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玲衣が選んだ画集は、哲哉の好きな画家のものだった。
今、絵を描いているのも、彼のような表現をしたいからだ。
「玲衣。以前君に、私がこの画家を好きだ、と伝えたことがあるか?」
「いいえ。でも、そうなんですか?」
初耳だ、と玲衣は驚いた。
そして、喜んだ。
(僕、知らないうちに、哲哉さんと好みが近づいているのかも)
哲哉もまた、嬉しく感じていた。
(玲衣は、私の絵を好ましく思っていてくれるのか)
哲哉は本に、レジ横に飾ってあったシンプルな猫の栞を添えて、玲衣に渡した。
「栞は、おまけだ」
「ありがとうございます!」
本の入った袋を手に、玲衣は喜んでいる。
(楽しそうな玲衣を見るのは、好きだ)
これは、彼に伝えた方がいいのだろうか。
哲哉は、言葉を慎重に選んだ。
だが、どれもピンとこない。
だから、素直に口にした。
「楽しそうな玲衣を見るのは、好きだ」
すると彼は頬を染め、哲哉に返した。
「哲哉さまは今、楽しいですか?」
「楽しいとも」
「僕も、楽しそうな哲哉さまが、好きです」
なぜだろう。
玲衣が、好き、と言うと、無性に嬉しくなる。
そして、切ないほどの心情が、せりあがってくる。
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それは今、胸にしまったまま、哲哉は二人で歩き始めた。
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