203 / 232
王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る
6
しおりを挟む
ハリアーがヨシュアの配下によって引きずりだされて行った後、円卓会議室に残った王国否定派のギルドマスターたちは俺たちを見て震えていた。
「そんなに怯えることもあるまい。余は血を見るのは嫌いだからな。ここは話し合いで穏便に済まそうと思う。皆それぞれに着席せよ」
ジェネシスがヨシュアに先導されて、ハリアーの座っていた中央の席にドカリと腰を下ろした。
「グレイズ殿とお連れの一行は余の右側に座られよ」
先に席に着いたジェネシスが自分の右側にあった席を勧めてきた。
居並ぶギルドマスターの中で、二番手として俺を尊重するとの意思表示であった。
「拒否はできなさそうだな。アルマ、代わりに座っておけ。俺は後ろで睨みを効かせておく」
ジェネシスの意図を受け止めつつも、面倒事は避けたいので、ギルドマスター代理を務め実務に明るいアルマに席を勧めた。
「え!? ええ!? 私ですか? グレイズさんの代理としてなら座りますけど。実務は私が切り盛りしますけど、グレイズさんが責任者ですからね」
「へいへい。責任は俺が取るから自由にやってくれ」
「あらー、グレイズさん、そんなこと言っていいのかしら? 今のアルマは昔と違ってやるとこまでやっちゃう子よ」
隣にいたメリーが俺の脇腹を突いてくる。
ここまで来たら、断っても色々と降りかかるのは目に見えているので、アルマに処理を任せ、俺は首を差し出す要員になればいいと思っていた。
「お膳立てされてるんじゃあ、逃げようもないしな」
「グレイズ、有能。仕事が増える仕方ない。私たちもお手伝いするから大丈夫。それも嫁の務め」
「ファーマもお手伝いするー!」
「わたくしも領主としてご尽力できることあれば」
「私は非才の身ですが、グレイズさんを癒せるよう頑張ります」
「こ、これって商売のチャンスかもです。メリーさん」
背後に控えていたメンバーたちもやる気が漲っている様子だった。
俺としてはこの事態を穏便にすませて、早くブラックミルズに帰りたいと思っているんだがなぁ……。
どうか、穏便に済ませて欲しいところだ。
そんな風に思いつつ、他のギルドマスターたちが席に座るのを眺めていた。
「さて、皆が着席したようなので、改めて確認するが……。冒険者ギルド本部のギルドマスターであるハリアーは賛成多数で罷免されたことに異論はないな?」
ジェネシスが居並ぶギルドマスターたちに対し、厳しい視線を送る。
その視線を受けると、王国否定派だった一部のギルドマスターたちはすぐに下を向いて逸らしていた。
「異論はなさそうだな。余としても冒険者ギルドとの関係は良くしたいとかねてより考えておったのだ。グレイズ殿のギルドマスター任命も硬直化していた冒険者ギルド運営に新風を送り込もうとして、余自らが任命したのである」
ジェネシスがいけしゃあしゃあと法螺を吹いている。
俺がギルドマスターに就任したのは、アルガドのギルドマスター権限を無力化させるためで一時的な就任話だったはずだ。
気付いたらなし崩し的にギルドマスターを押し付けられてて、アルマを放り出せないから責任職として就任だけはしているが……。
気が付いたら国王まで兼務させられそうな気がするので、気を付けてなければなるまい。
「異論はありますよ。ジェネシス・ファルブラウ陛下!」
声と共に閉められていたドアが開くと、豊かな金髪を綺麗に整えた貴族然とした青年が一人立っていた。
その男の姿を見たギルドマスターたちの顔色が変わる。
そして、ジェネシスの顔色も変わっていた。
「ヒッグス・マイヤー……。『王都の影王』殿がお出ましになるとは、余も想像しなかったぞ……」
「ヒッグス・マイヤーってこの前あったあのおじいさん……ああ、何人も同じ名を名乗っていると言ったな。また別のヒッグス・マイヤーか」
「これはこれは、ブラックミルズのグレイズ殿には以前別のヒッグス・マイヤーが世話になったようで、その節は助かりました。お礼は別の機会にさせてもらいますが……」
