お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro

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何事かと投げつけられたマントを顔から剥がして、投げた人物がいた方を見るとそこには既に居らず、何処に行ったのかと左右を見ても、マントを羽織った男性しか居らず、もう一人がいない。
何処に行ったのかと振り返って見ると、そこには金髪でまるでお伽噺で出てきそうな容姿を持った男性が、ひとつひとつのパーツはとても優しげであるにも関わらず、とてもその顔からは想像できない威圧感と怒気を孕ませた表情で橋を渡り始めていた。


「おい、ノエリア待ってくれ」


その後をもう一人の男性が追い掛けて行った際、その男性が着ていたマントの隙間から見えた服がマントを脱いだ男性と同じ服を着ているのが見えた。
白い軍服のような格好に何処かの国の紋章が描かれ左肩と胸ポケットの部分に描かれたそれは『トリスタン』という国のものだ。
その紋章をつけて剣術の訓練を受けていた青年たちが何名かおり、その中の二名だけがブライアンに稽古をつけてくれていた。
その一人がノエリア・ショウエンフェールデールという隣国の王子と、その側近のアルノルフ・オルメスである。
ノエリアという王子は、顔が童顔で優しげな見た目をしているにも関わらず常に怒っているイメージを大半の人は持っており、皆に怖がられている存在である。
そんな人が何でこんな所に、と思うのと何故こんな特徴的な人を今まで忘れていたのだろうと思ってしまった。
顔が見えず、声だけであってもこんな特徴ある人を忘れるなんてショックだ。
いや、今はそこにショックを受けてる場合じゃない。
いくら隣国の王子だろうが、今のブライアンのもとへ向かうべきではない。
ノエリア王子がただ嫌な気分になるだけだ。


「待ってください!」


「あ?」


私の呼び掛けにまるでその視線だけで人を刺せるのでないかと思えるほど鋭い視線を向けてきた。
宝石のように輝いた瞳なのに、綺麗を通りすぎて恐怖を感じさせるそれに私は冷や汗が額から流れた。


「今会いに行かれても取り合って貰えないかと」


恐怖で震えそうな身体を押さえてそう言えば、更にきつく睨ませた。


「だろうな、こんな騒がしいんじゃ。まぁ、そんな知ったこっちゃないけどな。奴に会おうが会えなかろうが、俺は言いたいことを言って来るだけだ。んなことより、早くそれ被ってついてこい」


「はい?」


それってマントのこと?
マントの上にマントを羽織れと?
何故?
そう思って手に持っているものとノエリア王子を交互に見れば、それを見ていたアルノルフが私に駆け寄り手に持っていたそれを被らせてきた。


「時間がねぇ、行くぞ」


ノエリア王子は苛立ちを隠さぬまま、屋敷の方へ足を進めた。
アルノルフはというと、私にフードを深く被らせ、まるで私を逃がさないようにと両肩を後ろから捕まれた状態で押され、先程までいた屋敷へと戻されてしまった。
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