紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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 久しぶりにゆっくり眠ることが出来た私は、朝日の光を浴びて目が覚めた。

「……あっ! もうこんな時間……!」

 私はすっかり日が昇っている時間になっていたことに驚いた。

 いつもなら日が昇る前に起きて朝餉の準備をしていたのに、すっかり寝坊してしまった。もしかすると罰としてご飯を抜かれてしまうかもしれない。

 慌てて起きて支度していると、誰かがトントンと戸を叩いていることに気が付いた。

「……琴葉お嬢様、朝餉の支度ができました」

「えっ……」

 外から聞こえてくる声は、聞き慣れた使用人の声で。

 しかもその使用人は、いつも私のことを”お嬢”と呼び、自分の仕事を押し付けるような人だったのに、今はまるで別人のような優しい声色をしている。

「当主様がお待ちですよ、さあ参りましょう」

「……は、はいっ」

 私は気持ち悪さを感じながらも、戸を開けて使用人の後を付いていく。
 正直お父様たちと顔を合わせたくないけれど、昨日の夕餉を食べそこねたから、すごくお腹が空いているのも確かだった。

 部屋に入ると、お父様と義母がすでに待っていた。

「おはよう、琴葉。昨日のこともあるし、ゆっくり食事でもしながら話そうじゃないか。あ、これからはみんなで一緒に食事をしよう。琴葉も一人は寂しいだろう?」

「そうよ、琴葉さんは一人が良いかもしれないけれど、やっぱり不自然だもの。家族一緒に仲良く過ごしましょう?」

 そう言って二人は私に向かって優しく微笑んだ。私はそんな二人を見て、心の奥底から激しい怒りが湧いてくる。

「……や、……です……っ」

「んん? 何だって?」

 優しく話し掛けてくる父に、嫌悪感が一気に押し寄せてきた私は、たまらなくなって感情を爆発させる。

「──嫌ですっ!! 散々私をこき使って使用人扱いして来たくせに……っ、今更家族面してっ、媚を売られても気持ち悪いだけです! 私の家族はお母様だけ……っ!! もう誰も信じませんっ!!」

 もう一瞬でもこの場に居たくなかった私は、そう叫ぶと部屋から出ていった。

 ──いやいやいやいやっ!! お父様も義母も大嫌いっ!!

 どうして平気であんなことが言えるの?
 私をずっと除け者にして、使用人以下の扱いをしておいて、あんな……!
 まるで何事も無かったように──私の苦しみなんて無かったかのように、自分たちの行いを顧みもせず、ただ私だけに我慢を強いて……!

 遺産目当てなのは明らかで、隠そうともしない二人の言動に、腹が立って腹が立って……そして悔しくて仕方がない。

 私はただ、今までのことを反省して、二人が心から謝ってくれれば……それだけで良かったのに……!

 早々に戻り、部屋に籠もった私に何回か使用人が呼びに来たけれど、私はずっと無視を決め込んだ。
 いつもなら部屋から出てこない私を、使用人たちは無理やり引きずり出そうとしたと思う。だけど下手に手を出して私の怒りを買いたくないのか、使用人たちが部屋に入って来る気配は無い。

 それからしばらくして、誰も来なくなったと安心した途端、外から怜央の声がして、私の心臓がどくん、と跳ねる。

「……琴葉、俺だ。ここを開けてくれ。腹が減っただろう? 握り飯を持ってきたんだ」

 怜央の声はとても儚げで、私をすごく心配してくれているのがわかる。

「……」

 私はしばらく考えてから戸を開けた。

「琴葉……!」

 私が戸を開けたからか、怜央が嬉しそうに笑う。

「良かった、琴葉の顔が見れて。握り飯を持ってきたんだ。中に入れてくれないか?」

「え、でも……。部屋に怜央様をお入れするわけには……」

 私は部屋の中に入れて欲しい、と言う怜央に戸惑った。未婚の女性が部屋で男性と二人になるのは見聞が良くないとされているからだ。
 だから西園寺さんと馬車の中で少し話しただけでも、義母になじられることになったのだけれど……。

「俺もまだ食べていないから、一緒に食べよう?」

 怜央からまだ食べていない、と聞いたら、断るのも申し訳ない気がする。
 それに男性と言っても怜央とは戸籍上の兄妹だし、私は大丈夫だろう、と判断した。

「……狭くて申し訳有りませんが、それでもよろしければ……どうぞ」

「琴葉と一緒なら、何処だって構わないよ」

 私はそう言って、笑顔を浮かべる怜央を部屋に招き入れた。ただでさえ狭い部屋だから、二人が座るとそれだけで一杯になってしまう。

「はい、これ。昨日から食べてないんだろ? お茶もあるから、ゆっくり食べて」

「あ、有難うございます……っ」

 怜央は私に握り飯を渡すと、自分の分も取り出して食べ始めた。

 私は渡された握り飯を口に含むと、ゆっくりと咀嚼する。

 ──こんな状況だけれど、久しぶりに誰かとする食事は美味しくて、相手が怜央にも関わらず、じんわりと心が温まる気がした。

 夢中になって握り飯を食べていると、いつの間にか食べ終わっていた怜央が、私を見つめていることに気が付いた。

「……琴葉の部屋、すごく甘い匂いがする……」

「えっ」

 そう言って、じっと私を見つめる怜央の目には、怪しげな色が浮かんでいて。

「……ああ、本当に残念だ。今なら琴葉を……なのに成人まで待てだなんて、本当に残念だよ」

「──な、にを……」

 怜央から不穏な雰囲気を感じ取った私は、警戒を強め怜央から離れようとした、けれど。

 その途端、頭がぐらついて、私は怜央にその言葉の意味を聞けないまま、意識を手放したのだった。
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