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王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る
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しおりを挟む「影である我ら『ヒッグス・マイヤー』が表に出てくるだけでも、大きなリスクを背負っていることは理解しておるであろうな?」
初老の男は、声を潜めつつも青年に語りかける。
頭を垂れていた青年の『ヒッグス・マイヤー』はビクリと肩を震わせていた。
「そ、総領様。こ、これは私の中で『ヒッグス・マイヤー』として表に出ても止めるべき案件だと判断いたしました。
「ふむ、そう言って貴族や冒険者ギルドの幹部、果ては王にまで会いに行き、我らの財を背景に圧を加えるというのが『ヒッグス・マイヤー』と?」
「で、ですが! ジェネシス陛下は我ら『ヒッグス・マイヤー』の作り上げた収益システムを解体しようと!」
青年の反論に初老の男の視線が厳しくなる。
「本当にそうか? 我らは影であることを是として、零細商人、下町住民、冒険者の互助のために王都で組織されたことを忘れておらぬか?」
俺は初老の男の言葉が気になって、隣のジェネシスの脇を突いて聞いてみた。
『あの話って本当か?』
『オレもわかんねっす。でも、初代王が王都を作った頃の文献にも『ヒッグス・マイヤー』って名前が出ているとサイアスから教えてもらったことはあるっすけど』
王都の完成頃から存在したとなると、冒険者ギルドよりも成立が古い組織となってくる。
俺たちがコソコソと話し合っているのをみた初老の男が、こちらを見て深々と頭を下げていた。
「ジェネシス陛下、こたびの件は我が組織の暴走を止められなかったこちらの責任です。我らは影であることを是とした組織。国王や国民が今までの形を変えるのであれば、それに応じてこちらも形を変えるまでのこと。この若造の戯言は無視されて結構です」
「ほぅ、そちらの『ヒッグス・マイヤー』殿は余に再考を促したぞ」
ジェネシスは青年の方を一瞥する。
「その件であれば、彼の処理はこちらで完全に行い、二度とこのようなことが起きないように致します」
「ひっ! そ、総領様! 私は『ヒッグス・マイヤー』のための利益をたくさん出してきました! その私を処理したらどうなるか!」
「お前は『ヒッグス・マイヤー』の名前の意味を取り間違えておるのだ。我らが利を稼ぐのは互助のため、断じて自らの利益のためではないと何度も注意したはずだ」
「ですが! 大きな利が出るシステムは多くの互助のための資金源でもあるはず!」
「互助のために使えばな。だが、調べさせてもらったが、お前が稼ぎ出した利の大半は互助に回っておらぬことは判明している
初老の男の追及に青年の顔色はより一層青くなった。
そういうことか……冒険者ギルドへの干渉は『ヒッグス・マイヤー』としてではなく、あの嫌味たらしい青年が個人的に組織の力を使って作り出してたということか。
というか、『ヒッグス・マイヤー』は組織の名前も兼ねているのか。
組織の権威を利用して自身の利益追求をした青年の気持ちも分らんでもないが、節度は保った方がいいぞ。
「そ、総領様! あ、あの金は一時的に私がプールしているだけで……」
青年は言い訳を重ねるが、周囲から降り注ぐ視線は疑いの眼差しが大半だった。
「わ、私をそんな目で見るなっ! 私は王都の影王『ヒッグス・マイヤー』だぞ!」
青年は視線に耐えたのか、喚き散らしていた。
「ジェネシス陛下、重ねての非礼をご容赦願いたく。すぐに目の前から排除いたします」
初老の男が指を鳴らすと、扉の奥から男たちが現れて、喚き散らす青年を引き摺り出していった。
「で、『ヒッグス・マイヤー』殿は余の案に反対はせぬということで良いか?」
「はい、陛下。陛下の案に従い、我ら『ヒッグス・マイヤー』も動きますゆえ、ご懸念には及びませぬ」
初老の男は人当たりの良い笑顔を浮かべていた。
王都の影王がジェネシスの示した新たな冒険者ギルドへの追従を認めた形になった。
その様子を見ていた王国否定派のギルドマスターたちが、そっと部屋から逃げ出そうとし始めていた。
「そこの者たち、余はまだ退出を認めておらぬぞ」
ジェネシスに止められて、ギルドマスターたちも観念したのか、その場にへたり込んだ。
まぁ、あいつらもうまい汁を吸ってた連中なんで自業自得というところか。
「余の提案した新冒険者ギルド案に賛成票か反対票は投じていくがよい。それはギルドマスターとしての仕事でもあるからな」
ノリノリのジェネシスが採決をするようにヨシュアに視線を送った。
「では、これよりジェネシス陛下の提案された新冒険者ギルドに投票を」
手回しよくヨシュアの配下たちが、賛成と反対の木札を各ギルドマスターに配っていく。
どちらかを投じろという意味であろうと思うが、反対を投じれば分る仕様のため、あざといと思わざるを得なかった。
結果は賛成三〇、反対なしであった。
「では、余の案は承認されたものとみなす。これより、各組織を再編するため、冒険者ギルドはグレイズ殿が中心者として動き出すように」
「ちょ、俺はギルドの仕事なんて分らんぞ?」
「ああ、それはアルマさんとかに投げておけば万事オッケーっすよ。どの冒険者ギルドも平職員のネットワークは優秀なんで業務が滞ることは少ないっすよ」
ジェネシスが気楽そうな顔でとんでもないこと言っているが……。
「あ、あの!? 私が全部仕切るんですか!?」
そのアルマが涙目で俺の服を掴んでいた。
トップの俺は仕事が分からない以上、各ギルドとの色々な折衝はアルマが担当することになるのは確実である。
「ジェイミーとかクレーム処理で扱き使っていいぞ。まぁ、俺もトラブル処理くらいはするつもりだ」
涙目のアルマの頭を撫でてやる。
若いアルマにはとてつもないプレッシャーの気がするが、能力的に不足はないだろうと思われる。
「はぁはぁ、アルマ、大変そうならうちのセーラも貸し出してあげるわよ。色々と冒険者ギルドの方にも喰い込みたいし」
メリーが荒い息をして目をお金マークにしながら、セーラを売り込んでいた。
「わ、私ですか!? あ、でも仕入れとかならお手伝いできるかも」
「ぜーらざん! 手伝ってぇえ!!」
涙目のアルマがセーラに縋りついていた。
心細いのは非常に理解できるので、セーラのバックアップも期待しておこうと思う。
「アルマさんが実質の冒険者ギルドの本部ギルドマスター代行という形ですか。これは、私たち冒険者にとってもいいサービスが還流されそうですね」
「アルマ、優秀。私も優秀。冒険ない時はギルドのお仕事手伝ってもいい」
「あー、じゃあ、ファーマも手伝うー」
「わたくしもできる範囲でご支援いたします」
「ご飯出してくれるなら、妾もお手伝いはやぶさかでもないのじゃー」
「わふぅ(そうですね。アルマさんだけだとちょっと頼りないので、あたしが番狼くらいはしてもいいかな)」
「みんなありがとうね。ううぅ、私頑張ります!」
なんだかんだで、みんながアルマをサポートする気満々なので、いい方向には変化していきそうな気もする。
そんな風にみんなが涙目のアルマを励ましていたのを見ていた俺の袖を初老のヒッグス・マイヤーが引いてきた。
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