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外堀が埋まっていく
謁見
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エマとアーサーは王城からの迎えの車に乗ると、昨夜の婚約発表からヨーク家の正門前で待機するマスコミを振り切って、ほどなくして無事に着いた
アーサーが恭しくエマをエスコートする
正装した二人が歩くと、まるで王子様と王女様のように見える
すれ違う者達が皆振り返って見ていた
二人は暫く控えの間で待たされた後、国王の待つ謁見の間に案内された
「アーサー・ド・ヨーク公爵閣下、お着きでございます」
二人は静かに中に入り、国王の前に進んで膝をつき畏まった。エマはカテーシーで控える
「久しぶりじゃな、アーサー。あれ以来か?」
「我が君におかれましては本日もご機嫌麗しゅう。このアーサー、陛下のご尊顔を拝し事、恐悦至極にございます」
「うむ。して、アーサー、そちらの淑女はどなたかな?」
「これに控えますは、我が妻となる予定の者にございます」
「おお!其方がソフィアの孫か!早う、早う、顔を見せておくれ」
エマが顔を上げると、その場にいた全ての者が息をのんだ
「お久しぶりでございます、国王陛下。アトランティス共和国大統領、ラファエル・ベイリーが娘、エマにございます」
エマは再度優雅にカテーシーをして挨拶をした
「おお、おお、これは噂以上の美しさじゃ。アーサー、ほんによかったのう。これで儂も安心じゃ」
「昨日は実家の方へお祝いの品を頂きまして、ありがとうございました。父からも陛下へお礼をと言付かって参りました」
「ちと早いかと思うたんじゃが、喜んでもらえてなによりじゃ」
「ところで陛下。昨日のうちにマスコミに我らの婚約の情報が流れたと聞きましたが、あれは陛下からお伝えになられたのですか?」
「うむ、少しでも早くエマ嬢の憂いを晴らしたくてのう。善は急げというではないか」
ーー まさかの王様発かよ。いたらん気をまわさんで欲しいわぁ!これで完全に詰んだよ。わははーー
思わずアーサーと顔を見合わせてしまった
そこへ国王の孫の王子が現れる。歳の頃は20代後半から30代前半に見えるが、顔はアーサーの方が間違いなくイケメンだ
「お爺様、今日は素敵な女性が来ていると聞いてきたのですが、彼女ですか?」
そしてエマの顔を食い入るように見つめていた王子の顔が赤く染まった
「お爺様、彼女を私の側室に即召し上げたいのですが、ダメですか?」
「すまんのう、チャールズ。彼女はアーサーの婚約者じゃ」
「婚約だけなら解消すればいいだけのことではありませぬか。手続きは私の方でやりますから問題はありません」
「チャールズ、早まるな!この婚約は既にマスコミにて発表されておる。今更撤回などできん」
「そんなもの、お爺様が訂正すれば良いではないですか」
「それがのう。マスコミに情報を流したのは儂なんじゃ。それをまた、儂が訂正するなど自分の無能を宣言するようなもの。よって、お断りじゃ。それにチャールズには、既に素晴らしい正妻がおるではないか!」
「だから、側室にと言っているのです。おい、そこな娘!婚約と結婚は許す。しかし即離婚して我が側室にあがれ。この私がもらってやる」
「恐れながら、我が妻になるものへの侮辱はいくら王子と言えど、ゆるせません。我がヨーク家を侮辱していると捉えてもよろしいか」
アーサーも一歩も引く気は無いようだ
「公爵ごときが生意気な!我が成敗してくれる!そこへなおれ!」
「僭越ながら申し上げます。チャールズ様、私はまだ、貴方様の口から、ご自分の名前を伺っておりません。また、貴方様から私の名前を聞かれてもおりません。このような無作法な方に側室と言えど嫁ぐなど、真っ平御免でございます」
「な、な、な、生意気な!女のくせに」
「因みに、我が家もここの王室とは少なからず縁がある者。側室の話を強引に進めるのなら、フランツ王国とアトランティス共和国を敵に回すと覚えておいて下さいませ」
エマも目一杯怒っている
「これ!!やめんか!このことがソフィアにバレたら、儂は殺される!チャールズ、お前もだぞ!」
「何をそんなに慌てておいでなのです?お爺様は国王なのですから、何も怖がる必要はないじゃないですか」
「お前はソフィアを知らんからそんな呑気なことを言うておられるんじゃ。ソフィアが怒ったが最後、手がつけられなくなるんじゃから。思い出しただけで、背筋が凍るわい」
