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#9 発注ミス
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「課長!」
立ち上がって、課長のデスクへ駆け寄った。
椅子の脚が床を滑る音が、静かなオフィスに響く。
「どうした、花田」
課長は、書類から顔を上げた。疲労の色が濃く滲んでいる。
「週末のフェスイベントで来ているインフルエンサーの方、今日打ち合わせに来てますよね?」
「ああ、確か会議室にいるはずだが」
「その方に協力してもらって、SNSでPRイベントを行うのはどうでしょうか」
課長の目が、わずかに見開かれた。
「PRイベント?」
「はい。商品が新店舗に到着するまで時間がかかります。その間に、SNSでプレゼント企画を立ち上げて、事前に話題を作っておくんです」
言葉が、次々と溢れてくる。
「なるほど……で?」
課長が、顎に手を当てて考え込んだ。窓から差し込む光が、課長の横顔を照らしている。
「フォロワーが数百万人いる方なら、すぐに拡散されます。新店舗オープン時には、すでに大きな注目が集まっている状態になります。発注ミスというマイナスを、話題性というプラスに変えられます」
「確かに……それなら、遅れをカバーできるどころか、逆に盛り上がるかもしれない」
課長の表情が、わずかに明るくなった。深く刻まれた眉間の皺が、ほんの少しだけ緩んだ。
「よし。すぐに営業課に連絡する。花田、お前も一緒に来い」
「はい」
会議室へ向かう廊下の大きな窓から差し込む陽光が、床に長い影を落としている。
会議室の扉をノックすると、中から「どうぞ」という明るい声が聞こえた。
扉を開けると、若い女性が座っていた。
長い髪を肩に流し、洗練されたメイク、おしゃれな服装——。SNSで見たことのある、あの人だった。
会議室のテーブルには、ノートパソコンとスマートフォンが置かれている。
「お忙しいところ失礼します。商品開発課の花田と申します」
「あ、どうも」
インフルエンサーの方は、にこやかに微笑んだ。
課長が、企画の内容を説明し始めた。
私も補足しながら、プレゼント企画の詳細を伝えていく。
新店舗オープンに合わせて、SNSでプレゼント企画を行うこと。
商品が到着するまでの時間を使って、事前に話題を作ること。
フォロワーの反応を見ながら、オープンの盛り上がりを作ること——。
「なるほど……いいですよ。協力します。」
インフルエンサーの方は、目を輝かせた。
「発注ミスというピンチを、逆手に取るんですね。『数量限定』『争奪戦』っていう演出にもなりますし。◯時から販売開始、って拡散するのが良いかも。」
「そうなんです」
「フォロワーも喜ぶと思います。やりましょう」
「本当ですか?」
「はい。今すぐ投稿できますよ」
その言葉に、胸が熱くなった。
「ありがとうございます」
すぐに営業課に連絡を入れた。
『助かります!すぐに商品サンプルを用意します』
電話の向こうで声が、安堵と興奮に満ちていた。
会議室を出ると、課長が私の肩を軽く叩いた。
「よく思いついたな、花田」
「いえ……」
「お前のおかげで、ピンチをチャンスに変えられそうだ」
営業課からクライアントに連絡が行き、先方ものりのりで許可が降りたようで安堵する。
「じゃあ、投稿しますね」
インフルエンサーの方が、スマートフォンを操作した。
数秒後——。
『新店舗オープン記念!豪華プレゼント企画🎁』
投稿が、SNSにアップされた。
すぐに、コメントが殺到し始めた。
「わー!欲しい!」
「応募します!」
「楽しみ!」
次々と、反応が寄せられていく。画面をスクロールしても、コメントが途切れることがない。
「すごい……」
思わず呟いた。
立ち上がって、課長のデスクへ駆け寄った。
椅子の脚が床を滑る音が、静かなオフィスに響く。
「どうした、花田」
課長は、書類から顔を上げた。疲労の色が濃く滲んでいる。
「週末のフェスイベントで来ているインフルエンサーの方、今日打ち合わせに来てますよね?」
「ああ、確か会議室にいるはずだが」
「その方に協力してもらって、SNSでPRイベントを行うのはどうでしょうか」
課長の目が、わずかに見開かれた。
「PRイベント?」
「はい。商品が新店舗に到着するまで時間がかかります。その間に、SNSでプレゼント企画を立ち上げて、事前に話題を作っておくんです」
言葉が、次々と溢れてくる。
「なるほど……で?」
課長が、顎に手を当てて考え込んだ。窓から差し込む光が、課長の横顔を照らしている。
「フォロワーが数百万人いる方なら、すぐに拡散されます。新店舗オープン時には、すでに大きな注目が集まっている状態になります。発注ミスというマイナスを、話題性というプラスに変えられます」
「確かに……それなら、遅れをカバーできるどころか、逆に盛り上がるかもしれない」
課長の表情が、わずかに明るくなった。深く刻まれた眉間の皺が、ほんの少しだけ緩んだ。
「よし。すぐに営業課に連絡する。花田、お前も一緒に来い」
「はい」
会議室へ向かう廊下の大きな窓から差し込む陽光が、床に長い影を落としている。
会議室の扉をノックすると、中から「どうぞ」という明るい声が聞こえた。
扉を開けると、若い女性が座っていた。
長い髪を肩に流し、洗練されたメイク、おしゃれな服装——。SNSで見たことのある、あの人だった。
会議室のテーブルには、ノートパソコンとスマートフォンが置かれている。
「お忙しいところ失礼します。商品開発課の花田と申します」
「あ、どうも」
インフルエンサーの方は、にこやかに微笑んだ。
課長が、企画の内容を説明し始めた。
私も補足しながら、プレゼント企画の詳細を伝えていく。
新店舗オープンに合わせて、SNSでプレゼント企画を行うこと。
商品が到着するまでの時間を使って、事前に話題を作ること。
フォロワーの反応を見ながら、オープンの盛り上がりを作ること——。
「なるほど……いいですよ。協力します。」
インフルエンサーの方は、目を輝かせた。
「発注ミスというピンチを、逆手に取るんですね。『数量限定』『争奪戦』っていう演出にもなりますし。◯時から販売開始、って拡散するのが良いかも。」
「そうなんです」
「フォロワーも喜ぶと思います。やりましょう」
「本当ですか?」
「はい。今すぐ投稿できますよ」
その言葉に、胸が熱くなった。
「ありがとうございます」
すぐに営業課に連絡を入れた。
『助かります!すぐに商品サンプルを用意します』
電話の向こうで声が、安堵と興奮に満ちていた。
会議室を出ると、課長が私の肩を軽く叩いた。
「よく思いついたな、花田」
「いえ……」
「お前のおかげで、ピンチをチャンスに変えられそうだ」
営業課からクライアントに連絡が行き、先方ものりのりで許可が降りたようで安堵する。
「じゃあ、投稿しますね」
インフルエンサーの方が、スマートフォンを操作した。
数秒後——。
『新店舗オープン記念!豪華プレゼント企画🎁』
投稿が、SNSにアップされた。
すぐに、コメントが殺到し始めた。
「わー!欲しい!」
「応募します!」
「楽しみ!」
次々と、反応が寄せられていく。画面をスクロールしても、コメントが途切れることがない。
「すごい……」
思わず呟いた。
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