元虐げられた公爵令嬢は好きに生きている。

しずもり

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レンとリアの旅 〜過去編〜

リアと告白 2

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レン視点寄りの話になっています。


◇◇◇


さて、ここで件の若者について説明が必要だろう。

何しろ、アメリアが笑顔を向けた相手だ。レンにだって笑顔を向けることは稀だというのに、の返事を『いいよ』と笑顔で答えたのだから、顔見知り以上の相手だったのは当然である。

それは冒険者ギルド内に入り浸る冒険者たちの間の中で知らぬ者はいないほど。
寧ろ、その仲の良さ故にハラハラドキドキしながらも、微笑ましいと勝手に癒されていた節もある。イメージは飼い主に懐く茶色の大型犬であったが。


その若者は勇者、ではなく極々普通の駆け出しの冒険者であった。名をレインという。

レンとレイン。

よく似ている名だ。だが、アメリアがあまりにも『レイン、レイン』と連呼するので、レンから物言いが入った。

曰く、『紛らわしい』と。

まぁ、アメリアが笑顔で『レイン』と何度も呼ぶのが気に入らなかった、というのが誰の目にもそれはあきらかだった訳なのだが、勿論、アメリアは気付く事はない。ついでにレインも。

ここで察しの良い冒険者は気付いていた。そしてそれを羨ましくも思っていた。

レインよ。お前は鈍くていいなぁ。


それが彼の一世一代の告白によって起こったにも怯むことなく、いや、気付く事なく今もアメリアの返事に、小躍りしそうなぐらいに喜んでいられる理由だろう。


こっちは息するのも苦しいぐらいの威圧、それよりも恐ろしい禍々しい気に当てられいるというのに!!


話を元に戻すと、レンによって『紛らわしい』とイチャモンをつけられたアメリアは、レインの事をレニーと呼ぶようになった。


正直、そっちの方が不快に感じるのではないか?と誰もが思った訳で、レニーと呼ばれて嬉しそうに頬を染めるレインに、レンも微妙な表情を浮かべてはいた。

そうは言っても、レインがアメリアにレニーと呼ばれるきっかけを作ったのは他ならぬレンである。

ここでまたレンがごちゃごちゃと文句を言おうものならば、間違いなくアメリアの機嫌を損ねる。だってレンの言葉に従って呼び名を変えた訳なのだから。


それにアメリアがレインと仲良くなったきっかけは他でもないレンである。正確に言えばレンたちがこの街に来て、直ぐに向かった冒険者ギルドのギルド長のなのだが。

既に魔王と化しているレンの眉間に寄った深い皺に、人知れず慄いているギルド長はレンの昔の知り合いだった。

トニーという名のギルド長は、レンがまだC級冒険者の頃に知り合った冒険者だった。レンに言わせれば、ほんの少しだけ世話になった事のある、今はギルド長になったトニーに、レンは会うなり頼まれてしまったのだ。レインの世話を。


『この街に滞在している間だけでいいんだ。レインの指導担当者を引き受けてくれ!』


トニーはギルドにやって来たレンに直ぐに気が付いた。

昔、良くしてやったあのガキだ、と。


今もレンが本当は何者かを知らないトニーにとって、当時、冒険者ギルドにフラリとやって来るレンをちょっとばかし可愛がっていた。

この場合、文字通りの可愛がりで、トニーとしては可愛がっていたつもりだが、レンからすればウザ絡みしてくるオッサン冒険者程度にしか思っていなかったのだが、世話になったと言えなくもない。


トニーが言うには、レインは病弱な母とまだ幼い弟妹の為に十歳の頃から働いていた孝行息子なのだそうだ。因みに父親はレインの妹が生まれて直ぐに亡くなったらしい。


トニーは歳の割には背が高く、早くから力仕事をしていたお陰か腕っぷしもそれなりだった。

ある時、隣近所に住む家の農作業の手伝いをしていた際にボアが乱入して来た。皆が慌てて逃げる中、レインは棒切れ一つでボアを退治してしまったのだとか。


それを見た人々は口々に『並の冒険者よりも強いんじゃないか?』そう言いながらレインを褒めそやした。

冒険者。

それはレインが密かに憧れていた職業だった。だがレインには養うべき病弱な母と幼い弟妹たちがいる。

十歳そこそこで冒険者登録は出来るものの、冒険者の仕事とは子どもがそう簡単に稼げる仕事ではない。それに依頼によっては朝から晩まで、若しくは何日も家を留守にする場合もあるだろう。

いつかは冒険者になる。だけどそれは今じゃない。


レインは自分の想いを胸に秘めたまま、十八の歳まで一家の大黒柱として頑張った。そして漸く針仕事ぐらいなら出来るまでに回復した母と、まだまだ子どもだがしっかり者の弟妹に背を押されて念願の冒険者となった。冒険者登録したばかりの、なりたてホヤホヤの冒険者だ。

そして初級者講習を受ける段階になって現れたのが、レンだったのだ。

トニーは小さな頃から健気に一家を支えるレインにいたく同情していた。可愛がってもいた。だがそれだけじゃない。元冒険者としてレインには冒険者としての才能があると思っていた。

たかが初級者講習。誰が指導者になっても大差が無いように思うが、されど初級者講習である。所謂、初めが肝心、というやつだ。

この苦労人の、前途ある若者のレインが上級冒険者になるのは間違いないだろう。悪くてもB級以上には絶対になる。
だが、レインにはもっと上を目指して欲しい!それを目指せる才能があるはずなのだから。


トニーがギルド長としての立場以上にレインに肩入れしている自覚はある。だがそれはレインを知るこの街の多くの冒険者たちもそうであった。頑張り屋のレインは、冒険者たちの息子のようであり、弟分のような存在だったのだ。


レインの指導者を誰にするかを『あ~でもない、こうでもない』と皆で悩んでいた時に訪れたレンは、トニーにとっては救世主に見えたのだ。今ではすっかり魔王だが。


まぁ、そんな話を聞かされても、レンが受ける義理も無ければ興味もない。

レンは断ろうとした。実際、聞いて直ぐに断った。だが『頼むよ。冒険者の才能がある子なんだよ』とトニーは何度も頼みこんでくる。

トニーの話を聞けばレインは十八歳だという。

いや、駄目だ!そんなをリアの傍に近づける訳にはいかない。

そうは思ったものの、レンはトニーからレインの身の上を既に聞いた後だった。それは隣に居たリアもである。


不意にレンの右腕をクイッとリアが引っ張った。何事かと隣を向けば、心なしかリアがレンを上目遣いで何かをおねだりするような瞳で見ているような気がする。

ちょっと待て!今までリアが俺に対してこんな表情で見て来る事はあったか!?

混乱するレンに気付くことなくリアは言った。


「どうせ今日からこの街に滞在するんだから受けてあげなよ、レン。レンが指導担当者になって私も直ぐにE級に上がれたんだもん。きっとその子もレンに教えて貰った方があっという間にE級に上がれると思う。だってレンて凄く強いだけじゃなくて教え方も上手だよ」


落ちた。色々と不安要素もあるが、リアの言葉で落ちたレンは渋々、レインの指導担当者になったのだった。




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