人だけは違っていた。アルベールの内にだけは煌々と燃え上がるような魂が宿る。
「この愛はきっと無駄なんかじゃない。俺はそう思うんだよ。罪も罰も、二人で受け止めていけばいいんだよ」
過去との決別を迫られている。堪らずハヤセは崩れ落ちた。
それはいけない、許されないのに。何を考えているのだろう。どんな感情で自分は泣いているのか。
どうしようもなく衰弱した心が、まるで救われたかのように錯覚してしまう。どうしても澄みきっていく。晴れた日のように。アルベールが自分のことごとくを浄化していくようだ。
「えぐっ……ひっ…………う……うぅ……」
「もう過ちは犯さない。二度とお前を一人にはしなくないんだ」
凪のように穏やかな。ハヤセは混濁する世界にありながらアルベールの懐中に包まれている。そうして温かい鼓動を聞いた。
「だから…………そばにいてくれないか」
彼はとっくに選び進んでいた。恋に燃え上がりながらも、その想いをひたすら一途に貫いている。ハヤセのことだけを想って止まない、彼らしい決意だった。
あぁ彼だ。彼こそが自分の求めていた答えなのかもしれないと。ハヤセはそう思った。これまでの苦労が報われると予感がして、アルベールの言葉に魂が打ち震えている。
「じゃあなハヤセの弟……レイフィールドの跡取り」
衆人が固唾を飲んだ。クリス・レイフィールドが地に伏していく。部屋に残される事実は、たったそれだけだった。
吹き出す返り血を浴びてもハヤセもアルベールも何も感じなかった。特にハヤセは弟への別れの言葉など、持ち合わせていなかった。
64
あなたにおすすめの小説
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる