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王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る
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しおりを挟む突如、円卓会議室に現れたヒッグス・マイヤーを名乗る青年からハリアー解任の再考を促されていた。
王都の影王と言われるほどの権勢を得ている男が表に出てきてまで、王に直訴することは極めて異例なことだろうと思われる。
ヒッグス・マイヤーのハリアー解任の再考の申し出によって、王国否定派も息を吹き返し始めていた。
「お、恐れながら申し上げます。私もハリアー殿の解任の再考を陛下に願い出させてもらいます」
一人のギルドマスターがジェネシスの前に進み出ると、こぞって王国否定派のギルドマスターたちが同じ行動に出ていた。
ヒッグスの支援を期待して、ジェネシスの圧力をなかったことにしようと動きだしたらしい。
そんなギルドマスターたちをジェネシスが冷たい視線で見据えている。
「ふむ、再考せよと申すか……余が、この国の最高権力者であるという認識はその方らにはあるよな?」
「もちろん、存じております。ジェネシス陛下は全てを決められる方であり、何者にも縛られない存在であると」
ジェネシスが威圧的に喋ると、ギルドマスターたちは首を竦めたが、ヒッグスだけは小馬鹿にした微笑を浮かべて軽く頭を下げただけだった。
両者の睨み合いは続き、円卓会議室内は息を呑むのも憚られるような緊張感に包まれていた。
空気は最悪と言ったところだな……。
ヒッグス・マイヤー的には掌中の巨大利権組織を国王のジェネシスに弄らせたくないため、強烈な意思表示をしたということか。
「ふぅ、仕方あるまい。王都の影王殿に逆らえば余とて色々と困ったことになる。申し出通り、ハリアー殿の解任は見送るとしようか」
ジェネシスはこちらが驚くほど呆気なく折れた。
彼の性格上、やり始めたことを止めることはなく、最後まで突っ切るものだと思っていたからだ。
折れたジェネシスを見ていたヒッグス・マイヤーはニヤリといやらしい笑いを浮かべていた。
自分の権勢が王すらも上回ったと感じているに違いない。
影であるはずの王が、表の王に意見をしてそれを通させたので、その喜びは分らないでもないが……。
影ってのは、影を作ってくれた人あるからこその影なんだがなぁ……。
俺はヒッグスの笑みになぜか憐れみを感じていた。
「ジェネシス陛下の賢明なる判断に感謝いたします。早速、ハリアー殿を呼び戻して参りましょう」
勝者の笑みを浮かべているヒッグスに対し、ジェネシスは落ち込んでいるかと思えば――
顔を伏して笑っていた。
やばい、絶対まだ何か画策してて、上手くいったとか思ってる顔だろ、あれは。
王としては規格外のぶっ飛んでいる男なので、何を繰り出すのか不安でならない。
本当なら、俺はこんなことで心配をする必要もないのだが、メラニアの弟でもあるし、押しかけ弟子として半ば無理矢理弟子入りした男ではあるが、面倒は見てやると言った手前、巻き込まれるのは仕方ないと覚悟はしていた。
「それには及ばぬ。余たちが出ていくことにしょう。ああ、ついでに言っておくことがあるが、余は新たな冒険者ギルドのネットワークを立ち上げるぞ。そちらが余が認可する正統な冒険者ギルドだ。そこの本部ギルドマスターはグレイズ殿に就任してもらい、本部もブラックミルズに置くことになっておる」
「!?」
「ちょ、は!? 新しい冒険者ギルドとか? ジェネシス、お前何を考えているんだ」
ジェネシスの提案を聞いた俺は頭にハテナマークが数個浮かんでいた。
「あ、えーっと、グレイズさんは絶対拒否するから言わなかったけど、元々新しいの作るつもりだったんで、ちょうど良かったっす」