「お爺様が恐れるソフィアとは誰ですか?」
「馬鹿者!ソフィアはフランツの前代の王妃で、儂の妹じゃ。いくら王子といえど、ソフィアに対し不敬であるぞ!」
「ふん!ここにいない者の事をなんて言おうと構わぬこと。お爺様はどこまで臆病なのか。もう、いっそのこと隠居なされたら如何ですか?」
すると、そこに凛とした女性の声が響く
「国王に隠居せよと申すか!このうつけ者が!影に隠れて聞いておればぬけぬけと、ここにいない者の事を何て言おうと構わぬとな?おまけに、我が孫の結婚にケチをつけるとは許さんぞよ。ふん!サプライズで孫のお祝いに駆けつけてみれば、この有様か。ほんにリンドールも落ちたものよのう。其方、名はなんと申すか。」
そう言いながら、その美しい女性はゆっくりと近づいて来る
年の頃は50代だろうが、それでも往時の美しかった頃の片鱗を伺うことができるほど、若々しく美しかった
「お前こそ誰だ!私のことを尊称なしで呼ぶとは!無礼であろう!」
チャールズは今にも掴みかからんばかりの勢いである
対する女性の方は、随分と余裕のある不遜な言い回しをしてはチャールズを煽っている
「私の名前が聞きたいか?それを聞いたが最後、其方は終わりぞ。それでも良ければ教えてやらんこともないが…。我が名はソフィア。第26代リンドール国王レオンの第一王女。そしてフランツ王国の前の王妃だ。その私に向かって若造ごときが"お前"呼ばわりするとは何事か。そこへなおれ!」
ソフィアが手に持っていた扇子でチャールズの頭を思いっきり叩いた
バシーン!
扇子が折れたかもしれない
チャールズは言葉も出ないようだった
「くそ!くそぉ!」
今にもチャールズの歯ぎしりが聞こえてきそうだ。拳に力を入れて堪えているらしく、怒りでわなわな震えているのがわかる
そのチャールズの周りを扇で口元を隠したソフィアが、弧を描いてゆっくりと歩いている
同時にゆったりと話しているのが、余計にその怖さを引き立てている
「クスクス…。何か言いたいことがあれば言えばよいではないか。黙っていたのではわからんぞよ。さっきまで、あれ程熱弁しておったのは誰じゃ。のう、チャールズ」
迂闊に話せないからか、アーサーも黙って見ている
「ほんにいつのまにリンドールの男は無口になってしもうたのか。情けないことよ。さて、言われっぱなしでよいのかえ?リンドール国王よ。此奴から臆病者呼ばわりされても、知らぬふりか?つまらんのう。それでは私が暫く此奴をフランツにつれて帰るゆえ、承諾してたもれ、国王よ」
「えっ?ソフィア、其奴をどうするのじゃ?」
「もちろん、この私が直々に此奴の性根を叩きなおすに決まっておろう?おーほほほほ」
ーー わぁ~~、お祖母様、まるで魔王降臨だよ~!お祖母様が怒ったところ、初めて見たよ~。怖いよぉ~。もう絶対にお祖母様を怒らせちゃダメだぁ。結婚も、はい!もう決まり!逆らいませんから、大人しくフランツに帰って? ーー
隣で見ていたアーサーも顔が引きつっている
「陛下、此奴にご裁定をしてくださいましな」
ソフィアが国王に向き直り、優雅に微笑んだ。国王はそれを見て慌てて我にかえったようだった
「そ、そうだな。チャ、チャールズはソフィアがフランツに帰るまで、自室で謹慎。外出は許さん。連れて行け。ソフィア、これでよいか?」
「まぁ、国王ともあろうお方が、そのようにアタフタなさって見苦しいこと。しっかりなさいませ」
満足したのか、ソフィアの嵐のような登場劇に立ち尽くすエマを見るなり、破顔する
「エマちゃん!会いたかったわ!結婚おめでとう!」
というなり、ソフィアはエマに突撃し抱きついた。エマはその突撃をなんとか持ちこたえる
「お、お祖母様、お元気そうでなによりです。この度はお祝いを頂きましてありがとうございました」
「もう!全然フランツに来てくれないじゃない!留学だってリンドールじゃなくフランツにすればよかったのに!そしたら離宮から通えるのに!」
ソフィアがエマの留学時の不満をつらつらと並べ始める。そして側に控えてそれを見ているアーサーに気づくと、優雅に微笑んだ
「あなたがヨーク卿ね。ヨーク家の男は嫁一筋だと聞いているが誠か?」
「はい。家訓により決められておりますので。私もそれに従うのみでございます」
「其方の気持ちはどうなのじゃ」
「はい。私はエマ嬢を愛しております。この命をかけても良いほどに」
「信じてよいのじゃな?私の可愛い孫を頼んだぞ」
「はい。お任せください。この命のある限り彼女を愛します」
