恋が温まるまで

yuzu

文字の大きさ
29 / 60
#11 田上さんが家に来る

1

しおりを挟む
 数日が経った金曜、終業時刻からすでに30分。

 オフィスのざわめきがひと段落ついたころ。私はデスクに向かい、スマートフォンのメール画面を凝視していた。

 田上さん宛てにメッセージを作成し始めて15分が経つ。

 なのに、どの言葉を綴っても指先が途中で止まってしまう。

『この間のお礼に、食事でもいかがですか?』
『突然すみません。もしお時間あれば……』
『先日のお礼をさせていただきたくて』

 何度も打ち直しては……

 ——急すぎるかもしれない。
 ——重く思われたらどうしよう。
 ——そもそも、迷惑じゃない?

 文字を作成しては削除を繰り返す。

 デスクに頬杖をついて悩んでいれば、数人が「お先です」と声をかけながら背後を通り過ぎていった。

 慌ててスマホを伏せながら「お疲れ様でした」と返事を返す。

 そして無意味に机の上を布巾で拭きながら、自分の落ち着かなさに気づいた。

 隣では、あの日から不機嫌な磯崎美優が無言でキーボードを叩き続けている。 
 
 もちろん、不機嫌なのは私の前だけで、相変わらず彼女は周りに愛想を振り撒いている。

 最後の書類をロッカーにしまい、軽く課長へ挨拶を済ませてオフィスを後にした。

 ひんやりとした外の空気に、スマホの振動音が響く。

 取り出して画面を見ると――通知が一件。送信元は田上さん。

「じゃあ、美亜の手料理が食べたいな。」
「……じゃあ……って」

 胸が大きくはずむ。

「え?まさか私……え?」

 慌ててメールアプリを開くと、送信済みフォルダに、私が消したはずの文面が残っていた。

『この間のお礼に、今夜食事でもどうですか?』

 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

会長にコーヒーを☕

シナモン
恋愛
やっと巡ってきた運。晴れて正社員となった私のお仕事は・・会長のお茶汲み? **タイトル変更 旧密室の恋**

恋が難しいなんて聞いてない

yuzu
恋愛
 後日記載

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...