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13 私の望み
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「不退去罪は、この建物の持ち主となった琴葉さんから退去を求められたにも関わらず、居座り続けることで成立する犯罪です。退去に応じず居座り続ける行為そのものが犯罪となリますのでご注意を」
「な、何だってっ?!」
「そ、そんな……っ?!」
お父様と義母たちは驚きのあまり絶句してしまう。
私が当主となれば、私の一存でこの屋敷から追い出されてしまうことに、お父様たちはようやく気が付いたようだ。
「こ、琴葉は私たちを追い出したりしないよな……? 親子だもんな……?」
さっきまでの高圧的な態度は何処へやら、お父様は手のひらを返したように、今度は私に媚びてきた。
そんなお父様を見ていたくなかった私は、お父様の言葉を無視して西園寺さんを見る。
「西園寺様、お父様たちが今後一切私に関わらないと約束してくださるなら、このままこの屋敷に住むことを許可しようと思うのですが、約束を破らないようにすることって出来ますでしょうか?」
お父様たちを追い出しても、きっとここにいたら私は暗い気持ちのまま過ごすことになるんじゃないかなって思う。
嫌な思い出しかないこの屋敷に、これ以上居たくないのが私の本当の気持ちだ。
「それは勿論、制約の術式で縛り付けることは出来ますが……。しかし琴葉さんはどうなさるのですか?」
私の提案を意外に思ったのだろう、西園寺さんが心配してくれているのが伝わってくる。
「私は夜見ノ森にある家に住もうと思っています。こじんまりとしていますが、一人で住むには広いぐらいなんです。それに……その家にはお母様との思い出が残っていますから……」
夜見ノ森は迷いそうになるほどとても広い。それに聖域とされているから、地元の人はほとんど立ち入らない場所なので、人と関わりたくない私にはもってこいの場所だと思う。
そして何より、その場所にはお母様と過ごした思い出が、穢されることなく残っている。出来ることなら今すぐそこで暮らしたいぐらいだ。
……それに大豆や小豆と人目を気にせず戯れるし。
「そうですか……。琴葉さんがそう仰るなら、希望通りにさせていただきますよ。しかし女性の一人暮らしは何かと物騒ですからね。強固な結界を張って悪意ある者が近づけないような措置を取らせていただきましょう」
「本当ですか? 有難うございます、そうしていただけるとすごく助かります」
私は西園寺さんからの提案に感謝した。私一人じゃ結界を張るなんて出来ないから本当に有り難い。
「では、条件など細かい話は明日話し合いましょう。その時に琴葉さんの考えを詳しく聞かせて下さい」
「は、はい、わかりました。どうぞよろしくお願いいたします!」
私は立ち上がり、帰ろうとする西園寺さんをお見送りしようと一緒に部屋を出た。本来ならお客様のお出迎えは当主の仕事なのに、お父様たちが立ち上がる気配はない。
ちらりと後ろを振り返ると、暗く沈んだ顔のお父様と、何かを考えている義母と怜央に、私を鋭い視線で睨みつける真央の姿が見えた。
私は憎しみが籠もった真央の視線にゾッとして、慌てて前に向き直る。
「……琴葉さんが置かれている状況はかなり悪そうですね。これは早々に手を打った方が良いかもしれません」
「あっ……。その、お見苦しいところをお見せして申し訳有りません。父は母の遺言にショックを受けてしまったようで……」
何も言っていないのに、その場の雰囲気とお父様の言動で西園寺さんは私が虐げられていることに気付いてくれたらしい。
「いや、琴葉さんが謝られる必要はありませんよ。まだお父君は当主代理ですからね。ならばそれに相応しい立ち振舞をしなければなりません」
お父様たちが部屋から出てくる気配がないことに、西園寺さんは呆れ気味だ。だけど私は今がチャンスと口を開いた。
「……あの! 西園寺様は母とお会いしたことがあるのですよね? その時母はどんな様子でしたか?」
私はずっと気になっていたことを、思い切って聞いてみた。不躾で失礼だと思いつつも、母の話を聞きたいと、強く思ったのだ。
「ははは、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。柚葉さんとは陰陽省で何回かお会いしたことがありました」
「陰陽省……!」
私はお母様が陰陽省と関わりがあることを意外に思う。だって陰陽省はこの国の中枢に関わる重要な機関だからだ。
「琴葉さんはご存知無いようですが、天花寺家は特殊な家系でして、前当主だった柚葉さんは重要人物だったんですよ。彼女はあらゆる術式で守られていましたしね」
「えっ……」
私は西園寺さんの話を聞いて驚いたのと同時に、違和感を覚えた。
(お母様が術式で守られていた……? でもお母様はまるで……)
お母様は病気で亡くなられたけれど、だからと言って身体が弱かったわけじゃない。
元気だったお母様は次第に床に伏せるようになり、それからあっという間にこの世から去ってしまったのだ。
