恋が温まるまで

yuzu

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#10 社内恋愛禁止

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 エントランスに降りると、すでに田上さんが待っていた。
 外の景色を眺めている彼の横顔が、柔らかい昼の光に照らされている。

「お待たせしました」

 声をかけると、彼が振り返って笑顔を向けた。
 並んで歩き始めると距離が近すぎて、緊張する。

 肩が触れそうなほどの距離に、心臓が静かに跳ねた。

 駅前の雑踏を抜け、少し奥まった路地に入ると、白い外壁の小さなカフェが見えてくる。

「ここ、穴場なんだよね。」

 田上さんが扉を開けると、コーヒーの香りと静かなBGMが迎えてくれた。

 店内は落ち着いた雰囲気で、どこか懐かしさが漂っている。

 窓際の席に案内され席に着くとすぐ、田上さんは子供みたいに目を輝かせてメニュー表を開いた。

「何にする?」

 メニューを見ながら尋ねる田上さんに、私は少し迷ってから答えた。

「じゃあ……えっと」

 田上さんが目を輝かせた理由がわかった。
 メニュー表の写真はどれもすごく美味しそうだし、品揃えが豊富で迷ってしまう。

「じゃあ、俺はハンバーグピラフ。」
「ハンバーグピラフ?」
「単純に、ピラフにハンバーグが乗っかってるんだけど、お子様ランチみたいなんだよね。」

 田上さんが指差した写真をみると、本当にピラフの上にデミグラスソースのハンバーグが乗っかっていて、旗まで刺してある。

 他に、カニクリームコロッケピラフとか、エビフライピラフなんかもあって、なんだかわくわくしてきた。

「じゃあ、私はカニクリームコロッケピラフで。」

 注文を済ませると、店員さんが水を置いて去っていった。

 静かな店内に、ふたりきり。
 どこか気恥ずかしくて、視線を窓の外に逃がした。

「……今朝のこと、正直ちょっと残念だったな」

 田上さんが口を開いた。

「え……?」
「磯崎さんが営業課に来たとき、正直『あれ?』って思った。花田さんが来ると思ってたから」
 
その言葉に、胸がチクリと痛んだ。

「……課長が、彼女を指名したので」
「不謹慎だけどさ。企画課から応援を呼ぶって聞いて、花田さんと仕事できるかもって期待した。」

"私もです"なんて言えなくて、赤くなった頬を隠すように俯いてしまった。

「もしかして、照れた?」
「……っ」

 思わず顔を上げると、彼は少しだけいたずらっぽく微笑んでいた。

「からかわないでください……」

 そのとき、店員さんがピラフを運んできた。

「お待たせしました」

 湯気の立つ皿が、テーブルに置かれる。

 デミグラスソースの香りが、ふわりと広がった。

「いただきます」

 ふたりで手を合わせ、フォークを手に取る。
 口に運ぶと、優しい酸味と旨味が舌の上で溶けた。

「んっ……おいしい」
「でしょ?ここ、お気に入りなんだ」

 田上さんが嬉しそうに笑う。

「よく来るんですか?」
「たまにね。疲れた時とか、ひとりでふらっと来ることが多いかな。」
「いいですね、ふっと肩の力が抜ける場所があるって。」

 田上さんは何も言わず、静かに微笑んだ。

 その沈黙は不思議と居心地が良かった。

  
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