紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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19 幽閉

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 遺産相続の手続きをするために、陰陽省からやって来た弁護士である西園寺さんは、約束していた時間に姿を現さなかったと、真央から聞いた私は愕然とする。

 私に親身になってくれた西園寺さんが協力してくれれば、私はようやくこの地獄から抜け出せる──そう信じたかったのに。

「……琴葉。もう少しだけ我慢して欲しいんだ。そうすれば、琴葉をここから出してあげるから」

 睨みつける私を宥めようというのか、怜央が私の目の前に来て、真剣な表情で言う。

 だけど、今の私は怜央を全く信用していない。と言うか、私を騙すようなことをして、ここに閉じ込めた張本人なのに、どうしてそんなことが言えるのか理解できない。

「うふふ……。ま、あんたはしばらく病気で寝込んでるってことにしておくから。ここでしばらく閉じ込められてなさい」

「そんな……!?」

「琴葉さんの成人までたった三日よ。それまで大人しくしてくれればいいの。それぐらい我慢できるでしょう?」

 真央と義母が、楽しそうに私を見て嘲笑う。

 ここに来た時、義母が成人するまでここに私を閉じ込める、と言っていたのは、ただの意地悪だと思っていた。
 だけど、真央の様子を見る限り、ただの意地悪ではないのかもしれない。

 そう言えば、怜央もやたらと私の成人にこだわっていたことを思い出す。

 私は、私が成人することに、何か意味があるのだろうか、と疑問に思う。

「琴葉、寂しいと思うけど、また様子を見に来るから。良い子で待ってるんだよ」

 帰り際、怜央が私にそう告げるけれど、私はもう怜央に対しては、ただただ嫌悪感しか湧いてこない。

 そうしてお父様たちが帰った後の座敷牢は、しん、と静まり返っていて、少し怖い。

 私は座敷牢の隅っこで、布団にくるまりながら、これまでのことを思い返す。

 ──どうして、西園寺さんは来てくれなかったのだろう?

 ──どうして、お父様はあんなに性格が変わってしまったんだろう?

 ──どうして、みんな口を揃えて私の成人を気にするのだろう?

 何もかもがわからないことだらけで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。あれだけ楽しみだった成人の日が、今は怖くて仕方がない。

(……あれ……? どうして私は、早く大人になりたかったんだろう……?)

 大人になれば幸せになれると、いつの間にか信じ込んでいた自分を不思議に思う。

 考え事をしている内に、だんだん眠くなってきた。
 こんな時に、と思うけれど、今日一日、握り飯意外食べていなかったから、身体に力が入らないことも原因しているのかもしれない。

 いつの間に眠っていたのか、私が物音で目を覚ました時にはもう、日が昇り始めていた。

「琴葉、起きたのかい? 朝餉を持ってきたよ」

 物音の主は怜央だったようで、料理を載せた御膳を使用人に運ばせて来た。

「…………」

 私は何も言わず、ただ怜央を睨みつけて警戒を強める。

「まだ怒ってるの? そんな目で睨まれても可愛いだけなんだけど」

 私は本気で怜央を嫌っているのに、何故か本人には全然伝わらない。全く逆の意味で解釈するから、本当に困る。

「ちなみに料理には何もしていないよ。だから安心して食べて?」

 今持ってきた料理には、握り飯の時のような細工をしていないと言うけれど、私はこのまま餓死したとしても、怜央の手から与えられる食べ物は絶対口にしないと心に決めた。

「…………」

「ほら、食べてごらん、大丈夫だから」

 怜央は何度も私に料理を食べるようにすすめてきたけれど、動こうとしない私に痺れを切らしたらしく、だんだんイライラし始めた。

「そうか、どうしても琴葉が食べないのなら、そうだなぁ……。僕の言うことを聞かない罰として、琴葉が可愛がっている犬を使用人に捕まえてこさせようか? きっと抵抗するだろうから、無傷ですまないと思うけど」

「──なっ?!」

 私は怜央が大豆と小豆のことを知っていることに驚いた。
 誰にも、使用人たちにも気付かれないようにしていたのに……!

「ははっ、もしかしてバレていないと思ってたの? いつも琴葉を見ていた僕が、知らないわけ無いのにね」

「っ、だ……犬には手を出さないで……っ、お願い……っ!!」

 私は必死になって怜央に頼み込んだ。大豆と小豆が怜央に捕まったら……と思うと恐怖しか無い。

「へぇ、そんなにあの犬が大事なんだ。妬けるなあ……」

「……お願い、します……っ、どうか犬たちには、何もしないで下さい……っ!」

 私は頭を畳にこすりつけて懇願した。
 そんな私の態度に、怜央はようやく満足したのか、ふっと表情を緩めた気配がする。

「じゃあ、僕の言うことを聞いて、ちゃんと食事すること。いい?」

「はい、わかりました……」

 結局、私のささやかな抵抗はあっさりと阻止されてしまった。

 そうして、私が従順になったからか、怜央は事あるごとに座敷牢にやって来た。

「今日も西園寺殿は来なかったようだね。もしかするともう二度とここには来ないかもしれないよ。琴葉を見放しちゃったのかもね。やっぱり琴葉のことを一番に考えているのは僕だけだね」

 そして、傷付くと知っていながら冷たく言い放つのだ──私が少しの希望も抱かないように。

 そんなことが続き、座敷牢に閉じ込められてから二日が経過した。

 ──とうとう明日は、私が成人する日だ。
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