聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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聖女を追放した国の物語

第28話 聖女十字軍 A

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 ピレンゾルにいた頃――

 故郷の田舎で燻っていた俺は、両親が持ってきた兵士募集のチラシを見て、即座に入隊を決めた。

 なんでも聖女ローゼリア様が、兵士を集めているらしい。

 兵士の給料は安かったが、俺が欲しいのは金じゃない。
 俺が求めていたもの、それは名誉と名声だ。

 田舎の村でどれだけ真面目に働いていも、俺の存在を知っている人間なんて数えるほどしかいない。ごく一握りだ。



 いつか都会に出て、一旗揚げたい。
 なにかデカい事をしたいと考えていたところに、兵士募集の知らせが舞い込んできた。
 
 これはきっと、運命だ。

 この村では、たまに出てくる魔物は皆で退治している。
 俺も三年前から討伐に参加して、経験を積んでいる。
 
 自分で言うのもなんだが、俺には戦いの才能がある。
 軍隊に入って二、三か月も訓練すれば、すぐに一人前になれるだろう。


 聖女様の軍に入って活躍して、功績を立てて――

 この俺の存在を、世の中に知らしめてやるんだ。


 そう決意した俺は――
 生まれてから今までの、十八年を過ごした故郷を後にした。







「――また出てきたッ!」
「に、逃げろッ!!」

 
 栄光の聖女十字軍に加わり異国の地に来た俺達は、初めての戦闘で全身を黒い鎧で覆った悪魔の化身と戦っている。

「う、うわぁぁっぁああああああ!!!!」


 戦っているというか、一方的に虐殺されている。

 そいつは気性の荒い獰猛な軍馬を操り、片腕で槍を振り回している。
 全身を鎧で包んだ重さが優に百キロを超える人間を、軽々と弾き飛ばしている。


 ――嘘だろ。
 初めてそれを見た時は、誰もがそう思った。



 騎馬で城外に出てくる敵がいるのであれば、迎撃する為の武器がいる。
 槍が部隊に支給された。

 しかし、俺たちの攻撃など、奴の右手で持った剣で軽く払われてしまう。
 片腕で剣を振り回して、そんなことが出来る奴に初めて会った。


 ピレンゾル軍の正規兵で組織された精鋭部隊が、槍衾を構築し迎撃を試みたが――
 後ろに回り込まれて、背後から襲われ陣形が崩壊してしまう。

 後ろに回り込んだ敵に対して、槍衾を再構築する時間などあの悪魔はくれはしない。こちらが向きを変えて対応する前に、悪魔の牙は精鋭部隊を屠る。





 問題は、敵が一騎だということだ。

 敵が複数であれば――
 集団行動には規律が必要になり、行動に時間もかかる。

 もしくはこちらが少数なら、個別に対応すればいいが――
 密集して陣形を組んだ集団が、敵の動きに合わせて、自分勝手に槍の向きを変えれば大惨事になる。
 かといって個人であの悪魔に対抗できる強者など、聖女十字軍にはいない。
 

 一人で千の軍隊を相手にすることが出来るなんて、反則ではないか――
 そんな奴が、縦横無尽に戦場を駆け回っているのだ。

 俺達には、どうしようもない。
 



 悪魔がひとしきり暴れまわった後は、敵の騎馬隊が現れる。
 これもいつも通りだ。

 俺の友達も騎馬隊の突撃で、身体を槍で貫かれて戦死した。
 聖女十字軍に入ってから、仲良くなった奴だった。

 死んでしまえば、聖女様の奇跡『聖女の癒し』を以てしても復活は出来ない。

 


 攻城戦では、何度も死にかけた。

 ある時は敵の矢が俺の腕と太ももを貫き、ある時は上りかけの梯子を外されて落下し、ある時は落石が頭を直撃して気を失った。

 熱湯をかけられて、のた打ち回ったこともあったか――




 どれだけ傷を負って死にかけても、聖女様の癒しの奇跡で、嘘のように元通りの状態に回復することが出来る。

 だが――
 傷を負った時の痛みの記憶や、死にかけた恐怖が無くなるわけではない。

 何度死ぬような目に遭っても、また戦場で戦わなければならない。
 大怪我を負って死にかけた戦場に、戻らなければならない。

 あの悪魔が現れる戦場に――

 俺はまだ生きてはいるが、あの悪魔に殺されるのは時間の問題のような気がする。

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