貴族然とした青年は細い目に嫌味たらしい視線を乗せて、俺を見ていた。
老人のヒッグス・マイヤーとは違い、冷酷さとしつこさを感じさせる嫌味な視線を受け、瞬時に馬が合わなそうだと悟った。
「礼など不要。あの時は当然のことをしただけだ」
相手も俺の顔色を見て、馬が合わなそうだと悟ったのか、それ以上俺に興味を示さなかった。
「ジェネシス陛下、こたびの件はいささかやりすぎかと思い、下賤の身で差し出がましいことと思いましたが諫言をさせて頂くことといたしました」
貴族然としたヒッグスは恭しく頭をジェネシスに向け垂れる。
その言葉は柔らかいが、多くの棘が隠されてた言葉となっていた。
「やりすぎとは?」
「冒険者ギルドは国よって認可を受けた団体ではありますが、本来は自主独立の組織なはず。その冒険者ギルドのトップの解任に王が関与したとなれば王国の歴史始まって以来の未曽有の事態ですぞ」
「王都の影王と言われているヒッグス・マイヤーとしては、王が王らしく振る舞うことを嫌っておるという意味か?」
ジェネシスも目の前のヒッグス・マイヤーとは馬が合わないようで、挑発的な言葉を投げ返していた。
その二人の様子をギルドマスターたちがハラハラしながら見ている。
王都における表と裏の王が直接言葉を交わして喧嘩をおっぱじめようとしていたからだ。
「そのようなことは……もうしておりません。前例がないと申し上げただけです。前例がないことは何が起きるか予測をできないため、王都における諸雑事に滞りが起きる可能性が高くなると申したいのです。ですから、こたびは解任ではなくハリアー殿には減俸処分に留めて頂きたい」
前例がない、どこかで聞いたような……あぁ、ハリアーの言葉か……。
さきほど引き摺り出されていた男の言葉と、目の前のヒッグス・マイヤーの言葉が重なっていた。
どう考えてもトップとしては無能だったハリアーが、この巨大組織のトップに座っていられたのは目の前の男の差し金か……。
俺は目の前でジェネシスへ、ハリアーの解任の再考を願い出ている男が裏で冒険者ギルドも操っていたのではと勘繰っていた。
「そんなに怯えることもあるまい。余は血を見るのは嫌いだからな。ここは話し合いで穏便に済まそうと思う。皆それぞれに着席せよ」
ジェネシスがヨシュアに先導されて、ハリアーの座っていた中央の席にドカリと腰を下ろした。
「グレイズ殿とお連れの一行は余の右側に座られよ」
先に席に着いたジェネシスが自分の右側にあった席を勧めてきた。
居並ぶギルドマスターの中で、二番手として俺を尊重するとの意思表示であった。
「拒否はできなさそうだな。アルマ、代わりに座っておけ。俺は後ろで睨みを効かせておく」
ジェネシスの意図を受け止めつつも、面倒事は避けたいので、ギルドマスター代理を務め実務に明るいアルマに席を勧めた。
「え!? ええ!? 私ですか? グレイズさんの代理としてなら座りますけど。実務は私が切り盛りしますけど、グレイズさんが責任者ですからね」
「へいへい。責任は俺が取るから自由にやってくれ」
「あらー、グレイズさん、そんなこと言っていいのかしら? 今のアルマは昔と違ってやるとこまでやっちゃう子よ」
隣にいたメリーが俺の脇腹を突いてくる。
ここまで来たら、断っても色々と降りかかるのは目に見えているので、アルマに処理を任せ、俺は首を差し出す要員になればいいと思っていた。
「お膳立てされてるんじゃあ、逃げようもないしな」
「グレイズ、有能。仕事が増える仕方ない。私たちもお手伝いするから大丈夫。それも嫁の務め」
「ファーマもお手伝いするー!」
「わたくしも領主としてご尽力できることあれば」
「私は非才の身ですが、グレイズさんを癒せるよう頑張ります」
「こ、これって商売のチャンスかもです。メリーさん」
背後に控えていたメンバーたちもやる気が漲っている様子だった。
俺としてはこの事態を穏便にすませて、早くブラックミルズに帰りたいと思っているんだがなぁ……。
どうか、穏便に済ませて欲しいところだ。
そんな風に思いつつ、他のギルドマスターたちが席に座るのを眺めていた。
