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#9 発注ミス
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しおりを挟む磯崎美優が営業課のフロアへ向かって歩いていった後も、胸の奥に残るざらつきは拭えなかった。
小さくため息をつき、デスクに戻ってパソコンの画面を見つめる。
キーボードに指を置いたまま、慌ただしく動き回る音をただ聞いていた。
営業課のフロアからは、バタバタと走り回る足音。電話の呼び出し音が途切れることなく鳴り続け、慌ただしい声が廊下まで漏れ聞こえてきた。
商品部の人たちが倉庫の確認に回っているらしく、廊下を行き交う姿が絶えない。誰もが緊張した面持ちで、何かを確認しながら早足で過ぎていく。
オフィスの空気そのものが、ピリピリと張り詰めていた。
(……時間は後少し。商品をかき集めて今から向かってもおそらく間に合わない。)
何か、役に立てることはないか。
指先をキーボードの上で止めたまま、予定表を見つめる。
商品の在庫状況、発注履歴、イベントスケジュール——。
画面に映る文字を、一つ一つ追っていく。
窓の外から、遠くで車のクラクションが聞こえた。
その時だった。
週末のフェスイベントの予定が目に入った。
人気インフルエンサーがトークショーを開催する予定だ。
(確か、今日打ち合わせの予定が——。)
「……あ」
思わず声が出た。
フォロワー数百万人を抱える、若い女性に絶大な人気を誇る人物が、会議室で打ち合わせ中だと気がついた。
(もしかして)
頭の中で、何かが繋がり始めた。
発注ミスで商品が不足している。
新店舗のオープン時間までには間に合わない。
でも——もし、SNSで先にPRイベントを行ったら?
商品到着までの時間を使って、プレゼント企画を立ち上げて、事前に話題を作っておけば——新店舗オープン時には、すでに注目が集まっている状態になる。
つまり、商品不足という「ピンチ」を話題作りの「チャンス」に変えられるかもしれない。
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