隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

文字の大きさ
27 / 27
第5章

これから先もずっと②

しおりを挟む
「まさか彗の彼女であるあなたが、葵が川で助けた女の子だったなんて……」

彗くんのお父さんの瞳に、影が差す。

お父さん、最初に私が挨拶をしたときは彗くんとのことを認めてくれたけど……。

もしかして、蓮くんから私と葵くんの話を聞いて、気が変わったのかな?

やっぱり、交際は反対されちゃうの?

そう思うと、急に怖くなった。

でも、自分と彗くんのことを案ずるよりもまずは……。

「謝って済む問題ではありませんが、葵くんの件は本当にすみませんでした」

とにかく先に謝らなきゃと思った私は、彗くんのご両親に向かって深々と頭を下げた。

「謝罪が遅くなってすいません。私があのとき川で溺れてしまったせいで、葵くんが川に入ることになってしまって……」

私はご両親の顔を見るのが怖くて、頭を上げられない。

足もガクガクと震えてしまう。

頭を下げたまま、どれほどの時間が経ったのだろうか。

「……菜乃花さん、顔を上げてちょうだい」

彗くんのお母さんが、私に優しく声をかけてくれた。

「私たちは別に、あなたを責めたい訳じゃないのよ?」
「そうだ。葵のことは、気にしなくて良い」
「でも……」

思いのほか柔らかな表情のご両親に、私は唇を噛みしめる。

「長男は生まれつき心臓が悪くて、20歳まで生きられないかもしれないと、医者から言われていたんだ。亡くなった当時も心臓の機能低下がかなり進んでいて、あと数ヶ月の命だろうと言われていたんだ」
「だからあの当時、親である私たちもある程度の覚悟はできていたのよ」

ご両親は、そう言って下さるけど。あのとき私が溺れたりしなければ、もしかしたら葵くんは1日でも長く生きられたかもしれないのに。

「私は、人助けをした息子が誇りだ。人が川で溺れているのを見て見ぬフリをするような人間ではなく、優しい息子で本当に良かったと思ってるよ」
「そうね。夫の言うとおりよ。だから、菜乃花さん。どうか気にしないで」

お二人が、私に向かって微笑んでくれる。

「ただ、これだけは言わせてくれる?」

彗くんのお母さんが、私を真剣な眼差しで見つめる。

「これは、あの子の親としての願いだけど。できることなら……長男のことはこれからもずっと忘れないであげて欲しいの」
「はい。もちろんです。葵くんに助けてもらった恩は、一生忘れません」
「ありがとう、菜乃花さん」

少し涙ぐむお母さんを見て、私の視界もじわりとゆがんだ。

「菜乃花はもう一人じゃない。これからは俺と二人で一緒に、兄貴の分まで生きていこう」
「はいっ」

優しく微笑む彗くんに、私は大きく頷いた。

「菜乃花さん、これからも彗のことをよろしく頼むよ」

お父さんは私の肩をポンと叩くと、お母さんと並んで歩いて行った。

「ありがとうございます」

歩いて行くご両親の背中を見つめながら、私はもう一度頭を下げた。

「……菜乃花ちゃん」

私の背中に向かって、後ろから小さく声がかかる。

その声の主は……蓮くん。

蓮くんとこうして会って話すのは、蓮くんが髪飾り騒動の黒幕だったと彗くんから聞いて以来、初めてだ。

「ごめん、菜乃花ちゃん!」

蓮くんは、私が振り返ってすぐに頭を下げた。

「まさか、水が苦手な菜乃花ちゃんがプールに入るとは思わなくて。キミが溺れたって彗から聞いて……ひどいことをしたって反省した」
「蓮くん……」
「ただ謝ってすむ問題じゃないだろうけど」