ーー わぉ!歯が浮くかと思うほど激甘な言葉をはいてくれちゃったよ。まぁ、嫌じゃないけど…ーー
アーサーが宣言したこの時から、二人の結婚へ向けての狂騒曲が始まった
アーサーが恭しくエマをエスコートする
正装した二人が歩くと、まるで王子様と王女様のように見える
すれ違う者達が皆振り返って見ていた
二人は暫く控えの間で待たされた後、国王の待つ謁見の間に案内された
「アーサー・ド・ヨーク公爵閣下、お着きでございます」
二人は静かに中に入り、国王の前に進んで膝をつき畏まった。エマはカテーシーで控える
「久しぶりじゃな、アーサー。あれ以来か?」
「我が君におかれましては本日もご機嫌麗しゅう。このアーサー、陛下のご尊顔を拝し事、恐悦至極にございます」
「うむ。して、アーサー、そちらの淑女はどなたかな?」
「これに控えますは、我が妻となる予定の者にございます」
「おお!其方がソフィアの孫か!早う、早う、顔を見せておくれ」
エマが顔を上げると、その場にいた全ての者が息をのんだ
「お久しぶりでございます、国王陛下。アトランティス共和国大統領、ラファエル・ベイリーが娘、エマにございます」
エマは再度優雅にカテーシーをして挨拶をした
「おお、おお、これは噂以上の美しさじゃ。アーサー、ほんによかったのう。これで儂も安心じゃ」
「昨日は実家の方へお祝いの品を頂きまして、ありがとうございました。父からも陛下へお礼をと言付かって参りました」
「ちと早いかと思うたんじゃが、喜んでもらえてなによりじゃ」
「ところで陛下。昨日のうちにマスコミに我らの婚約の情報が流れたと聞きましたが、あれは陛下からお伝えになられたのですか?」
「うむ、少しでも早くエマ嬢の憂いを晴らしたくてのう。善は急げというではないか」
ーー まさかの王様発かよ。いたらん気をまわさんで欲しいわぁ!これで完全に詰んだよ。わははーー
思わずアーサーと顔を見合わせてしまった
そこへ国王の孫の王子が現れる。歳の頃は20代後半から30代前半に見えるが、顔はアーサーの方が間違いなくイケメンだ
「お爺様、今日は素敵な女性が来ていると聞いてきたのですが、彼女ですか?」
そしてエマの顔を食い入るように見つめていた王子の顔が赤く染まった
「お爺様、彼女を私の側室に即召し上げたいのですが、ダメですか?」
「すまんのう、チャールズ。彼女はアーサーの婚約者じゃ」
「婚約だけなら解消すればいいだけのことではありませぬか。手続きは私の方でやりますから問題はありません」
「チャールズ、早まるな!この婚約は既にマスコミにて発表されておる。今更撤回などできん」
「そんなもの、お爺様が訂正すれば良いではないですか」
「それがのう。マスコミに情報を流したのは儂なんじゃ。それをまた、儂が訂正するなど自分の無能を宣言するようなもの。よって、お断りじゃ。それにチャールズには、既に素晴らしい正妻がおるではないか!」
「だから、側室にと言っているのです。おい、そこな娘!婚約と結婚は許す。しかし即離婚して我が側室にあがれ。この私がもらってやる」
「恐れながら、我が妻になるものへの侮辱はいくら王子と言えど、ゆるせません。我がヨーク家を侮辱していると捉えてもよろしいか」
アーサーも一歩も引く気は無いようだ
「公爵ごときが生意気な!我が成敗してくれる!そこへなおれ!」
「僭越ながら申し上げます。チャールズ様、私はまだ、貴方様の口から、ご自分の名前を伺っておりません。また、貴方様から私の名前を聞かれてもおりません。このような無作法な方に側室と言えど嫁ぐなど、真っ平御免でございます」
「な、な、な、生意気な!女のくせに」
「因みに、我が家もここの王室とは少なからず縁がある者。側室の話を強引に進めるのなら、フランツ王国とアトランティス共和国を敵に回すと覚えておいて下さいませ」
エマも目一杯怒っている
「これ!!やめんか!このことがソフィアにバレたら、儂は殺される!チャールズ、お前もだぞ!」
「何をそんなに慌てておいでなのです?お爺様は国王なのですから、何も怖がる必要はないじゃないですか」
「お前はソフィアを知らんからそんな呑気なことを言うておられるんじゃ。ソフィアが怒ったが最後、手がつけられなくなるんじゃから。思い出しただけで、背筋が凍るわい」
「お爺様が恐れるソフィアとは誰ですか?」
「馬鹿者!ソフィアはフランツの前代の王妃で、儂の妹じゃ。いくら王子といえど、ソフィアに対し不敬であるぞ!」
