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#10 社内恋愛禁止
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しおりを挟む仕事が落ち着いた頃、時計の針はすでに12時を少し回っていた。
オフィスの空気は、ようやく朝の緊張から解放されたように緩んでいる。
デスクでコンビニのたまごサンドを広げ、スマートフォンでSNSの反応を確認していると、投稿のコメント欄は相変わらず盛り上がっていた。
「すごい……」
小さく呟きながら画面をスクロールしていると、不意に影が差した。
「花田さん」
聞き慣れた声に、思わず顔を上げる。
田上さんが、私のデスクの前に立っていた。
爽やかな笑顔を浮かべ、軽くネクタイを緩めた姿は、いつもより少しだけラフに見える。
「田上さん!お疲れ様です。大変でしたね。」
咄嗟にスマートフォンを伏せ、姿勢を正した。
心臓が、急に息を吹き返したみたいに暴走を始める。
「お疲れ様。機転をきかせてくれて助かったよ」
「いえ……たまたま思いついただけで」
謙遜しながら視線を落とすと、田上さんは少しだけ身を乗り出すように言った。
「花田さんがいてくれてよかった。」
「そんな……」
照れ隠しに、ジュースのストローをくるくると回した。
田上さんは目尻に皺を寄せて優しく笑い、一瞬だけ周囲を見渡してから、声のトーンを落として続けた。
「ね、今から少し時間ある?」
「え……?」
「一緒に昼ごはん、食べない?」
その言葉に慌てて回りを見まわした。
「で、でも……私、もう食べちゃったので」
慌てて手元のたまごサンドを指差すと、田上さんはクスッと笑った。
「それ、まだ半分残ってるじゃん。俺もまだだし、一緒に食べようよ」
「……」
断る理由が見つからない……というより、正直に言えば——断りたくなかった。
けれど、周囲の視線が気になる。
自意識過剰かもしれないけれど、ちらりとフロアを見渡せば、何人かがこちらをちらちらと見ている気がした。
「あの……目立ちませんか?」
小さな声で尋ねると、田上さんは軽く肩をすくめた。
「気になる?別にみんなにばれても平気だけど」
「……うちは社内恋愛禁止ですよ。」
「えー。そっか、残念。」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
その笑顔に、抗う気力が削がれていく。
「ごほんっ……わかりました」
小さく咳払いをして頷くと、田上さんの表情がぱっと明るくなった。
「じゃあ、5分後にエントランスね」
「はい……」
彼が軽やかに立ち去っていくのを見送りながら、私は静かに息を吐いた。
胸の奥が、じんわりと温かくなっている。
サンドイッチの残りをパックに戻して蓋をすると、鏡代わりにスマートフォンの画面を見て前髪を整えた。
リップを塗り直してもう一度スマホの画面で確認すると、エントランスに向かった。
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