28 / 37
#10 社内恋愛禁止
3
しおりを挟む
カフェの柔らかな照明が、午後の静かなひとときを包み込んでいた。ランチタイムの名残が、周囲にゆるやかに漂っている。
「そろそろ戻らなきゃ」
そう言って腰を浮かせたその瞬間、テーブルの下でふいに腕を取られた。
驚いて目を落とすと、田上さんの手が、私の手首をそっと包んでいる。
「もう少し」
抑えた声が耳に届いた。
思わず目を逸らし、熱を帯びた頬を隠すように俯く。
カーディガンの端を無意識に握りしめる。
「午後からも忙しい?」
声だけは穏やかなのに、その眼差しはどこか探るようで、落ち着かない。
私は少し遅れて、言葉を選ぶように答えた。
「あ……はい。まだ、片付けきれていないことがいくつか……」
そう言いながら、自然と視線が合う。
彼のまなざしに包まれると、背筋がわずかに伸びるのを感じた。
否応なく意識してしまうのが、悔しいような、くすぐったいような。
「俺も。」
田上さんの手が、私の手のひらへと滑り、指先で人差し指をなぞるように撫でた。
そのわずかな接触に、身体がぴくりと跳ねる。
胸の奥が、さざ波のように揺れた。
目を見開いて彼を見返すと、田上さんはまるで飼い猫でもあやすみたいに柔らかな笑みを浮かべていた。
余裕があって、優しくて――ずるい。
「今日は……あの、良いお店教えてくれてありがとうございました。」
慌てて立ち上がり、必要以上に丁寧な会釈をして逃げ出そうとすると、田上さんの指が、まだ私の手を離していなかった。
一瞬、戸惑いが走る。
けれど、彼はそのまま、名残惜しそうに言った。
「まだ一緒にいたかったけど……時間か。」
心臓が大きく脈を打った。
耳の奥が熱くなり、思わず指先で髪を耳にかけて誤魔化す。
"お試し期間中の恋人"って事に、初めて実感した気がした。
「そろそろ戻らなきゃ」
そう言って腰を浮かせたその瞬間、テーブルの下でふいに腕を取られた。
驚いて目を落とすと、田上さんの手が、私の手首をそっと包んでいる。
「もう少し」
抑えた声が耳に届いた。
思わず目を逸らし、熱を帯びた頬を隠すように俯く。
カーディガンの端を無意識に握りしめる。
「午後からも忙しい?」
声だけは穏やかなのに、その眼差しはどこか探るようで、落ち着かない。
私は少し遅れて、言葉を選ぶように答えた。
「あ……はい。まだ、片付けきれていないことがいくつか……」
そう言いながら、自然と視線が合う。
彼のまなざしに包まれると、背筋がわずかに伸びるのを感じた。
否応なく意識してしまうのが、悔しいような、くすぐったいような。
「俺も。」
田上さんの手が、私の手のひらへと滑り、指先で人差し指をなぞるように撫でた。
そのわずかな接触に、身体がぴくりと跳ねる。
胸の奥が、さざ波のように揺れた。
目を見開いて彼を見返すと、田上さんはまるで飼い猫でもあやすみたいに柔らかな笑みを浮かべていた。
余裕があって、優しくて――ずるい。
「今日は……あの、良いお店教えてくれてありがとうございました。」
慌てて立ち上がり、必要以上に丁寧な会釈をして逃げ出そうとすると、田上さんの指が、まだ私の手を離していなかった。
一瞬、戸惑いが走る。
けれど、彼はそのまま、名残惜しそうに言った。
「まだ一緒にいたかったけど……時間か。」
心臓が大きく脈を打った。
耳の奥が熱くなり、思わず指先で髪を耳にかけて誤魔化す。
"お試し期間中の恋人"って事に、初めて実感した気がした。
10
あなたにおすすめの小説
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
歩く15億の花嫁~契約婚約から始まるオフィス・シンデレラ~
YOR
恋愛
恋愛経験ゼロの女性×三人の男たち。じっくりと心の変化を描く、じれキュン・スローストーリー。
亡き祖父の遺言により、巨大財閥の氷の御曹司・神谷瑛斗の「担保」として婚約させられた水野奈月。
自分を守るために突きつけたのは、前代未聞のルールだった。「18時以降は、赤の他人です」
「氷」の独占欲:冷酷な次期当主、神谷瑛斗。
「太陽」の甘い罠:謎めいた従兄弟、黒瀬蓮。
「温もり」の執着:庶民の幼馴染、健太。
「影」の策略:瑛斗を狂信的に愛する、佐伯涼子。
四人の想いと財閥の闇が渦巻く、予測不能な権力争い。
恋を知らない不器用な女性が、最後に選ぶ「本当の愛」とは――。
※完全にフィクションです。登場企業とは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
好きだから傍に居たい
麻沙綺
恋愛
前作「ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)」の続編です。
突如として沸いた結婚話から学校でのいざこざ等です。
まぁ、見てやってください。
※なろうさんにもあげてあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる