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王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る
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しおりを挟む「へ、陛下!? ななななな、なぜ? このような場所におられるのですか! その恰好……は」
ハリアーがようやくジェネシスの身分に気付いて、頭を床に擦りつけて平伏していた。
「ハリアー殿、うちのギルドから緊急報告が上がっていたと思うが、ジェネシス陛下はブラックミルズで冒険者として武者修行をされておるのだ」
「は? はぁ!? 陛下が!? サイアス宰相から国王としての見識を広めるために遊学されておると発表はあったが……」
随分と前にギルド本部に報告書として、ジェネシスの件は伝えてあったはずだが、どうやらハリアーにまで届いていなかったらしい。
ハリアーに届く前に王国否定派の職員が握りつぶした可能性があった。
「も、もしかしてメラニア様がブラックミルズ公爵家として独立したことも知らないのでは? その婚約者となっているグレイズさんのことも知らないのでは」
隣でことの成り行きを見守っていたアウリースがそっと俺に耳打ちしてきた。
やっぱ、アウリースの言う通りそっちも報告が行ってなさそうな気がする。
気になった俺は一応、ハリアーに確認だけしてみることにした。
「あー、取り込み中悪いが、ハリアー殿に少し聞きたいことが……」
「な、なんだ。グレイズ、今は陛下の相手で忙しいのだぞ! 状況を弁えよ!!」
平伏していた顔を上げたハリアーが、俺に向かって口から泡を飛ばして怒っていた。
その様子をジェネシスがニヤニヤして見ている。
ジェネシスの奴、相当ハリアーに気狂い王って言われたのを根にもっているな。
とはいえ、確認しておかないと更に問題が発生しそうな気がする。
「あー、すまない。ハリアー殿は、俺がブラックミルズ公爵家の相談役兼公爵の婚約者と認識はしているだろうか?」
「???????」
ハリアーの顔にクエスチョンマークが多数浮かんだような気がした。
やっぱ、知らされてなかったみたいだ……。
となると、俺への認識は商人上がりのおっさん冒険者が、王に引き上げられてギルドマスターになったという認識だったということか。
メラニアがハリアーの前に出てちょこんと頭を下げると自己紹介を始めた。
「ただいまグレイズ様よりご紹介に預かりました。ブラックミルズ公爵家の当主をさせてもらっているメラニアと申します。元々ヴィーハイブ家でしたが、どうもわたくしの血筋は陛下と同じらしく姉と認めて頂けております。ハリアー殿には今後ともわたくしの婚約者であるグレイズ殿と弟のジェネシスがお世話になると思いますので、よろしくお願いします」
「…………」
ハリアーの顎が外れたようだ。
あの顔色を見るにハリアーの中では色々と情報更新が滞っていたらしい。
自分の周りにYESマンばっかり置いた弊害だったのだろう。
「正確に言うと、余の義兄ということで王位継承権第三位って地位も付随しているんだよね。グレイズ殿は」
ジェネシスの言葉を聞いたハリアーの顔色が真っ青に変化していた。
王位継承権は断ったのだが、現状王族で残っているのがジェネシスとメラニアしかいないので、最悪を考えて俺に三番目を務めて欲しいと懇願されて仕方なく受けていた。
「え、ええええっと。グレイズ殿はブラックミルズの一冒険者だと聞いてますが……」
「ああ、俺は一冒険者なんだが……色々と副業しててな……会社経営と商店街連合会とブラックミルズ公爵家相談役と『ギルドマスター』をやらせてもらっている。といっても―――」
「はぁあああああああああああああああああああああああああっ!? そ、そそそそんな話聞いてないぞっ!! 誰だ! グレイズ殿が一介の引退間近のポンコツ冒険者だって私に吹き込んだのはっ!」
ハリアーが自分の子飼いの部下たちに向けて、怒鳴り散らしていた。
いやいや、普通、新しくギルドマスターになった人の身上書くらい読むでしょ……。
ちゃんと俺は経歴や肩書きを書いた身上書も送付していたぞ。
俺は読んだ上でイキってたと思ってたんだが――
「グレイズ殿、なんで早くソレを言ってくれなかったんですか! いやー、私はただ者じゃないと思っていたんですよー。まさか、陛下の義兄に当たる方とは露知らず無礼の数々、失礼しました。お、おい、すぐに酒宴の支度をさせろ」
ハリアーの変わり身の早さに、周囲に居た王国否定派も俺たちも呆気に取られていた。
揉み手までしてしかも低姿勢過ぎる。
ハリアーの態度が改まったところで、それまで、ニヤニヤしていたジェネシスの目が厳しい光を宿した。
「ハリアー、悪いが余もグレイズ殿も酒宴は要らない。この状況が理解できないのかね」
ズラリと並んだ反ギルド本部派となったギルドマスターたちが、ハリアーたちに厳しい視線を送り込む。
最高権力者に喧嘩を売ったハリアーに対し、ジェネシスも容赦はしないらしい。
「へ、陛下!! ちょっとした情報の行き違いがあったようで……担当者はすぐに解任しますので、こたびの件はなにとぞご容赦を!!」
揉み手をして腰を屈めたハリアーが卑屈に許しを乞うていた。
アレはジェネシスに対しては逆効果になるんだよな……下に責任押し付けて逃げようとする奴は容赦しないだろうし。
ジェネシスは、ヨシュアに目で合図を送ると手にしていた紙を読み上げさせた。
「冒険者ギルド本部ギルドマスターハリアー殿への解任動議を発動し、現状グレイズ殿含む十五名の賛同をもらっている。そして王国と冒険者ギルド間で結ばれた規約十五条の第三項の規定により、王国主権者たる国王も一票を投じれることとなっているため、ハリアー殿解任動議は十六票の過半数となり可決されることとなりました」
ヨシュアが淡々と紙に書かれた内容を読み上げていた。
その内容を聞いたハリアーが顔を引きつらせている。
「ちょちょちょっとお待ちを……冒険者ギルドの人事は王権が届かない場所と規定されているはず! 十五条の第三項なんて今まで一度も使われなかった規定だぞ!! これは王による冒険者ギルドへの介入だ!!」
「歴代王は使わなかっただけで、余は規定としてあるので使用しただけのことだ」
「ちょちょちょっとお待ちを……私が解任となると全国の冒険者ギルドが動揺すると思うのですが……これでも、万事何事もなく平穏無事に冒険者ギルドを運営し、王国への多額の納税も果たしておりますが」
ハリアーは自分自身の首が飛ぶと知り、必死になって抗弁していた。
「抗弁は後の査問会議で聞くことにして、とりあえず、解任決議は可決したので、肩書きのない者は早々にこの場より去れ」
ジェネシスがハリアーを指差して、ヨシュアたちに連れ出すように指示を出していた。
「ま、待って! 待ってくれ! 違うんだ! 頼む! 私は知らなかったんだ! おい、やめろ! やめてくれ! 私は冒険者ギルドの本部ギルドマスターだぞ!」
ハリアーは必死の抵抗を見せるが、ヨシュアの配下によって円卓会議室から引きずり出されていった。
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