「へ、陛下!? 新しい冒険者ギルドですと!?」
先ほどまで勝ち誇っていたヒッグスの顔に焦りが浮かんでいた。
完全に想定外の事態に巻き込まれた人みたいになってて、ちょっとだけ可哀想な気もする。
「余は新規立ち上げの冒険者ギルドに『のみ』、税徴収代行権、治安維持権、ドロップ品取り扱い権、ドロップ品販売権を与えることにした。これは国王の専権事項であるため、意義の申し立ては受け付けない。ちなみに多くのダンジョン都市にある冒険者ギルドはこっちに参加の意向を受けておるぞ。なにせ本部からのピンハネ徴収が激減するからな」
ジェネシスとともに入場してきていたギルドマスターたちがニヤニヤと笑っている。
つまり、そういうことだ。
元々、解体する気満々だったということらしい。
俺の呼び出しはその出汁にされたのかもしれない。
「あー、ジェネシス。ぶっ壊すのはいいが、冒険者たちが飯を食えなくなるのは頂けないぞ」
「ギルドマスター不参加の街にもすぐに支部が建つ予定なんでご安心を、まぁ、首を挿げ替えるだけなんでよゆーっす」
仕事が早い……すでに反対しそうなギルドマスターの居る支部は職員を買収済みか……。
ヨシュア辺りが暗躍してそうだけども、お仕事頑張り過ぎだぞ。
狼狽えた表情をしたヒッグスが、こちらを見ている。
だが、俺は名目上のお飾りなんで、冒険者の生活が困らないなら、とりなす気なんてサラサラないぞ。
「あ、あの! 陛下、ジェネシス陛下! そのような前例のないことをすれば大混乱が生じます! 歴史ある冒険者ギルドを破壊するなどあってはならぬこと!」
真っ青に顔色を染めたヒッグスは必死にジェネシスに再考を申し出ていた。
国王の認可が無くなれば、非合法販売とされ、闇市と同じ扱いにされてしまう。
そうなれば、表立っての商売行為はできないため、どれだけの規模があろうが干上がってしまうのは目に見えていた。
ジェネシスは相手が抜かないだろうと思っていた伝家の宝刀を容易く抜いて突きつけたのだ。
「すでに新冒険者ギルドは立ち上がっておる。明日にもサイアスが起草して国民に公布されるであろうな」
「へ、陛下! なんということを!」
「冒険者ギルドは古くなり過ぎてカビが生えかかっていたからな。一旦ぶっ壊すのもいいだろうさ。悪評は余が受ける。それに新冒険者ギルドのトップに座るのは余が全幅の信頼を置くグレイズ殿だからな。きっと冒険者ギルドの利益だけじゃなく、冒険者の利益まで考えてくれる施策をバンバン通してくれると期待している」
「そのようなことを……すれば、安定が失われます! 冒険者ギルドが王国にどれだけの税を払っているかご存知なのか! それを捨てると申されるのか!」
「確かに多大なる税を冒険者ギルドからは納めてもらっているが、それ以上に幹部たちの脱税が目に余るものがあるのでな。そちらはそちらでサイアスたちに厳しく追及させるので安心せよ」
居並ぶ王国否定派のギルドマスターたちが身体竦むのが見えた。
相当、中抜きして蓄財を貯めていたらしい。
実際、ハリアーもやたらと高級そうな馬車を乗りまわしていたもんなぁ。
自業自得だ。
だが、俺も身を慎んで金は綺麗に使い切らないと危なそうだ。
溜まっている個人資産は、みんなの装備の更新しようかなぁ。
俺が場違いな考えを思索している間に話はドンドンと進んでいく。
その時、再びドアが開くと、街道で俺たちが助けた初老のヒッグス・マイヤーが現れた。
「陛下、我が影の『ヒッグス・マイヤー』の一人が迷惑をおかけした」
「総領様!? こ、これは違うんです! 私はただ冒険者ギルドを守るべきだと陛下に上申しただけで……」
青年の方のヒッグス・マイヤーはカタカタと震えはじめると、初老の男の前に跪いて頭を垂れていた。
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