おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る

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「グレイズ殿は相変わらずの強運の持ち主ですな。さすが、超越者の腕輪の持ち主というところですな」

「な、何の話だ?」

 初老のヒッグス・マイヤーはニヤリと笑っていた。

 神器の話を知るのは、ブラックミルズの住人くらいしか知らないはずなのに、王都に住むこの男がなんで知っている。

「なんで知っているとかいう顔をされません方がよろしいですな。グレイズ殿のご活躍は情報に高い意識を持っている者の間では有名ですぞ。ですから、このわしも顔を見たくなり、あの場所まで押しかけたという次第でしたし」

「街道で馬車を転がしたのは、俺の顔を見るためだったと言うのか?」

「ええ、そうです。その時、グレイズ殿の人相を見て、わしの勘が囁きました。いずれ英雄となり神への道に入られる方だと」

「おいおい、それは買いかぶり過ぎだ。俺は確かに神器の所有者だが、しがない冒険者であり、一介の商人でしかない男だぞ」

「いいえ、貴方様は神器の所有者でありながら、孤独ではない。神に等しい力を持ちながらも、人であることを続け、人との交流を疎まれておられぬという稀有な資質を持ち合わせている方です」

 ヒッグスが熱っぽい口調で俺を褒めるので、なんだかとてもこそばゆい気持ちである。

 俺としては、いくら神器の力で超人になろうが、何度も失敗してきているし、全知全能の神などというところからは遠くかけ離れた存在のただの人間だ。

 そして、ただの人間である俺は弱い生き物だ。

 誰かに愚痴を聞いて欲しいし、誰かのために働きたいし、誰かと一緒に笑ったりもしたい、飯を食って騒いだりもしたい。

 だから、パーティーメンバーたちやブラックミルズの住人、ジェネシスたちとも喧嘩もするが交流を続けているんだ。

 こんな化け物みたいな力を持った俺が孤独に陥ったら、それこそアクセルリオン神が言ったダンジョン主になっちまう。

「ヒッグスさんの買いかぶりですよ。俺は神器の所有者ですけど、ただの弱い人間ですから人が恋しいんですって」

「わしも歴代のヒッグス・マイヤーも、多くの神器の所有者を見てきていますが、今のグレイズ殿のように言われたのは数名しかおられませぬ。そして、その数名はこの国の建国王を始め全て神への道を開いた者だったと記録されております。ですから、グレイズ殿にはこれからもこのままで突き進んで欲しいと願っております」

「多分、俺は死ぬまでこんな感じだと思いますよ。それに、俺が孤独に落ちようとも命を賭して救いに来てしまう彼女らがいるんでね。おちおちと闇落ちすることもできない身ですから」

 俺は目の前でアルマを慰めているメンバーたちの姿を見て微笑んでいた。

 彼女たちがいなければ、俺はすでに孤独に落ちて、神器の力に魅入られ、とうにダンジョン主になっていたかもしれなかった。

 それを食い止めてくれたのは彼女たちの献身である。

「そのようですな。でしたら、早々に式を挙げられて逃げられないようにされた方が良いですぞ。歴代のヒッグス・マイヤーが残した神器の所有者で、婚約者に逃げられて闇落ちしダンジョン主になった者もおられますからな。早々に身を固める方に舵を切られた方がよろしいですぞ」

 まさか、ヒッグス・マイヤーからも早期の結婚式を進められるとは思ってもみなかった。

 婚約者に逃げられてダンジョン主か……。

 チラリとみんなの姿を見る。

 ま、まさかね……。

「い、一応、ご忠告として心に留めておきます」

「式を挙げられる際は、わしも参列させてもらいますぞ。それに色々とご支援もさせてもらいますので、なんなりとお申し付けください」

「いやいや、王都の影王とも言われるヒッグス殿に一介の冒険者の結婚式でご迷惑をかけるわけには……」

「いやいや、グレイズ殿の嫁にはブラックミルズ公爵で陛下の姉上にあたるメラニア様もおられるので、それなりの格式が必要でしょうし、遠慮せず申し付けてください」

 そういえば、メラニアがいるんで結婚式となると、ジェネシス始め貴族たちも参列するのか。

 まだ先のこととして忘れてた。

 結婚式……挙げるにしても準備が大変そうだ……。

「そ、そうでしたな……。では、その節はヒッグス殿にもご助力を頂きましょう」

「それには及びません。グレイズ殿にもヒッグス・マイヤーの名を与えますので、各地の組織はご自由にお使い下さい」

「ちょっと!? ヒッグス殿? それはどういう意味です? 俺がヒッグス・マイヤーの名を持つということですか?」

「ええ、総領判断で与えます。グレイズ殿ならきっと組織の力をいい方に使うと判断しました。よって、組織の掟に従い有能な者へ名を与えることにしましたよ」

 初老のヒッグス・マイヤーがさも当然とでも言いたげにそう告げていた。

 王都で絶大な力を持ち、各地にも組織を持つヒッグス・マイヤーという共助組織のトップに当たる『ヒッグス・マイヤー』の名を俺に与えるとか、どうかしている。

「そ、そのような重大事を勝手に決めるとマズいのでは?」

「いいえ、すでに各地に散っているヒッグス・マイヤーたちとの議論はし尽くされました。グレイズ殿を迎え入れるのに反対する者はいません。正確にはさきほどの青年のヒッグス・マイヤーは除名処分が下っていたので、確認はしていませんが」

