私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり

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ズレた正義感

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ルーカス王子は、私の反応などお構いなしに熱っぽく語り始めました。

「聞いたよ。アルベルトが廃嫡され、辺境の開拓村に送られたと! なんて酷い仕打ちだ! 彼は僕の幼馴染で、昔から純粋で優しい男だったんだぞ!」

アルベルト様のことをそんな風に言うなんて、この人はしか知らないのでしょう。

「あの、ルーカス殿下」 

私が言おうとしたらキース様が私の前に立ちふさがり、不機嫌そうに言いました。 

「事情をご存知ないようですが、アルベルト元王子は、ロゼリアを裏切り、傷つけ、国に損害を与えたんです。自業自得ですよ」

「ノンノンノン!」

ルーカス王子は、チッチッと人差し指を振りました。アルベルト様に似て、どうも知恵が足りないように感じられます。



「事情なら聞いているさ! 悪いのは、ミナとかいう女だろう? 彼女が怪しい魔法を使ったから、純粋なアルベルトは騙されたんだ! つまり、アルベルトも被害者じゃないか!」

彼は両手を広げて空を仰ぎました。

「被害者なのに罰を受けるなんて、正義に反する! ロゼリア嬢、君もそう思うだろ? 長年連れ添った婚約者じゃないか。魔法で操られていた彼を見捨てるなんてよくないよ! 君はもっと慈悲深い女性のはずだ!」

……あぁ。頭が痛くなってきました。一番厄介なタイプです。

彼は「自分が正しい!」と微塵も疑っていないのです。悪気がない。だからこそ、こちらの言葉が届かない。

「ルーカス殿下」 

私は深呼吸をして、冷静に言葉を返しました。



「お言葉ですが、アルベルト様が罰を受けたのは、魔法にかかったからではありません。魔法にかかる前から私を蔑ろにし、自分の意志で安易な道を選んだ『心の弱さ』が罪とされたのです。これは国王陛下が下された正式な裁定ですわ」

「陛下だって間違うことはあるさ!」 

ルーカス王子は爽やかに言い放ちました。

「実は昨日、君の国の国王陛下に会いに行ったんだ。『アルベルトを呼び戻しましょう!』ってね」

「へっ!?」 

私とキース様は絶句しました。他国の王子が、いきなり国王に文句を言いに行ったのですか?

「そしたら陛下は、『頭が痛いから帰ってくれ』と仰っていたよ。きっと、息子を失った悲しみで憔悴しているんだね……かわいそうに」

いいえ、違います。 十中八九、陛下はあなたの相手をするのが面倒くさかっただけです!



「だからロゼリア嬢、君の出番だ! 君が『アルベルト様を許します』と言えば、陛下も彼を呼び戻しやすくなる! さあ、僕と一緒に辺境の村へ迎えに行こう! 感動の再会だ!」

彼は私の手を取ろうとしました。

 バシッ!  キース様が、その手を乱暴に払いのけました。

「……いい加減にしろ」  

キース様の声は、とても低くて怒っているのがはっきりわかりました。

「ロゼリアがどれだけ苦しんだか、知りもしないくせに……二度と彼女に触るな」

「おや、怖いねぇ騎士ナイト君」  

ルーカス王子は余裕の笑みを崩しません。 



「でも、暴力では心は動かせないよ? 僕は諦めないからね。正義は必ず勝つんだ!」

彼はマントをひるがえすと、キラキラした粉を撒き散らしながら校舎へと消えていきました。残された私たちは、ドッと疲れが出ました。

「……キース様。面倒なことになりましたわ」 

「ああ。まさか、こんな『おせっかい男』が現れるとはな」

しかし、ルーカス王子の本当の恐ろしさはここからでした。彼は自分の顔と人気を最大限に利用し始めたのです。



昼休み。食堂でランチを食べていると一年生の女子生徒たちが、おずおずと私たちのテーブルにやってきました。

「あのぅ……ロゼリア様」 

「はい、なんでしょう?」

彼女たちは、モジモジしながら言いました。

「その……アルベルト王子のこと、許してあげないんですか?」

「えっ?」

「ルーカス様が言ってたんです。『アルベルトは純粋すぎただけなんだ。彼をずっと独りぼっちにするなんて、あまりにも可哀想だ』って……」 

「私たちも、そう思うんです」

「ロゼリア様は優しい方だって聞いてたから……」

彼女たちの目には、私を非難しているような気持ちが見えます。
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