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#10 社内恋愛禁止
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カフェの柔らかな照明が、午後の静かなひとときを包み込んでいた。ランチタイムの名残が、周囲にゆるやかに漂っている。
「そろそろ戻らなきゃ」
そう言って腰を浮かせたその瞬間、テーブルの下でふいに腕を取られた。
驚いて目を落とすと、田上さんの手が、私の手首をそっと包んでいる。
「もう少し」
抑えた声が耳に届いた。
思わず目を逸らし、熱を帯びた頬を隠すように俯く。
カーディガンの端を無意識に握りしめる。
「午後からも忙しい?」
声だけは穏やかなのに、その眼差しはどこか探るようで、落ち着かない。
私は少し遅れて、言葉を選ぶように答えた。
「あ……はい。まだ、片付けきれていないことがいくつか……」
そう言いながら、自然と視線が合う。
彼のまなざしに包まれると、背筋がわずかに伸びるのを感じた。
否応なく意識してしまうのが、悔しいような、くすぐったいような。
「俺も。」
田上さんの手が、私の手のひらへと滑り、指先で人差し指をなぞるように撫でた。
そのわずかな接触に、身体がぴくりと跳ねる。
胸の奥が、さざ波のように揺れた。
目を見開いて彼を見返すと、田上さんはまるで飼い猫でもあやすみたいに柔らかな笑みを浮かべていた。
余裕があって、優しくて――ずるい。
「今日は……あの、良いお店教えてくれてありがとうございました。」
慌てて立ち上がり、必要以上に丁寧な会釈をして逃げ出そうとすると、田上さんの指が、まだ私の手を離していなかった。
一瞬、戸惑いが走る。
けれど、彼はそのまま、名残惜しそうに言った。
「まだ一緒にいたかったけど……時間か。」
心臓が大きく脈を打った。
耳の奥が熱くなり、思わず指先で髪を耳にかけて誤魔化す。
"お試し期間中の恋人"って事に、初めて実感した気がした。
「そろそろ戻らなきゃ」
そう言って腰を浮かせたその瞬間、テーブルの下でふいに腕を取られた。
驚いて目を落とすと、田上さんの手が、私の手首をそっと包んでいる。
「もう少し」
抑えた声が耳に届いた。
思わず目を逸らし、熱を帯びた頬を隠すように俯く。
カーディガンの端を無意識に握りしめる。
「午後からも忙しい?」
声だけは穏やかなのに、その眼差しはどこか探るようで、落ち着かない。
私は少し遅れて、言葉を選ぶように答えた。
「あ……はい。まだ、片付けきれていないことがいくつか……」
そう言いながら、自然と視線が合う。
彼のまなざしに包まれると、背筋がわずかに伸びるのを感じた。
否応なく意識してしまうのが、悔しいような、くすぐったいような。
「俺も。」
田上さんの手が、私の手のひらへと滑り、指先で人差し指をなぞるように撫でた。
そのわずかな接触に、身体がぴくりと跳ねる。
胸の奥が、さざ波のように揺れた。
目を見開いて彼を見返すと、田上さんはまるで飼い猫でもあやすみたいに柔らかな笑みを浮かべていた。
余裕があって、優しくて――ずるい。
「今日は……あの、良いお店教えてくれてありがとうございました。」
慌てて立ち上がり、必要以上に丁寧な会釈をして逃げ出そうとすると、田上さんの指が、まだ私の手を離していなかった。
一瞬、戸惑いが走る。
けれど、彼はそのまま、名残惜しそうに言った。
「まだ一緒にいたかったけど……時間か。」
心臓が大きく脈を打った。
耳の奥が熱くなり、思わず指先で髪を耳にかけて誤魔化す。
"お試し期間中の恋人"って事に、初めて実感した気がした。
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