蓮くんが、申し訳なさそうに肩を落とす。

「ほんとだよ。私だけならまだしも、実の兄である彗くんまで危険な目に遭わせて」
「そう、だよね」
「蓮くんのしたことは、簡単に許せることじゃない。でも……」

私は、隣の彗くんをチラリと見やる。

「蓮くんのことは、心から嫌いにはなれないよ。だって蓮くんは……葵くんと彗くんの弟だから」

二人にとって大切な人を恨むだなんて。そんなことはできない。

蓮くんだって、お兄さんのことがなければ、あんなことはしなかっただろうし。

そして何より、蓮くんは本当は優しい人だってことを私は知ってるから。

「菜乃花ちゃん……ありがとう」

蓮くんの目元が、キラリと光った。

「これからはもう二度と、誰かを傷つけるようなことはしないで欲しい」
「分かった。これからは両親と葵兄ちゃんがつけてくれた、僕たちの名前の由来の『睡蓮』の花言葉にもあるように、優しい清純な心の持ち主になれるように頑張るよ」

そう力強く言い切った蓮くんに、私はニコッと微笑んだ。

* *

あとから、彗くんが私に教えてくれた。

双子のスイくんとレンくん、二人の名前を合わせると、お花の『睡蓮』になるらしい。

睡蓮の花言葉は、「信頼」「優しさ」「清純な心」

池に咲く睡蓮の花にたとえて、育つ場所は違えど、二人とも三池家の大切な子どもには変わりない。

三池家と速水家で、それぞれ離れていても二人でひとつ。

お互いに信頼し合い、優しい子に育って欲しいとの願いを込めて、名付けられたんだとか。


「へえ。すごく、素敵な名前だね」

彗くんから初めて名前の由来を聞いた私は、感嘆の声をもらす。

彗くんの名前の由来も、私と一緒で花からなんだ。

そんな小さな共通点ですら、嬉しく思ってしまう。

私たちは今、パーティーを抜け出して、二人でホテルのお庭を歩いている。

『せっかく両想いになったんだから。菜乃花と二人で過ごしたい』って、彗くんに言われたんだよね。

「菜乃花、足は大丈夫?」
「うん、平気だよ」

慣れないヒールを履いているからか、私を気づかって、ゆっくりと歩いてくれる彗くん……優しいな。

ドレスのスカートの裾が、ふわりと吹いた風に揺れる。

「ねえ、菜乃花」
「なに?」

手を繋いで隣を歩く彗くんが、私をじっと見つめてくる。

「……好きだよ」
「きゅ、急にどうしたの?」

彗くんのストレートな言葉に、頬が火照っていく。

「今、伝えたくなったから」

彗くんの顔が近づき、彼の唇が私のおでこにチュッと軽く触れた。

「す、彗くん!?」
「ちなみに、さっきのパーティーでの言葉は、嘘じゃないから」
「え?」
「菜乃花は……俺が一生大切にしたいなって思えた、唯一の女の子だよ」
「っ!」

あまりにも整ったきれいな顔で言われて、鼓動が大きく跳ねた。

「今もこれから先も、それだけは変わらない。だから……これからもずっと、俺の隣にいてくれる?」
「うん」

高鳴った鼓動がまだ落ち着かないなか、私は首を縦に振った。

「私もずっと、彗くんと一緒にいたい」

素直に想いを伝えると、彗くんに力いっぱい抱きしめられた。

「これからもずっと、彗くんのことは私に守らせてね」
「それはダメ。菜乃花に危険が及ぶのが嫌で、ボディーガードは終了させたっていうのに……」

彗くんの私を抱きしめる腕に、力がこもる。

「これからは守られるんじゃなく、俺が菜乃花のことを守る。だって、菜乃花は俺の……大事な彼女だから」

『大事な彼女』

その言葉が嬉しくて、胸の奥がじわりと温かくなる。

「それじゃあ、お互いさまってことで」

これからは持ちつ持たれつ。お互いに守り、守られながら、毎日を大切に生きていこう。

彗くんと、二人で一緒に。

「ねえ、彗くん……大好きだよ」
「どうした? 突然」
「さっきの好きのお返し」
「そっか……俺も、菜乃花が大好きだ」

彗くんがおでこを、私のおでこにコツンと合わせた。

そして互いに微笑み合うと、どちらからともなく唇を重ねる。

彗くんとの初めてのキスは、甘くて。尋常じゃないくらいに、胸がドキドキした。

これまで、色々なことがあったけれど。

今、大切で大好きな人の隣にいられる喜びを噛みしめながら、私は彗くんといつまでも寄り添っていた。

END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

小鳥

水翔
絵本
小鳥と少女の物語

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...