紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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15 噛み合わない歯車

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 私が西園寺さんが乗った馬車を見送っていると、背後に人の気配を感じた。

「──っ?!」

 もしかしてまた怜央が私に何か言いに来たのかと思い、警戒しながら振り返ると、そこには意外な人物がいて。

「──西園寺様と一体何をお話していたのかしら?」

「お義母様……っ」

 改めて見る義母は、やっぱり美しい人だなって思う。いつまでも若々しくて、双子の子の母にはとても見えない。だからお父様はそんな彼女に夢中なのだろうけれど。

「あんな狭い場所で未婚の女が男と二人っきりだなんて、どんな噂が立つか……まったく、西園寺様を誑し込むなんてふしだらな女ね。母親似かしら」

「なっ?! お母様を侮辱しないでくださいっ! それに誑し込むだなんて、疚しいことは何も有りません!」

 義母が呆れたような、蔑む目で私を見てくるけれど、そんなことよりもお母様を侮辱されたことにすごく腹が立った私は、思わず言い返してしまう。

「お黙りっ!! 疚しいことはないって証明できるのかい?! 遺産のことで有利に立ったつもりのようだけど、あんたは一生この家に縛られるんだ! たった一人で何が出来るってのさっ?! あんたの味方なんて何処にもいやしないよ!!」

「う……っ」

 憎しみが籠もった形相で、激しい言葉で私をなじる義母の剣幕に足が竦んでしまう。義母が怖ろしく思えて、さっきまで奮い立っていた心がだんだん萎んでいく。

 私は義母の言う通り、自分の周りには誰もいないことに気が付いた。この屋敷から離れて暮らしても、友人や知人がいない私は深い孤独に苛まれる日々を送るのではないか──そんな不安が、胸の奥から一気に溢れ出す。

「琴葉! 大丈夫か?!」

 自分で思った以上に、義母の言葉に傷ついた私のもとに、怜央が慌てて駆けつけて、今にも泣きそうな私をしっかりと抱きしめた。

 その瞬間、得も言われぬ安心感が、私の身体を包みこんだ。

「れ、怜央様……」

「あの西園寺という奴に何かされたのか?! 使用人に教えられて様子を見に来たんだ、琴葉が心配だから……っ」

 怜央の顔は真剣で、走ってきたのだろう、息がかすかに乱れていた。

 そんな怜央なら、私を心配して駆けつけてくれた怜央なら、この孤独を癒やしてくれると、思わずしがみつきそうになって──気が付いた。

 ──違う、この人じゃない、と。

「こ、琴葉……?」

 何も言わず、両手で押して身体を離した私に、怜央の戸惑った声が届く。

「……ご心配いただき有難うございます、私は大丈夫です。西園寺様とは少しお話しただけですから、どうぞご安心下さい」

 怜央が心配してくれて、本当に有り難いと思う。それに形はどうあれ、怜央は私に好意を持ってくれている。

 だからもし私が怜央の想いを受け入れれば、今の状況よりはマシになるんじゃないかな、なんて考えが私の頭によぎる。

 そうしてしまえば楽なのに、それでも心の何処か奥深くで、それは駄目だと叫ぶ私もいて。

「では、私は失礼しますね」

 感情の整理がつかないまま、私は逃げるようにその場を後にした。

 それから自分に充てがわれた部屋に戻ると、蹲りながら今日の出来事を振り返る。

 お母様が残してくれた遺産と、お母様の不審死。そしていつの間にかいなくなっていた権博士たち。

 まるでお母様の死がきっかけで、何かが狂い始めている──そんな気がしてならない。

「お母様……」

 私は元気だった頃のお母様の姿を思い出す。

 記憶の中でもお母様はとても綺麗で、いつも微笑みを絶やさなかった。
 時には厳しくても、それが愛情だとわかっていたし、優しいお母様が私は大好きでたまらなかった。

 だからお母様が亡くなった時はみんながショックを受けていたし、屋敷中の灯火が全て消えてしまったかのように暗かった。

(そう言えば、葬儀に来てくれた人っていたっけ……? 村の人たちが手伝ってくれたのは何となく覚えてるけど……)

 お母様の葬儀はとても慎ましく執り行われていた。親戚や分家の人たちすらいなかったと思う。

 もしかすると密葬だったのかな、とか考えている内に、私は空腹なのも忘れ、いつの間にか眠っていた。

 いつもは夕餉の支度に起こされていたけれど、お母様の遺言のことがあったからか、誰にも起こされることなく、久しぶりに……本当に久しぶりに、私はぐっすりと眠ることが出来たのだった。
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