「さて、皆が着席したようなので、改めて確認するが……。冒険者ギルド本部のギルドマスターであるハリアーは賛成多数で罷免されたことに異論はないな?」
ジェネシスが居並ぶギルドマスターたちに対し、厳しい視線を送る。
その視線を受けると、王国否定派だった一部のギルドマスターたちはすぐに下を向いて逸らしていた。
「異論はなさそうだな。余としても冒険者ギルドとの関係は良くしたいとかねてより考えておったのだ。グレイズ殿のギルドマスター任命も硬直化していた冒険者ギルド運営に新風を送り込もうとして、余自らが任命したのである」
ジェネシスがいけしゃあしゃあと法螺を吹いている。
俺がギルドマスターに就任したのは、アルガドのギルドマスター権限を無力化させるためで一時的な就任話だったはずだ。
気付いたらなし崩し的にギルドマスターを押し付けられてて、アルマを放り出せないから責任職として就任だけはしているが……。
気が付いたら国王まで兼務させられそうな気がするので、気を付けてなければなるまい。
「異論はありますよ。ジェネシス・ファルブラウ陛下!」
声と共に閉められていたドアが開くと、豊かな金髪を綺麗に整えた貴族然とした青年が一人立っていた。
その男の姿を見たギルドマスターたちの顔色が変わる。
そして、ジェネシスの顔色も変わっていた。
「ヒッグス・マイヤー……。『王都の影王』殿がお出ましになるとは、余も想像しなかったぞ……」
「ヒッグス・マイヤーってこの前あったあのおじいさん……ああ、何人も同じ名を名乗っていると言ったな。また別のヒッグス・マイヤーか」
「これはこれは、ブラックミルズのグレイズ殿には以前別のヒッグス・マイヤーが世話になったようで、その節は助かりました。お礼は別の機会にさせてもらいますが……」
貴族然とした青年は細い目に嫌味たらしい視線を乗せて、俺を見ていた。
老人のヒッグス・マイヤーとは違い、冷酷さとしつこさを感じさせる嫌味な視線を受け、瞬時に馬が合わなそうだと悟った。
「礼など不要。あの時は当然のことをしただけだ」
相手も俺の顔色を見て、馬が合わなそうだと悟ったのか、それ以上俺に興味を示さなかった。
「ジェネシス陛下、こたびの件はいささかやりすぎかと思い、下賤の身で差し出がましいことと思いましたが諫言をさせて頂くことといたしました」
貴族然としたヒッグスは恭しく頭をジェネシスに向け垂れる。
その言葉は柔らかいが、多くの棘が隠されてた言葉となっていた。
「やりすぎとは?」
「冒険者ギルドは国よって認可を受けた団体ではありますが、本来は自主独立の組織なはず。その冒険者ギルドのトップの解任に王が関与したとなれば王国の歴史始まって以来の未曽有の事態ですぞ」
「王都の影王と言われているヒッグス・マイヤーとしては、王が王らしく振る舞うことを嫌っておるという意味か?」
ジェネシスも目の前のヒッグス・マイヤーとは馬が合わないようで、挑発的な言葉を投げ返していた。
その二人の様子をギルドマスターたちがハラハラしながら見ている。
王都における表と裏の王が直接言葉を交わして喧嘩をおっぱじめようとしていたからだ。
「そのようなことは……もうしておりません。前例がないと申し上げただけです。前例がないことは何が起きるか予測をできないため、王都における諸雑事に滞りが起きる可能性が高くなると申したいのです。ですから、こたびは解任ではなくハリアー殿には減俸処分に留めて頂きたい」
前例がない、どこかで聞いたような……あぁ、ハリアーの言葉か……。
さきほど引き摺り出されていた男の言葉と、目の前のヒッグス・マイヤーの言葉が重なっていた。
どう考えてもトップとしては無能だったハリアーが、この巨大組織のトップに座っていられたのは目の前の男の差し金か……。
俺は目の前でジェネシスへ、ハリアーの解任の再考を願い出ている男が裏で冒険者ギルドも操っていたのではと勘繰っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9,234
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。