あの頃はお母様が弱っていく姿が辛くて深く考えていなかったけれど、今思い返せばそれが異常だったことに気付く。
何故ならお母様の容体はまるで、生気を吸い取られるかのように、急速に衰弱していったからだ──まるで、呪われたかのように。
「な、何だってっ?!」
「そ、そんな……っ?!」
お父様と義母たちは驚きのあまり絶句してしまう。
私が当主となれば、私の一存でこの屋敷から追い出されてしまうことに、お父様たちはようやく気が付いたようだ。
「こ、琴葉は私たちを追い出したりしないよな……? 親子だもんな……?」
さっきまでの高圧的な態度は何処へやら、お父様は手のひらを返したように、今度は私に媚びてきた。
そんなお父様を見ていたくなかった私は、お父様の言葉を無視して西園寺さんを見る。
「西園寺様、お父様たちが今後一切私に関わらないと約束してくださるなら、このままこの屋敷に住むことを許可しようと思うのですが、約束を破らないようにすることって出来ますでしょうか?」
お父様たちを追い出しても、きっとここにいたら私は暗い気持ちのまま過ごすことになるんじゃないかなって思う。
嫌な思い出しかないこの屋敷に、これ以上居たくないのが私の本当の気持ちだ。
「それは勿論、制約の術式で縛り付けることは出来ますが……。しかし琴葉さんはどうなさるのですか?」
私の提案を意外に思ったのだろう、西園寺さんが心配してくれているのが伝わってくる。
「私は夜見ノ森にある家に住もうと思っています。こじんまりとしていますが、一人で住むには広いぐらいなんです。それに……その家にはお母様との思い出が残っていますから……」
夜見ノ森は迷いそうになるほどとても広い。それに聖域とされているから、地元の人はほとんど立ち入らない場所なので、人と関わりたくない私にはもってこいの場所だと思う。
そして何より、その場所にはお母様と過ごした思い出が、穢されることなく残っている。出来ることなら今すぐそこで暮らしたいぐらいだ。
……それに大豆や小豆と人目を気にせず戯れるし。
「そうですか……。琴葉さんがそう仰るなら、希望通りにさせていただきますよ。しかし女性の一人暮らしは何かと物騒ですからね。強固な結界を張って悪意ある者が近づけないような措置を取らせていただきましょう」
「本当ですか? 有難うございます、そうしていただけるとすごく助かります」
私は西園寺さんからの提案に感謝した。私一人じゃ結界を張るなんて出来ないから本当に有り難い。
「では、条件など細かい話は明日話し合いましょう。その時に琴葉さんの考えを詳しく聞かせて下さい」
「は、はい、わかりました。どうぞよろしくお願いいたします!」
私は立ち上がり、帰ろうとする西園寺さんをお見送りしようと一緒に部屋を出た。本来ならお客様のお出迎えは当主の仕事なのに、お父様たちが立ち上がる気配はない。
ちらりと後ろを振り返ると、暗く沈んだ顔のお父様と、何かを考えている義母と怜央に、私を鋭い視線で睨みつける真央の姿が見えた。
私は憎しみが籠もった真央の視線にゾッとして、慌てて前に向き直る。
「……琴葉さんが置かれている状況はかなり悪そうですね。これは早々に手を打った方が良いかもしれません」
「あっ……。その、お見苦しいところをお見せして申し訳有りません。父は母の遺言にショックを受けてしまったようで……」
何も言っていないのに、その場の雰囲気とお父様の言動で西園寺さんは私が虐げられていることに気付いてくれたらしい。
「いや、琴葉さんが謝られる必要はありませんよ。まだお父君は当主代理ですからね。ならばそれに相応しい立ち振舞をしなければなりません」
お父様たちが部屋から出てくる気配がないことに、西園寺さんは呆れ気味だ。だけど私は今がチャンスと口を開いた。
「……あの! 西園寺様は母とお会いしたことがあるのですよね? その時母はどんな様子でしたか?」
私はずっと気になっていたことを、思い切って聞いてみた。不躾で失礼だと思いつつも、母の話を聞きたいと、強く思ったのだ。
「ははは、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。柚葉さんとは陰陽省で何回かお会いしたことがありました」
「陰陽省……!」
私はお母様が陰陽省と関わりがあることを意外に思う。だって陰陽省はこの国の中枢に関わる重要な機関だからだ。
「琴葉さんはご存知無いようですが、天花寺家は特殊な家系でして、前当主だった柚葉さんは重要人物だったんですよ。彼女はあらゆる術式で守られていましたしね」
「えっ……」
私は西園寺さんの話を聞いて驚いたのと同時に、違和感を覚えた。
(お母様が術式で守られていた……? でもお母様はまるで……)
お母様は病気で亡くなられたけれど、だからと言って身体が弱かったわけじゃない。
元気だったお母様は次第に床に伏せるようになり、それからあっという間にこの世から去ってしまったのだ。
あの頃はお母様が弱っていく姿が辛くて深く考えていなかったけれど、今思い返せばそれが異常だったことに気付く。
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