私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり

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隣国の王子

王立学園の朝。校門へと続く桜並木の下を、私とキース様は並んで歩いていました。風がピンク色の花びらを運び、キース様の紺色のブレザーにふわりと落ちました。

「あ、キース。肩に花びらが」 

「ん? ああ、ありがとうロゼリア」

私が自然に手を伸ばして花びらを取ると、周りから「キャーッ!」という黄色い悲鳴が上がりました。



「見て見て! ロゼリア様よ!」 

「キース様も素敵ぃ! 憧れちゃうわぁ~!」

「なんて絵になるお二人なのかしら……」

「悪を倒した伝説のカップルよね」

「私、お二人に憧れてこの学園に入ったの!」

今年入学してきたばかりの一年生たちです。彼女たちは目を輝かせて私たちを遠巻きに見つめています。

あの断罪の夜会から一ヶ月。アルベルト元王子とミナがいなくなったことで学園には平和が戻り、私たちはすっかりのような扱いになっていました。



「……なんだか、動物園の珍しい獣になった気分だな」 

キース様が苦笑いしながら小声で言いました。

「ふふっ。でも、嫌な視線ではありませんわ。みんな笑顔ですもの」 

私が微笑むと、キース様は優しく私の手を取りました。

「そうだな。俺も君の笑顔を見れて幸せだ」

またサラリと甘いことを言うキース様。私も少し照れくさそうに笑います。 

これが、私たちの新しい日常。意地悪なライバルも、わがままな婚約者もいない。幸せだけど、ちょっぴり恥ずかしい毎日。

(これからは、キースと穏やかな青春を送れますね)

そう思っていたのですが、平和というのは唐突に破られるもののようです。



学園の正門が、まるで爆発したかのような騒ぎに包まれました。

「キャアアアアアッ!!」

「うっそ、本物!? 顔ちっさ!」 

「こっち向いてぇぇぇ!」

「やだ、目が合っちゃった!」

女子生徒たちの絶叫が響き渡ります。 

何事でしょうか?  私とキース様が顔を見合わせていると、人混みが海のように割れて中心から『とてつもなく輝く人物』が歩いてきました。



サラサラと流れる黄金の髪。宝石のアクアマリンのような水色の瞳。背中には白いマントを羽織り、歩くたびにバラの花の香りをまき散らすような異次元の美男子。

「やあ、美しいお嬢さんたち。朝の挨拶をしてくれてありがとう。君たちの笑顔は、朝露に濡れたバラより素敵だよ」

彼がウインクを一つ飛ばすと、バタバタと女子たちが気絶するように倒れていきました。

どんな魔法でしょうか? 彼はその惨状を気にする様子もなく、キョロキョロと見回し始めました。

そして私を見つけた瞬間、彼の目がバチッ! と見開かれました。



「お……おおおっ!」

彼は風のように私に駆け寄ってきました。少し怖さを感じます。

「見つけたぞ!!」

彼は私の前で立ち止まり、悲劇のヒーローのような切ない顔で私を見つめました。

(え? なに?)

「ロゼリア・バレンシア嬢だね? 会いたかったよ」

「は、はい。わたくしですが……どちら様でしょうか?」

私が尋ねると、彼は大げさに胸に手を当てて名乗りました。



「僕はルーカス。隣国『ソルシエール』の第一王子にして、去年の『国宝級の美男子コンテスト』の優勝者だ!」

「はぁ……?」

「しかも、三年連続で優勝したんだぞ!」

「へぇ……そうなのですか?」

ルーカス王子。その名前は聞いたことがあります。隣の大国の王子様で、その美貌とカリスマ性で国民から絶大な人気を誇る人物。

(でも、どうしてそんな有名人が、わざわざこの学園に?)

「僕は今日、短期留学生としてここに来た。だが、本当の目的は別にある!」

ルーカス王子の瞳が、急に真剣な光を帯びました。彼はグッと私に顔を近づけ、信じられない言葉を口にしました。



「ロゼリア嬢。君を『説得』しに来たんだ」

「説得……?」

「ああ。僕の親友であるアルベルトを、許してやってほしい!」

「……はい?」

時が止まりました。周りの生徒たちも、ポカンとしています。

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