「ふん!ここにいない者の事をなんて言おうと構わぬこと。お爺様はどこまで臆病なのか。もう、いっそのこと隠居なされたら如何ですか?」
すると、そこに凛とした女性の声が響く
「国王に隠居せよと申すか!このうつけ者が!影に隠れて聞いておればぬけぬけと、ここにいない者の事を何て言おうと構わぬとな?おまけに、我が孫の結婚にケチをつけるとは許さんぞよ。ふん!サプライズで孫のお祝いに駆けつけてみれば、この有様か。ほんにリンドールも落ちたものよのう。其方、名はなんと申すか。」
そう言いながら、その美しい女性はゆっくりと近づいて来る
年の頃は50代だろうが、それでも往時の美しかった頃の片鱗を伺うことができるほど、若々しく美しかった
「お前こそ誰だ!私のことを尊称なしで呼ぶとは!無礼であろう!」
チャールズは今にも掴みかからんばかりの勢いである
対する女性の方は、随分と余裕のある不遜な言い回しをしてはチャールズを煽っている
「私の名前が聞きたいか?それを聞いたが最後、其方は終わりぞ。それでも良ければ教えてやらんこともないが…。我が名はソフィア。第26代リンドール国王レオンの第一王女。そしてフランツ王国の前の王妃だ。その私に向かって若造ごときが"お前"呼ばわりするとは何事か。そこへなおれ!」
ソフィアが手に持っていた扇子でチャールズの頭を思いっきり叩いた
バシーン!
扇子が折れたかもしれない
チャールズは言葉も出ないようだった
「くそ!くそぉ!」
今にもチャールズの歯ぎしりが聞こえてきそうだ。拳に力を入れて堪えているらしく、怒りでわなわな震えているのがわかる
そのチャールズの周りを扇で口元を隠したソフィアが、弧を描いてゆっくりと歩いている
同時にゆったりと話しているのが、余計にその怖さを引き立てている
「クスクス…。何か言いたいことがあれば言えばよいではないか。黙っていたのではわからんぞよ。さっきまで、あれ程熱弁しておったのは誰じゃ。のう、チャールズ」
迂闊に話せないからか、アーサーも黙って見ている
「ほんにいつのまにリンドールの男は無口になってしもうたのか。情けないことよ。さて、言われっぱなしでよいのかえ?リンドール国王よ。此奴から臆病者呼ばわりされても、知らぬふりか?つまらんのう。それでは私が暫く此奴をフランツにつれて帰るゆえ、承諾してたもれ、国王よ」
「えっ?ソフィア、其奴をどうするのじゃ?」
「もちろん、この私が直々に此奴の性根を叩きなおすに決まっておろう?おーほほほほ」
ーー わぁ~~、お祖母様、まるで魔王降臨だよ~!お祖母様が怒ったところ、初めて見たよ~。怖いよぉ~。もう絶対にお祖母様を怒らせちゃダメだぁ。結婚も、はい!もう決まり!逆らいませんから、大人しくフランツに帰って? ーー
隣で見ていたアーサーも顔が引きつっている
「陛下、此奴にご裁定をしてくださいましな」
ソフィアが国王に向き直り、優雅に微笑んだ。国王はそれを見て慌てて我にかえったようだった
「そ、そうだな。チャ、チャールズはソフィアがフランツに帰るまで、自室で謹慎。外出は許さん。連れて行け。ソフィア、これでよいか?」
「まぁ、国王ともあろうお方が、そのようにアタフタなさって見苦しいこと。しっかりなさいませ」
満足したのか、ソフィアの嵐のような登場劇に立ち尽くすエマを見るなり、破顔する
「エマちゃん!会いたかったわ!結婚おめでとう!」
というなり、ソフィアはエマに突撃し抱きついた。エマはその突撃をなんとか持ちこたえる
「お、お祖母様、お元気そうでなによりです。この度はお祝いを頂きましてありがとうございました」
「もう!全然フランツに来てくれないじゃない!留学だってリンドールじゃなくフランツにすればよかったのに!そしたら離宮から通えるのに!」
ソフィアがエマの留学時の不満をつらつらと並べ始める。そして側に控えてそれを見ているアーサーに気づくと、優雅に微笑んだ
「あなたがヨーク卿ね。ヨーク家の男は嫁一筋だと聞いているが誠か?」
「はい。家訓により決められておりますので。私もそれに従うのみでございます」
「其方の気持ちはどうなのじゃ」
「はい。私はエマ嬢を愛しております。この命をかけても良いほどに」
「信じてよいのじゃな?私の可愛い孫を頼んだぞ」
「はい。お任せください。この命のある限り彼女を愛します」
ーー わぉ!歯が浮くかと思うほど激甘な言葉をはいてくれちゃったよ。まぁ、嫌じゃないけど…ーー
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