紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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17 過去の記憶 

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「はあ、はあ、はあ……っ、はあ……!」

 私は息を切らしながら、暗闇に覆われた森の中を必死になって走っていた。

 怖くて怖くて、後ろを振り向くことが出来ない。

 振り向いたらきっと、そこで私の命が尽きる──そう本能が叫んでいるから。

 どれだけ走り続けたのか、全くわからない。十分のような気がするし一時間のような気もする。

 走り過ぎたのか、息切れがして肺がすごく痛い。膝はガクガクと震えて、今にももつれそうだ。

 だんだん走るスピードが落ちてきて、今にも倒れてしまいたいけれど、背後からやって来る巨大な闇の存在が怖ろしくて怖ろしくて、私は気力を振り絞って走り続ける。

 だけど走っても走っても、なかなか前に進まなくて、藻掻いている内に私はついに転んでしまった。

「きゃ……っ!!」

 何とか立ち上がろうとするけれど、足はもう限界で、これ以上走れない。

 動けない私の背後から、木の枝を折りながら走る夥しい足音が聞こえてきた。

「あ……っ、ああ……っ」

 バキバキと木々が破壊される音がしたかと思うと、大木の影から血走った、ギョロッとした目が現れて、私の姿を捕らえた。

『……ケタ、ミツケタ、ミツケタミツケタミツケタミツケタ!!』

 空間を歪めるような、悍ましい声が森中に響く。

 そうして姿を現したのは、真っ黒い蜘蛛に似た、巨大な体をした化け物で、頭に二本の角を生やし、大きな口には尖った歯がずらりと並んでいる。
 血走った、黄色い眼球がぎょろぎょろと忙しなく動き回っている様子に身の毛がよだつ。

 いつもなら森に溢れている生命の息遣いを、今は全く感じることが出来ない。化け物を恐れ、みんな姿を隠してしまったようだ。

 ──今この場所で、生きているのは私だけ。

 充満する死の気配が私の身体を包み込んでいく。

『ドコ、オマエ……ガスル。オマエモッテル……ドコ……ニシタ。ダセダセダセダセ』

 化け物が意味のわからない言葉を発している。
 私に何かを出せと言っているようだけど、今の私は着の身着のままで、何も持っていない。

『ニオイ、スル……スルスル、チガニオイスル、チ、チ、チ……チヲダセ! ダセ!』

「きゃあああああああっ!!」

 化け物が叫びながら足を振り上げた。足の先には巨大な爪のようなものが生えていて、まるで剣のように鋭く尖っている。

 そんな足に切られたら、きっと私の身体は真っ二つにされるだろう。

 私は咄嗟に身体を転がして、化け物の足から逃れる。

 勢い良く振り上げた化け物の足が、地面を深く抉る。

「きゃあ……っ、く……っ……!!」

 ぎりぎり避けたものの、化け物の足が地面に刺さった衝撃で、私は土飛沫と一緒に飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 身体を打ち付けたせいで、全身が酷く痛む。

「う……っ」

 私は腕の力で痛む身体を引きずって、その場から逃れようともがく。

『オマエ……二ガサナイ! ダセ! ミヲダセ! チ、チィイイイイーー!!』

 変わらず意味不明な言葉を吐き出す化け物が、苛ついた様子で暴れ出した。

 もう今度こそ駄目だ、と死を覚悟した私の耳に、空気を切り裂く音が届く。

”──シュッ!”

『ギャアアアアアアアアアアッ!!』

 と同時に、化け物の絶叫が響き渡り、私は驚きで固まってしまう。

『イギィイイイイイイイッ!! イタイィイイイイイ!! イダァアィイイイイイ!!』

 何が起こったのかわからないまま化け物を見ると、片目を何かに切られたようで、眼球から夥しい量の血が流れていた。

「大丈夫かっ?!」

 呆然とする私のもとに、誰かが駆け寄ってきて声を掛けてくれた。

 私が声がした方向を見ると、そこには紅い、とても綺麗な紅い瞳が、私を見つめていて。

 ──あまりにも綺麗な、浮き世離れした美しさに、私はこんな時なのについ見惚れてしまったのだった。
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