 すでに議論を尽くしたとは……『ヒッグス・マイヤー』は相当に動きの早い組織なのだろうか……。

「この判断が下るまでに五年以上を要しましたからね。これ以上、議論することもないのです」

「五年以上? そ、そんな長期間です?」

「ええ、グレイズ殿が冒険者として活動を始められた頃から『ヒッグス・マイヤー』は、貴方が神器の所有者ではないかと思って捜査していたのです」

 そ、そんな昔から……ムエルたちと冒険者を始めた頃からって……。

 そんな時から俺を神器の所有者としてマークしていたのか……あの時だと、神殿長くらいしか知らなかったはず。

 いったい誰がそんな情報を流しているんだろうか。

「『ヒッグス・マイヤー』はブラックミルズにも駐在員がいますので、彼を通して色々と情報が流れ込んでいます。ああ、大丈夫ですよ。悪い奴じゃないですし、結構貴方に近い人ですからご懸念なく」

「駐在員? 俺に近しい人だって?」

「ええ、本人からもバラしていいと言われてるので言いますが、ジェイミー君は『ヒッグス・マイヤー』のブラックミルズ駐在員ですので、彼を通してグレイズ殿の素行や実績、神器の所有者の有無といった情報が流れてきてました」

「え!? ジェ、ジェイミーですかっ!! あいつ、そんなこと一言も!」

「ああ、怒らないでやって下さい。彼も二〇年来の親友が神器の所有者らしいと知り、悩んでましたので……」

 ジェイミーが冒険者ギルドのギルドマスターになった頃に俺が冒険者を始めたよな。

 冒険の実績とパーティーメンバーの実力との差を感じ取って、色々と調べてのかも知れない。

「そ、そうだったのですか……」

「ですから、改めて申し上げます。グレイズ殿には『ヒッグス・マイヤー』の名を与えるので、存分にお使い下さい!」

「そこまで、言われるのでしたら謹んで『ヒッグス・マイヤー』の名をお引き受けいたします。この名を使い、この地に住む人の苦労を減らすことに身命を賭すことと致しましょう」

 議論がしつくされているなら、断っても、どうせ与えられるはずと思い、俺は『ヒッグス・マイヤー』の名を引き受けることにした。

 それに新しい冒険者ギルドと共助組織である『ヒッグス・マイヤー』が同一の組織と化していけば、より広範な共助組織になっていくと思われる。

 それを作り出すのが俺がこの名を引き受けた大きな理由の一つであった。

「おぉ、やべーっすね。冒険者ギルドトップと全国共助組織トップを兼ねるグレイズさんに叛乱起こされたら、オレの首なんてすぐに飛んじゃうっすよ」

 ジェネシスがそうおどけているが、周りから見たらそれを実行できるだけの力を与えられていた。

「そんな気はないし、それにジェネシスをそうならないように教育すればいいだろう。お前も頭はいい奴だし、いい王様になるようメラニアと教育していけばいい」

「そうっすね。グレイズさんはオレの義兄ですし、公式身分としては市井担当特任大臣とかいります? いや、どおせなら副王ってくらいにしときますか? 継承権三位ですし、欲しいなら上げますよ。ほら、オレ王様だし」

 なんだか王都に来たことで話が大げさになってきてる気がするが、俺のやることはほとんど変わらん……はずだ。

「いらんぞ。これ以上役職をつけられても困る」

「あー、大丈夫っす! 肩書きなんてのは飾りですから、貴族連中にはよく効く薬になるんであって困るもんじゃないっすよ」

「いらん、いらん」

 そう言って俺はその場から逃げ出すことにした。

 後日、正式に新冒険者ギルドが発足し、俺がその新冒険者ギルド本部のギルドマスターに就任すると、同時に『ヒッグス・マイヤー』の名も与えられた。

 同時刻にジェネシスの指示を忠実に実行したサイアス宰相からの布告が王都の民の眼に晒されていた。

『我が義兄グレイズ・ファルブラウを副王に任ずる』と書かれた立て看板が多数王都に立てられていたのだ。

 してやられたと思ったが、王が出したものを撤回させるわけにもいかず、俺の肩書きには『副王』も追加されることになった。

 そして、王都での目的の一つだったメラニアの養父母たちとの面会も、相手からは感謝されっぱなしで終始し、メリーたちは王都での仕入れ先を増やしてほくほく顔でブラックミルズへの帰路のつくことになった。

 そんな俺たちの元にブラックミルズからの早馬が飛び込んできた。

 冒険者ギルドから使者として送られてきた男が喘ぎながら口を開く。

「ま、街に魔物が流れ込んできています! 魔物は近隣で最近発掘された絶望都市から溢れ出している模様! ジェイミーさん以下、冒険者たちが総力を挙げて街に侵入した魔物の撃退には成功していますが、依然魔物は数を増やし、街道周囲に溢れ出しています! このままだとブラックミルズは物資が無くなり立ち枯れてしまいます」

 その報告を受け、俺たちは大急ぎでブラックミルズに戻ることを決めた。
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