紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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20 逃走

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 ──遂にこの日が来てしまった。

 今日は私が生まれた日で、成人する日でもあった。

 冷たい座敷牢で成人する日を迎えてしまったけれど、本当に私は今日ここから出られるのだろうか、と不安になる。

 私は相変わらず座敷牢の隅っこで、じっと周りの様子を窺っていた。

 傍から見たら、私は家族に裏切られ悲しみに暮れているように見えると思う。だけど実際は座敷牢に閉じ込められてからずっと、ここから抜け出せる方法がないか探っていたのだ。
 壁の上部に窓はあるけれど、格子が入っているし高い場所にあるから、窓から脱出するのは不可能だと思う。

 ──ならば、脱出するならやっぱり……。

 頭の中で考え事をしていると、入口があるらしき方向から、扉を開ける音が聞こえてきた。きっと、朝餉を持って来た怜央と使用人だろう。

「琴葉おはよう。とうとう成人する日だね。今日をどれだけ待ちわびたか……本当に嬉しいよ」

 怜央は私より私の成人を喜んでいた。実際、とても機嫌が良さそうだ。

「……怜央様、今日は私をここから出してくれるんですよね?」

 機嫌が良い今なら、座敷牢から出してくれるかもしれない、と少しだけ期待してしまう。

「そうだな……ただ今日は忙しくなるだろうから、晩に迎えに来るよ。寂しいだろうけど、もう少しだけ我慢して欲しい」

 今すぐは無理みたいだけど、夜には出してもらえるようだった。

 一体何が忙しいのか、怜央はそう言うとすぐに部屋から出て行った。いつもは私が朝餉を食べるのを眺めているのに珍しい。
 正直、怜央がいると気が休まらないから、いなくなってくれて助かったけれど。

(怜央がしばらく来ないなら、今のうちに逃げたほうが良いよね……)

 私は朝餉を食べながら、脱出する段取りを考えていた。

 私が朝餉を食べ終わる頃、使用人が御膳を回収しにやって来る。その時牢の鍵が外れるから、逃げるには良い機会なのだ。

 朝餉を食べ終わったってからしばらくすると、いつも通りに使用人が御膳を取りにやってきた。

 怜央に喋るなとでも命令されているのか、使用人は一口も聞かず御膳を持つと、牢から出るため私に背を向けた。

 ──今だっ!!

 私は使用人が背中を向けたタイミングで、使用人の着物をぐいっと掴むと、思いっきり引っ張った。

「うわぁっ!!」

 私に引っ張られた使用人はバランスを崩し、御膳と一緒にひっくり返る。

 私はその隙に、開いてる格子に向かって走り、格子を閉めると鍵をガチッと締めた。

「なっ?! お嬢!! 何するんだいっ!! ここを開けなっ!!」

 従順で大人しい私がこんなことをするとは思わなかったのだろう、使用人が怒りの形相で格子を叩く。
 油断させるために従順なふりをしていたのが項を成したようだ。

「ごめんなさいっ!」

 私はペコリと頭を下げると、叫んでいる使用人が脱いだ草履を履いて部屋の外へ出た。

(ここは……何処だろう……?)

 外に出てみると、木が鬱蒼と生い茂っている場所に出た。
 座敷牢の存在を知らなかったこともあり、今自分が何処にいるのか全くわからない。

 だけど食事を運んで来れるなら、屋敷からそう遠くはないはずだ。

 私は他の使用人に見付からないように、気を付けながら林の中を走った。

(とにかく屋敷から出て、帝都に向かって……西園寺さんに会わなきゃ……!)

 王都に向かおうと思ったら、かなりの距離を歩かなきゃいけない。
 着の身着のまま帝都に向かうのは無謀だから、必要最低限のものを準備して帝都を目指したいけれど……。

 きっと屋敷に戻ったらすぐ見付かってしまうと思う。それにお金が無いから途中で揃えることも出来ない。

(どうしよう……。やっぱりこのまま歩いていくしか無いのかな……?)

 座敷牢から抜け出すことばっかり考えていたから、抜け出した後のことをちゃんと計画していなかった自分を情けなく思う。

(──あ。そうだ、もしかしてあそこなら……)

 私はふと、夜見ノ森にある別邸のことを思い出した。

 時々お母様と一緒に過ごした小さい家だけれど、最低限の生活が出来るように整えられていたと思う。

(よし、行ってみよう! もしかしたらお母様の着替えが置いているかも)

 屋敷の周りをウロウロするよりは別邸で息を潜め、夜になってから出発したら怜央に見付からないかもしれない。

 私は太陽の位置から方角を割り出して、夜見ノ森へ向かうことにした。

 屋敷の裏は雑木林で、そこから夜見ノ森へ行くことが出来るはず。

 多種多様な広葉樹が生えている林の中を、茂みや藪を掻き分けて、かすかに残った踏み跡を辿りながら進んでいく。

 蛇や蜂と出くわさないように気を付けながら進んでいると、懐かしい、見覚えがある小さな家を見付けることが出来た。

 その家は、お母様と一緒に訪れた時と変わらず、森の中に佇んでいる。

 もしかすると知らない誰かが家を荒らしているかもしれない、と心配していたけれど、そんな形跡は無いようだ。

 家の鍵を隠している場所を思い出し、鍵を手に入れて家の中に入ると、長い間使っていないからか、空気が籠もっていた。
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