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王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る
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しおりを挟むブラックミルズからのレア素材を積んだアルマの荷馬車が冒険者ギルド本部に入っていった。
その後を俺は皆を乗せた荷馬車でついて行く。
「ここが冒険者ギルドの本部か……壮麗な彫刻が外壁にあしらわれた石造りの巨大な館……いや、砦といった方がいいくらいでかいな」
目の前の冒険者ギルドの本部の館は、この王都が作られた時代と同時代に建てられた古い建物らしい。
「グレイズさん、なんだかみんなピリピリしてるよー。こっちに殺気飛ばしてくる人もいる」
ファーマが周囲からの殺気に対し、耳をピクピクと動かして反応していた。
「わふうう(さっきのイキリおっさんが先に戻ってますからねぇ。臨戦態勢ってことじゃないですか?)」
「この状況、アルマ、きっと涙目」
「あっちはメリーさんとジェネシスさんとメラニアさん乗ってますし、無体な扱いはされないと思いますけど……」
カーラとアウリースも周囲の状況が自分たちを歓迎していないと察して、いつでも戦闘に入れるように身構えていた。
「俺たちは喧嘩しにきたわけじゃないんだからな。そこだけは間違えないように」
「分かっている。ちょっと傲慢になった本部を解体して首を挿げ替えるだけ」
「グレイズさん、また偉くなるんだよねー」
「承知しております。これは喧嘩ではなく、冒険者ギルドの解体的出直しのお手伝いでしたね」
みんな事を荒立てる気満々なのはダメだと思うぞ。
俺は偉くなりたい訳じゃないし、冒険者ギルドの本部のトップに思うところはあるにせよ、実力行使しようとは思わない。
「ふぅ、みんなくれぐれも慎重な行動を頼むぞ」
「「「はーい」」」
「わふうう(グレイズさんが一番慎重に行動した方がいいと思いますがねー)」
「ハク、何か言ったか?」
「わふ(い、いえ! 何も言ってませんから!)」
俺たちはギルドの本部職員の敵意を一身に浴びながら、ハリアーの待つ円卓会議室に通されることになった。
中は巨大な木の円卓に三〇人分ほどの席が設置された大きな部屋であった。
すでに、部屋の中には多くのギルド職員たちが詰めかけており、俺たちが入ると一斉に視線がこちらに向いた。
ジェネシスの情報によれば、王国否定派のギルドマスターは三〇ある支部のうち一五。
今、この場に集っているギルドマスターもまた一五人と見えるので、ハリアーの息のかかった者たちが集められたと見るべきだった。
「ようこそ、ブラックミルズのギルドマスターグレイズ殿。さきほどは色々と行き違いがあったようだが、ここでなら冷静に話し合いができるであろうから、まぁ、席に座り給え」
ハリアーは自分の領域に来たことで、落ち着きを取り戻したらしく、先ほどとは違った態度を見せていた。
はぁ……目深に兜を被っているとはいえ、そろそろ、ジェネシスがこの国の最高主権者である国王だと気づいて欲しいんだが……冒険者ギルドの本部はポンコツ職員だらけか……。
堂々と顔を晒して本部に居るジェネシスだが、誰一人として国王であると感づいていないようで、内心ハラハラしていた。
「そりゃどうも。挨拶はさっきしたから、省略させてもらいますよ。ハリアー殿」
「構わんよ」
ハリアーは不敵な笑みを浮かべて、席に着くように促す。
隣ではジェネシスがその様子をニヤニヤして見ていた。
本当に心臓に悪い会議になりそうだ……。
「それと、これは俺からの老婆心での忠告だが、随行者の中に見知った顔があると思うんだが、態度を改める気はないか?」
俺の言葉にハリアーの顔が引きつるとピクピクと頬が動いていた。
どうやら、ジェネシスに気付いたわけではなく、俺からの挑発だと受け取ったらしい。
マジで鈍感過ぎて胃が痛くなる……よく、そんなんで冒険者ギルドの本部を仕切るギルドマスターになれたな……。
「余計な御託はいいから席に着きたまえ……グレイズ殿」
「ふぅ、どうなっても俺は知らんぞ。忠告はしたからな。恨むなら自分の鈍感さを恨むんだな……」
事態収拾を諦めた俺はドカリと椅子に座った。
その態度を見た王国否定派のギルドマスターたちが色めき立つのが見えた。
揃いも揃って、鈍感なのか、それとも王国憎しで盲目になっているのか、目の前に王が居ることすら見えないとはな……解体されるのも致し方ないか……。
事態収拾を諦めた俺は、隣にいるジェネシスに耳打ちをした。
『俺はもう口は出さん。好きにやっていいが、血が流れないように綺麗にやれる準備は当然してあるんだろ?』
『バッチリっす。ヨシュアからも例の物を入手したので、無血解体は可能っすよ。それと例の人とも繋ぎが取れましたしね』
ジェネシスの冒険者ギルド解体再建計画は出発前から網の目のように張り巡らされていた。
彼が実行すれば、言葉通り、無血で巨大組織である冒険者ギルドが今までの形態崩し、新たな組織として出直すことになるはずだ。
俺はそれを黙って見守ることにした。
「ようやくこれで一六名のギルドマスターが揃い、定数の半分以上の出席ということで臨時の懲戒会議が開催できるようになったな。フフフ、グレイズ殿覚悟はいいな」
何も知らないハリアーが、俺の解任動議を出そうと意気揚々と会議の開催を告げようとしていた。
「ちょっと待った。その前にあんたの解任動議を出させてもらうぜ。ハリアーさんよ」
ジェネシスが一枚の紙を取り出すと、ハリアーに向けて開いて見せた。
この場に居ないギルドマスターたちの連名の告発状兼解任動議賛成書だと思われる。
「な、ななな! 何を言っておるのだ!!! 貴様! 私が解任だと!! 寝言は寝て言え!! 一介の冒険者の癖に何を勘違いしておるのだ!!!」
その瞬間、ハリアーの顔が一瞬で真っ赤に染まり、けたたましく罵声を浴びせてきた。
同調するように王国否定派のギルドマスターたちもジェネシスに対し激高していた。
円卓会議室は喧騒が支配するところとなり、俺はその中でふぅとため息を吐くしかできないでいる。
すると、ジェネシスが円卓の上に昇り、目深に被っていた兜を放り投げた。
「貴様ら!! 余の顔を見忘れたかっ!!」
ジェネシスがそう叫ぶと喧騒に包まれていた円卓会議室の中が一斉に静まり返っていく。
やっと、ジェネシスの正体に気付いたようだけど、もう手遅れなんだよな……。
一応、俺は忠告したぞ。一応な。
「…………!? そ、そその顔は……!?」
その時、背後の扉がバンと開き、ヨシュアとともにむさい男たちが乱入してきた。
「ハリアー、ここにおわす方をどなたと心得る! 現国王ジェネシス・ファルブラウ様であるぞ!! 皆の者、控えよ!!」
「は、ははぁ!!」
ヨシュアの声に気圧されたギルドマスターたちが一斉に床に頭を付けて平伏していった。
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